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2019年度 研究成果報告集

平成30年度
精神薬療分野 一般研究者助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
赤嶺 由美子
アブストラクト
研究報告書
秋田大学医学部附属病院
薬剤部
クロザピン活性代謝物血中濃度測定の臨床的意義に関する研究100
クロザピン(CLZ)血中濃度と副作用発現との関連が示されているが,活性代謝物濃度との関連は不明である。そこで,本研究は活性代謝物であるN-デスメチルクロザピン(N-CLZ)血中濃度と副作用発現との関連について検討した。CLZを用いて治療抵抗性統合失調症の治療を行う患者58名を対象とし,合計480検体の血液サンプルを収集した。CLZ投与量とCLZ血中濃度ならびにN-CLZ血中濃度との間には相関が認められた。一方で,CLZ,N-CLZともに同一投与量間におけるCV値は大きいことが示された。N-CLZ血中濃度と好中球数,白血球数,ならびに投与前後の好中球・白血球数変化率との間に有意な相関は認められなかった。本研究においては血球検査値と血中濃度間に相関は認められず,無顆粒球症を血中濃度から予測することは困難である可能性が示唆された。N-CLZの血中濃度測定意義については今後更なる検討が必要である。
新井 誠
アブストラクト
研究報告書
東京都医学総合研究所
精神行動医学研究分野 
統合失調症プロジェクト
統合失調症の糖化ストレスに対する脆弱性とレジリエンス修飾要因の探求100
糖化ストレス研究は、糖尿病、肥満、動脈硬化や心血管障害、さらには骨疾患など、身体疾患の病態リスク因子として精力的に行われてきた。我々は、統合失調症、双極性障害、うつ病、初発エピソードを含む症例での、糖化マーカー分析から病態の予後予測に有用な幾つかの指標を同定し、これら糖化マーカーの組み合わせからなるプロファイルが疾患群及び健常者群を判別できること、患者ごとの薬物療法の違いとも対応していることを見出してきた。しかし、統合失調症の糖化ストレスに対する脆弱性とレジリエンスにいかなる摂取栄養素などが関与するのか、その詳細は不明である。本研究では、ビタミンB6動態が如何にマウス個体レベルでのその行動変容へ影響するのかを解明することを目的とした。その結果、ビタミンB6欠乏は、脳内ノルアドレナリン神経伝達の障害を介し、社会性行動障害および認知機能障害への脆弱性をもたらしていることが示唆された。
井上 猛
アブストラクト
研究報告書
東京医科大学大学院医学研究科
精神医学分野
気分障害発症に及ぼす遺伝、性格、小児期虐待、ライフイベントの多因子相互作用100
本研究では、健常者群とうつ病群において、小児期の虐められた体験(以下、虐め体験)が神経症的傾向を媒介因子として、成人期以降のうつ症状やうつ病の有無に影響を与えていると仮説を立て、パス解析によってそれを検証した。うつ病群、健常者群をあわせた432人を対象として、現在のうつ症状を目的変数、年齢、小児期の虐め体験、神経症的傾向を説明変数としたパス解析を実施した。うつ病群、健常者群共に、小児期の虐め体験からうつ症状への直接効果は有意ではなかったが、神経症的傾向を介した間接効果は有意であった。うつ病群、健常者群をあわせた432人を対象として、うつ病の有無を目的変数、年齢、小児期の虐め体験、神経症的傾向を説明変数としたパス解析を実施した。小児期の虐め体験からうつ病の有無への直接効果と神経症的傾向を介した間接効果は有意であった。両解析で虐め体験の効果は年齢の影響を受けていなかった。
岩田 仲生
アブストラクト
研究報告書
藤田医科大学医学部
精神神経科学講座
双極性障害をハブとした遺伝的相関解析100
多くの精神疾患の病態生理には遺伝要因が深く関与しており、特に全ゲノム関連解析(GWAS)は感受性遺伝子を同定している。しかし、その効果量は小さく、臨床応用には距離がある一方、個々の遺伝子多型のみではなく、GWASで決定された数十万個のSNPs全体で遺伝的相関を検討する方法も開発され、表現型間の「関連」共通性を検討する方法論として定着している。
本研究では、日本人双極性障害を中心に、統合失調症・うつ状態GWASの精神疾患データ、および他の身体疾患・血液データの遺伝的相関を検討した。その結果、BMIでは、統合失調症と双極性障害でBMIが有意に低い関係性が見いだされたが、免疫系疾患を始めとする他の形質/疾患では有意な関連を同定できなかった。
本研究では、精神疾患GWASでの検出力の問題で偽陰性を示している可能性は否定できず、今後もサンプル数拡大を図りつつ、このような新たな遺伝的解析を実施することが重要である。
大久保 善朗
アブストラクト
研究報告書
日本医科大学大学院
精神行動医学分野
セロトニン1B受容体イメージングを用いた電気けいれん療法の作用機序に関する研究100
うつ病の病態および治療におけるセロトニン1B受容体の役割が注目を集めている。電気けいれん療法(ECT)は難治性うつ病に対する効果的な治療の一つであるにもかかわらず、その作用機序は未だ明らかでない。本研究では、ECTの適応となったうつ病患者11例を対象に、ECT前後で [11C]AZ10419369を用いたPET検査を行い、各脳領域におけるセロトニン1B受容体結合能を比較した。その結果、海馬および右側坐核においてセロトニン1B受容体結合能の有意な増加を認めた。さらに脳幹部においては結合能が増加する傾向が認められた。一方で、前部帯状回においては有意な変化を認めなかった。以上から、うつ病に対するECT療法におけるセロトニン1B受容体の関与が示唆された。セロトニン1B受容体と抗うつ効果、症状や経過との関連をさらに検討することによって、うつ病の病態や治療機序の解明に結びつく可能性がある。
大橋 俊孝
アブストラクト
研究報告書
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
分子医化学分野
神経糖鎖マトリックス(PNN)形成不全マウスによる統合失調症発症要因の検証100
思春期にかけて大脳皮質PVニューロンに顕著に形成されるペリニューロナルネット(PNN)は,細胞外マトリックスにより形成され、その主要な成分はAggrecanである。申請者は、思春期にかけて形成され、シナプスの安定化・酸化ストレス保護効果など複合機能 を持つ神経糖鎖マトリックス(PNN)の機能に着目し、PNN形成の障害・遅延が神経発達障害を招き、統合失調症発症につながるのではないかと考え、PNN形成不全マウスにてその仮説を検証した。
統合失調症のエンドフェノタイプとして最もよく用いられるプレパルス・インヒビション(PPI)実験において、両群間に有意差は認められなかった。しかしながら、PNNの主要構成分子であるAggrecanの欠損が他のPNN構成タンパク質発現レベルをも低下させたことは注目すべき結果である。GABA神経伝達関連遺伝子の発現異常が起こるか未検証であることなど課題を残した。
尾崎 紀夫
アブストラクト
研究報告書
名古屋大学大学院医学系研究科
細胞情報医学専攻脳神経病態制御学講座
精神医学・親と子どもの心療学分野
自閉スペクトラム症(ASD)多発家系のエクソーム解析:ASD間で共有する変異同定100
ASD多発家系内で発症に強く関連する変異を同定するため、1) ASDと健常対象者のエキソームデータを用いたケースコントロール解析(ASD266名、健常対照者299名)、2) 1)により同定されたASD発症関連ゲノム変異に関してASD多発家系内(ASD多発17家系71名に対してエキソーム解析を実施)における連鎖状況の評価、を実施した。その結果、1) ASDケースコントロール研究により、脆弱X症候群の原因遺伝子であるFMR1遺伝子がコードするFMRP(RNA結合蛋白質)が標的とする遺伝子群(FMRP関連遺伝子群)に存在し、かつ頻度が1%未満の機能喪失変異(LOF変異)の数が、健常対照者より優位に多く存在することが判明した(p-value = 0.01)。2) 1)で同定したFMRP関連遺伝子群のLOF変異のうち、WDR6がASD多発家系内において、ASD間で共有されていることが判明した。
小田垣 雄二
アブストラクト
研究報告書
埼玉医科大学
神経精神科・心療内科
麻薬依存症患者死後脳における各種受容体を介する三量体G蛋白機能活性化反応の検討100
背外側前頭前野皮質より調整した膜標品を用いた。対象は、40例の精神神経疾患のない対照者(第Ⅰ群)と、麻薬依存症者20例と対象者20例からなる第Ⅱ群である。膜標品における[35S]GTPgammaS結合を2つの方法を用いて行った。①吸引濾過法、②[35S]GTPgammaS binding/immunoprecipitation assay。第1群においては、mu-、delta-、kappa-opioid受容体を介するGi/oの機能的活性化を含め、多くの受容体刺激を介したG蛋白活性化反応を検出することができた。このうち、mu-およびdelta-opioid受容体を介したGi/oの活性化反応は年齢に伴って増加していた。また、これらの受容体を介した反応は、いくつかの他の受容体を介した反応と相関していた。第Ⅱ群での解析のうち、これまで得られた結果では、5-HT2A受容体を介するGalpha(q/11)の活性化反応において、麻薬依存症者群では対症群に比し、その最大反応が有意に低下し、また濃度反応曲線が有意に右方にシフトしていた。
坂根 郁夫
アブストラクト
研究報告書
千葉大学大学院理学研究院
化学研究部門生体機能化学研究室
ジアシルグリセロールキナーゼδのセロトニン神経系・強迫性障害発症制御の分子機構100
ジアシルグリセロール(DG)キナーゼ(DGK)δによるセロトニントランスポーター(SERT)の不安定化機構を探り,以下の結果が得られた.DGKδのC4aとCC領域がSERTのC末細胞質領域に結合した.DGKδはその触媒活性依存的にSERTのユビキチン(Ub)化と分解を促進した.DGKδはE3ユビキチン-リガーゼであるPraja-1とアダプタータンパク質MAGE-D1と相互作用し,Ub−プロテアソーム系を介して分解を促進した.脳内でDGKδは選択的に18:0/22:6-DGをリン酸化してホスファチジン酸(PA)を産生した.18:0/22:6-PAが選択的にPraja-1に結合して,そのE3 Ubリガーゼ活性を促進した.以上から,DGKδが産生する18:0/22:6-PAがPraja-1を活性化してSERTをUb化し,プロテアソーム系を介してSERTの分解を促進すると考えられた.
佐藤 正晃
アブストラクト
研究報告書
埼玉大学
脳末梢科学研究センター
バーチャル環境下の機能イメージングで解明する自閉症マウスの微小回路病態100
本研究は、自閉スペクトラム症(ASD)モデルマウスの一つであるShank2欠損マウスが頭部固定バーチャルリアリティ環境下で空間学習するときの海馬神経回路活動を二光子カルシウムイメージングで可視化した。報酬と視覚的手がかりが別々の場所に提示されたバーチャル直線路課題を遂行中の回路活動をイメージングすると、正常マウスでは訓練が進むに従って視覚的手がかりの場所をコードする細胞の割合が増加したが、Shank2欠損マウスではこの増加が起こらなかった。またShank2欠損マウスでは、報酬場所をコードする細胞の増加が正常マウスよりもさらに亢進していた。これらの結果から、報酬と視覚的手がかりという2種類の情報の表現は、Shank2依存性の異なる別々の分子メカニズムによって起こると考えられた。本研究の成果は、臨床的に多様なASDの一部では、海馬における外界の特徴の情報表現に異常が生じている可能性を示唆する。
竹本 さやか
アブストラクト
研究報告書
名古屋大学 環境医学研究所
神経系I分野
扁桃体微小神経亜核を介した情動制御機構の解明100
扁桃体延長部に属する扁桃体中心核や分界条床核は、進化的に保存された小さな脳内領域である。ヒトを対象とした脳イメージング研究の発展により、不安や恐怖の統御に関わる可能性が示され注目される。同時に、動物モデルを用いた研究から、様々な内的、外的要因によって神経活動が変化し、不安や恐怖が環境によって増強する際に、主要な役割を果たすのではないかと考えられている。一方で、両領域は複数の機能が異なる小さな神経核の集合体であり、機能的にも異なると想定される細胞種が複雑に混在し構成されるため、これまでのモデル動物を用いた破壊実験等では統一見解を得るのが困難で、扁桃体微小神経亜核における内局所神経回路機能や活動制御の分子基盤には不明な点が多い。本研究では、分子マーカー知見を活用して、扁桃体微小神経亜核を対象に高精細な遺伝子発現解析を実施することで、情動制御に寄与する新たな分子機構の解明を目指した。
橋本 謙二
アブストラクト
研究報告書
千葉大学 社会精神保健教育研究センター
病態解析研究部門
妊婦の栄養からみた統合失調症発症予防の可能性100
統合失調症の発症予防を目的として、母体免疫活性化モデルを用いて野菜に含まれるグルコラファニンの効果を調べた。グルコラファニンを含む餌を妊娠期から離乳まで与えると、母体免疫活性化で生まれた仔マウスの行動異常や前頭皮質のパルブアルブミン陽性細胞の低下を抑制することが判った。
本研究成果は、妊娠期の栄養が、生まれてくる子供の精神病発症に影響を与えることを示唆した。また本研究成果は、精神疾患の発症に、生まれてくる前の母親の妊娠期の栄養学の重要性を示している。
秀瀬 真輔
アブストラクト
研究報告書
国立精神・神経医療研究センター
神経研究所
疾病研究第三部
精神疾患患者の脳脊髄液における神経可塑性関連タンパクの網羅的解析100
統合失調症(94例) 、双極性障害(68例)、及び大うつ病性障害(104例)患者と健常者(118例)の脳脊髄液(CSF)計384例を用いて、神経可塑性関連タンパク質の磁性マイクロビーズシステムによる多分子同時測定を行った。その結果、CSF中APP量とGDNF量は統合失調症患者で、CSF中APPとNCAM-1量は双極性障害患者で、健常者と比べ有意に減少していた。また、CSF中HGFとS100B量は統合失調症の陽性・陰性症状評価尺度、CSF中S100B量は双極性障害のヤング躁病評価尺度、CSF中HGF、S100B、及びVEGF受容体2量は大うつ病性障害のハミルトンうつ病評価尺度と有意に正に相関した。さらに、大うつ病性障害患者では、CSF中APPとNCAM-1量は作業記憶、CSF中NCAM-1量は左前頭眼窩回容量と有意に正に相関した。これらの所見は、精神疾患の神経可塑性仮説を支持するものだった。
松岡 豊
アブストラクト
研究報告書
国立がん研究センター
社会と健康研究センター
日本型食生活とうつ病の関連:地域住民コホート研究100
多目的コホート研究のうち佐久地域で実施された追跡調査のデータを活用し、日本人における食事バランスガイド遵守と、その後の精神科医により診断されたうつ病との縦断的な関連を検討した。
結果、食事バランスガイドの遵守得点とうつ病のリスクの間に統計学的に有意な関連は認められなかった。年齢、性別、単身生活、教育歴、喫煙歴、飲酒歴、身体活動量、過去のうつ病、がん、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病の既往の影響を調整して検討したが、関連は認められなかった。8領域(主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物、総エネルギー、菓子・嗜好飲料、白肉の赤肉に対する比)それぞれについて検討したところ、白肉の赤肉に対する比において、最も比が低いグループに比べて高いグループで48%うつ病のリスクの低下(オッズ比=0.52, 95%信頼区間=0.27-0.98)が認められた。
森口 茂樹
アブストラクト
研究報告書
東北大学大学院薬学研究科
薬理学分野
KATPチャネル欠損マウスにおける認知・精神機能障害の病態生理学的研究100
申請者は、アルツハイマー病(AD)治療薬であるmemantineの新たな作用機序として、 ATP感受性カリウム(KATP)チャネル抑制作用を発見した(Moriguchi et al., Mol. Psychiatry 2018)。KATPチャネル抑制作用は膵臓β細胞よりインスリン分泌の役割を担っており、糖尿病の治療標的である。本研究では、ADの脳糖尿病仮説の実証のため、KATP(Kir6.1およびKir6.2)チャネル欠損マウスを用いてKATPチャネルの病態生理的役割について解明する。本研究ではKATPチャネル欠損マウスのアイソフォーム依存的な認知・精神機能障害の病態機序の解析を行い、ADの病態機序の解明を目指す。
森原 剛史
アブストラクト
研究報告書
大阪大学大学院医学系研究科
認知症プレシジョン医療開発学寄附講座
孤発性アルツハイマー病の発症メカニズム解明とバイオマーカー開発100
アルツハイマー病にはいまだに効果的な診断・治療法はない。なぜであろうか? その原因として「疾患が複雑」「疾患が不均一」「使いやすいバイオマーカーがない」がよく挙げられている。これらの問題を本研究は克服していく。
我々はアルツハイマー病の中心病理であるAβ病理の出現しやすさがインブレッドマウス間で大きく異なることに注目した。マウスの背景遺伝子の影響を解析する独自の複合的omicsを考案しAβ蓄積量規程遺伝子産物としてKLC1vEを同定した(PNAS 2014、BioEssay 2015、Hum Genet 2018)。
本研究ではKLC1vEを中心とした発症分子メカニズムをさらに解明するためKLC1領域を置換したコンジェニックマウスを作成した。また血液バイオマーカーの開発を進めた。層別化バイオマーカーとしてKLC1 mRNA、疾患バイオマーカーとして革新的高感度法によるAβ測定系の開発を進めた。
山下 親正
アブストラクト
研究報告書
東京理科大学薬学部
DDS・製剤設計学
経鼻投与による新しい概念に基づいたペプチドの中枢デリバリー技術の開発100
中枢作用性ペプチドは容易に血液脳関門を透過することができず、臨床適用は難しい。そこで、経鼻投与により、臨床応用可能な全く新しい概念に基づいたペプチドの非侵襲的な中枢デリバリー技術を構築するために、新規抗うつ様作用を示すGlucagon-like petide-2(GLP-2)に細胞膜透過性促進配列(CPP)とエンドソーム膜脱出促進配列(PAS)に付加したGLP-2ペプチド誘導体を創製した。このGLP-2誘導体はマクロピノサイトーシスにより細胞へ効率良く取り込まれ、PASによりエンドソームを効率良く脱出し、細胞外へ排出されることを実証した。更に、経鼻投与されたGLP-2誘導体は三叉神経を介して海馬・視床下部へデリバリーされ、抗うつ様作用を示す可能性が高いことも明らかにした。
以上の結果から、中枢作用性ペプチドを経鼻投与により呼吸上皮から三叉神経を介して中枢へ効率良くデリバリーさせる中枢デリバリー技術の開発に成功し、臨床応用が期待される。
吉池 卓也
アブストラクト
研究報告書
滋賀医科大学
精神医学講座
構造・機能的神経可塑性の概日ダイナミクスが抗うつ治療反応に果たす役割100
双極性障害およびうつ病の病態解明は喫緊の課題である。時計遺伝子発現や時間認知といった生理・行動の概日振動変化は、気分障害の生物学的指標と考えられている。近年、脳構造および脳機能の日内変動が明らかにされ、構造的・機能的な神経可塑性ダイナミクスが気分障害の病態生理・治療反応において重要な役割を担うことが示唆される。本研究は、シナプス可塑性の代替評価法として構造的・機能的磁気共鳴画像(MRI)を用い、健常成人における神経可塑性の日内変動の特徴、および気分障害患者における神経可塑性の日内変動と病態・治療反応の関連性を明らかにすることを目的とした。健康成人40名を対象とし、朝および夜の2時点で撮像した安静時機能的MRIを比較した。前部帯状回は左側頭桓平面と、夜より朝に強い機能的結合を示した(T71=3.86; PFDR=0.04)。うつ症状の日内変動の背景に安静時機能的結合の変化が関連する可能性が示唆される。
渡部 喬光
アブストラクト
研究報告書
理化学研究所
脳神経科学研究センター
自閉症の認知的硬直性を引き起こす神経ダイナミクスの同定100
有病率1%以上を示す神経発達障害である自閉スペクトラム症(ASD)は社会性の障害と活動興味の範囲の著しい限局(認知的硬直性)という二つの中核症状によって特徴付けられる.これまでのASDの神経生物学的研究は社会性の障害を対象としたものが多く,認知的硬直性の神経基盤はほとんど不明だ.
そこで本研究は, 成人高次機能ASD当事者のcognitive rigidityの背景にある全脳レベルでのASD固有の巨視的神経遷移ダイナミックスを同定することを目的とした.
結果,高機能自閉症スペクトラムのcognitive rigidityは,自発的課題切替試験でよく定量化することができ,さらにright ACC, MFG and pSPLなどを主体とした遷移脳ダイナミクスの非典型的な安定性によって生じている可能性がある,ということが明らかになった.
渡部 雄一郎
アブストラクト
研究報告書
新潟大学大学院医歯学総合研究科
精神医学分野
SPATA7遺伝子と統合失調症:罹患同胞対・はとこ婚両親エクソーム解析からの展開100
統合失調症の病態解明や根本的治療法開発の分子基盤を得るためには、頻度は稀だが効果の大きいリスク遺伝子を同定することが重要である。われわれは、統合失調症罹患同胞対・はとこ婚両親の家系を対象としてエクソーム解析を行い、SPATA7遺伝子に稀な複合ヘテロ接合のミスセンス変異(Asp134GlyとIle332Thr)を同定した。SPATA7遺伝子と統合失調症との関連を確認することを目的として本研究を行った。両親サンプルが利用可能な137家系の罹患者142人を対象としてSPATA7遺伝子のタンパク質コード領域をシーケンスしたが稀な潜性変異は検出されなかった。次に症例・対照研究(2,756対2,646)を実施したが、Asp134Gly変異およびIle332T変異と統合失調症との有意な関連は認められなかった。SPATA7遺伝子は統合失調症の発症に大きな効果をもつリスク遺伝子ではない可能性が示唆された。

平成30年度
精神薬療分野 若手研究者助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
青木 悠太
アブストラクト
研究報告書
昭和大学
発達障害医療研究所
RDoCの生物学的特性に基づくクラスタリングを自由行動から再現する100
【目的】 自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如多動症(ADHD)の診断の枠組みを超えて、生物学的な同質性の高いサブタイプを同定することが本研究の第一の目的である。本研究は自由行動からクラスタリングを再現する予備的検討として、ASD当事者とADHD当事者を合わせて脳構造の特徴でクラスタリングを行った。
【対象・方法】 AASDあるいはADHD当事者148名およびNTC105名分のMRIスキャンを対象とした。機能的・構造的アトラスを用いて関心領域を脳表に設定しクラスタリングを行った。
【結果】 HYDRAは2つのクラスターを同定した。Chi square検定では二つのクラスターでASDとADHDの割合は有意な偏りはなかった。
【考察】 ASDとADHDの臨床診断の境界は、脳構造の特徴の同質性を保証するとは言えないことがわかった。今後は、この二つのクラスターのどちらに入るかを行動指標ひいては自由行動の動画を解析することで予測することをめざす。
江口 典臣
アブストラクト
研究報告書
神戸大学大学院医学系研究科
精神医学分野
ADHDのiPS細胞より分化させた大脳皮質の解析100
本研究では、MRIを用いた研究でADHD患者では大脳野皮質の発達が遅延しているという報告に注目し、ADHDの患者のiPS細胞から大脳皮質の細胞かを分化誘導し、ADHDの病態メカニズムの解明に迫ることを目的とした。ADHDと診断された患者(18歳、男性)の末梢血単核球からiPS細胞を作成し、健常者、ADHD患者由来のiPS細胞を大脳皮質の細胞からなる組織へと分化させた。組織中に含まれる大脳皮質様の構造を免疫染色により評価した。ADHD群では、大脳皮質様構造を形成する細胞層のうち、神経幹細胞の層である脳室帯(VZ)が厚く、神経細胞の層である皮質板(CP)が薄いことが明らかとなった。また、CPに含まれる神経細胞がADHD群では健常群より多いという結果が得られた。この結果は、先行研究で報告された大脳皮質の発達遅延と関連する可能性がある。今後さらなる病態メカニズムの解明を進めていく。
大橋 圭
アブストラクト
研究報告書
名古屋市立大学大学院医学研究科
新生児・小児医学分野
発達障害児の内因性カンナビノイド系プロファイルと臨床表現型の解析100
【目的】内因性カンナビノイド (eCB) 系は自閉スペクトラム症 (ASD) のASDの統合的な病因の一つと推察されている。本研究はASDとeCB系の乱れの関連について明らかにすることを目的とする。【対象・方法】DSM-5の診断基準に基づきASDと診断された児を対象とした。末梢血白血球から抽出したmRNAを用いてRT-PCRによりCB1,CB2,FAAH,MAGLの発現量の測定を行った。また、AQ児童版・SRS-2・ADHD-Rating Scaleによる評価を行った。【結果】CB1とAQ児童用の下位尺度である“注意の切り替え”、CB2と“注意の切り替え”および“想像力”に統計学的有意に相関を認めた。【考察】全体的な自閉症傾向の強さとCB1,CB2,FAAH,MAGLのmRNAの発現量に相関関係は認めなかったが、一部の下位尺度とCB1およびCB2のmRNAの発現量に相関を認めた。今後はAEAおよび2-AG、FAAHおよびMAGLの酵素活性の測定を行い、その関連性の検討を行う。
草苅 伸也
アブストラクト
研究報告書
東京医科大学医学部
薬理学分野
CHCHD10遺伝子変異による認知症発症メカニズムの解明と治療薬探索100
前頭側頭型認知症(Frontotemporal dementia:FTD)は、前頭および側頭葉が萎縮する神経変性疾患であり、認知機能障害のほか、人格変化や行動異常を示す。これまでに、複数の原因遺伝子が同定され、原因遺伝子の分子機能にもとづく解析が進められているが、その発症メカニズムには未だ不明な点が多く残されている。
FTD原因遺伝子のひとつCHCHD10は、ミトコンドリアに限局して発現し、ミトコンドリア機能制御に関与すると考えらえているが、遺伝子変異によるFTD発症および神経細胞死メカニズムは未だ不明である。
そこで、本研究ではCHCHD10を過剰発現するアデノウイルスを構築し、培養細胞を用いて細胞死との関連について検討を行った。その結果、CHCHD10は遺伝子変異によって新たに細胞毒性を獲得すること、さらにこの細胞死はCaspase-3非依存性であることが明らかとなった。
久保田 学
アブストラクト
研究報告書
放射線医学総合研究所
脳機能イメージング研究部
脳疾患トランスレーショナル研究チーム
神経発達症における脳内ドーパミン・ノルアドレナリン神経伝達と注意機能との関連100
神経発達症の特徴に、高次レベルの注意の統制機能不全や特有の認知機能処理があげられる。しかしその注意機能・認知機能とモノアミン系神経伝達機能との関連は明確になっていない。本研究では、陽電子放射断層撮像(PET)、MRIおよび認知機能検査を組み合わせることにより、自閉スペクトラム症(ASD)における脳内ドーパミン・ノルアドレナリン神経伝達の役割を調べ、神経発達症の脳内分子神経基盤を突き止めることを目的とした。結果、PET解析においては両群の間に統計学的に有意な定量値の差はみられなかった。しかしながら、ASD群ではAQの下位尺度と前部帯状皮質(ACC)および線条体におけるD1受容体結合能との間、そしてCAARSの評価得点項目とACCにおけるD1受容体結合能との間にそれぞれ負の相関がみられ、ASD群における症状・機能の特徴の一部に脳内ドーパミン神経伝達が関与することが示唆された。
齋藤 竹生
アブストラクト
研究報告書
藤田医科大学医学部
精神神経科学講座
リチウム治療反応性と双極性障害疾患感受性の遺伝的共通性100
本研究ではBD疾患感受性遺伝子とLi薬理遺伝学的形質は重複するという仮説を立て、それを検証すべく、1)日本人の「Li反応性関連遺伝子とBD疾患感受性遺伝子の共通性」をPolygenic Risk Score(PRS)解析を用いて検討した。また2)「BDのPRSとLi反応性の関係性」の検討も行った。さらに、Li反応性遺伝子とSCZ疾患感受性遺伝子の共通性に関しても検討を行なった。
検討の結果、Li反応性関連遺伝子と双極性障害感受性遺伝子の共通性は明らかにならかなった。また同様にLi反応性関連遺伝子とSCZ疾患感受性遺伝子の共通性は明らかにならかなった。有意な重複が同定できなかった要因の一つとして、サンプル数が少ないことによる検出力不足が否定できない。そのため今後Discovery set、Target set共にサンプル数を拡大させる必要がある。
張 凱
アブストラクト
研究報告書
千葉大学社会精神保健教育研究センター
病態解析研究部門
脳腸連関からみたストレスレジリエンスの形成の解明100
ストレスによる精神疾患の発症予防としてストレス耐性(レジリエンス)を形成することが重要である。今回、学習性無力モデルを用いて、うつ様症状を呈するラット、うつ様症状を呈しない(レジリエンス)ラット、及びコントロール(無処置)ラットの腸内細菌叢を解析することにより、レジリエンスにおける腸内細菌の役割を調べ、糞中の短鎖脂肪酸の結果との関連を調べた。うつ様症状を示すラットの腸内細菌叢は、コントロールラットおよびうつ様症状を示さないラットの腸内細菌叢と比べて有意に異なる事が判った。うつ様症状を示すラットの糞中の酢酸、プロピオン酸は、コントロールラットおよびうつ様症状を示さないラットの値と比べて有意に低かった。本研究の結果より、ストレスレジリエンスに腸内細菌を介する脳-腸連関が関与している可能性が示唆された。
村松 里衣子
アブストラクト
研究報告書
国立精神・神経医療研究センター
神経研究所
神経薬理研究部
脳白質の発生異常の分子メカニズムの解明100
脳の白質を構成する髄鞘の発生を制御する新規分子を探索するため、マウスを用いて、髄鞘発生が盛んな時期に豊富に発現し、髄鞘の発達を正に制御する分子を探索した。候補分子の一部についてはその分子欠損マウスでの髄鞘形成を組織学的に解析し、in vivoで髄鞘発達を促進させる作用を見出した。今後、髄鞘を構成するオリゴデンドロサイト特異的な候補分子欠損マウスの解析やその分子依存的な細胞内情報伝達の解明、またヒト細胞での発現解析・機能解析を行うことで、見出した分子の髄鞘発達作用がヒトでも保存されているかを検証していきたい。
森 英一朗
アブストラクト
研究報告書
奈良県立医科大学医学部
未来基礎医学教室
C9orf72遺伝子のリピート異常による前頭側頭型認知症の研究100
C9orf72遺伝子のリピート異常によって、前頭側頭型認知症および筋萎縮性側索硬化症を引き起こす。この遺伝子異常によって、ポリジペプチドが産生され細胞毒性を生じる。本研究では、毒性ポリペプチドによる相分離抑制シャペロンへに対する影響について検証することを目的とした。毒性ポリペプチドによって、相分離抑制シャペロンによるFUS液滴溶解が抑制された。また、相分離抑制シャペロンによってポリマー形成が抑制され、毒性ポリペプチドによって相分離抑制シャペロンによるポリマー形成抑制能が阻害された。さらに、毒性ポリペプチドが相分離抑制シャペロンに結合していることが明らかになった。また、NMR法により相分離抑制シャペロンの毒性ポリペプチドと相互作用する領域が明らかになった。今後は、さらに、結合領域や様式の詳細な情報を明らかにすることで、病態発症の分子機序を明らかにすることを目指す。
森 康治
アブストラクト
研究報告書
大阪大学大学院医学系研究科
精神医学
C9orf72変異型FTDにおける病原性リピートRNA代謝障害のメカニズム100
我々はC9orf72遺伝子イントロン領域に由来するGGGGCCリピートRNAが、非定型的な翻訳を受けFTDの鍵分子であるジペプチドリピートタンパク(DPR)となって患者脳に蓄積することを見出した。本研究では病原性リピートRNAの蓄積機序の詳細を明らかにし、RNA代謝に着目したFTDの新規治療法開発を目指す。

平成30年度
精神薬療分野 若手研究者継続助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
武田 朱公
アブストラクト
研究報告書
大阪大学大学院医学系研究科
臨床遺伝子治療学
病的タウの神経細胞間伝播を標的とした認知症治療法の開発100
認知症の原因で最も多いのがアルツハイマー病(AD)であるが、現時点で根本的な治療法は確立されていない。AD患者の脳内には神経原線維変化(タウ細胞内凝集体)と呼ばれる病理所見が出現し、その脳内での広がりが認知症の重症度と相関する。本課題ではADの進行過程におけるタウ病理の役割を明らかにし、それに基づいた新規治療法や病態バイオマーカーを確立することを目的とした。ハイコンテントイメージングを利用したタウ伝播活性のハイスループット評価系の確立し、タウ伝播の分子機序解明や修飾因子同定のためのプラットフォームが構築された。これによりタウ免疫療法の最適エピトープの選定や糖尿病によるタウ病態修飾機序の解析が可能となった。新規のマウス髄液持続回収システムを構築し、タウ関連バイオマーカーの開発に有用なプレクリニカルモデルとして利用できることが示された。

平成29年度
血液医学分野 一般研究者助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
國島 伸治
アブストラクト
研究報告書
名古屋医療センター 高度診断研究部
分子診断研究室
GPIb信号伝達異常による新規先天性巨大血小板症の病態解明100
優性遺伝の先天性巨大血小板症において同定されたヘテロ接合性GP1BA L43RおよびK152Nバリアントを野生型GP1BBおよびGP9 と共に293T細胞に共導入し、GPIbαおよびGPIX発現を解析した。K152Nは野生型と同等のGPIbα発現を認めたが、L43Rはごく僅かのGPIbα発現を認めたのみであった。免疫ブロットによる総GPIbα発現量解析では、L43Rはごく僅かの発現量が検出されるのみであった。BSSの原因となるGP1BA変異には、発現不全変異と機能不全変異があり、共に優性遺伝の先天性巨大血小板症の原因となることが判明した。機能不全変異では、GPIb/IXが血小板膜上に発現することから、GPIb信号伝達異常による細胞骨格再構成への影響が及ぶ可能性がある。

平成30年度
血液医学分野 一般研究者助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
浅田 礼光
アブストラクト
研究報告書
国立成育医療研究センター
分子内分泌研究部
新生児の腎臓におけるエリスロポエチン産生細胞成熟および血管新生制御機構の解明100
日本では出生数の約1割が早産児である。早産低出生体重は様々な合併症を引き起こすが、その病態には不明な点が多い。本研究では副腎皮質ホルモンが腎エリスロポエチン産生細胞および腎臓の血管新生に与える影響を調べた。生後早期の未熟児貧血マウスに副腎皮質ホルモンを投与するとエリスロポエチン産生細胞の未熟性マーカーalpha-smooth muscle actinの発現が低下し、エリスロポエチン産生増加と貧血改善が認められた。一方、副腎皮質ホルモン投与群ではCD31陽性血管密度の低下が観察された。遺伝子発現解析を実施したところ、副腎皮質ホルモン投与群における血管内皮増殖因子受容体II型の発現低下が認められ、同薬剤はこの受容体発現減少を介して血管新生を引き起こしていると考えられた。
渥美 達也
アブストラクト
研究報告書
北海道大学大学院医学研究院
内科学分野
免疫・代謝内科学教室
抗リン脂質抗体症候群・全身エリテマトーデス関連神経障害のモデル動物作成100
抗リン脂質抗体症候群・全身性エリテマトーデス関連神経障害
膠原病を代表する全身性エリテマトーデス(SLE)やその関連疾患である抗リン脂質抗体症候群(APS)にみられる中枢神経症状は難治性であり、患者の生命予後を左右するだけでなく、患者の生活の質に直結する。APSは抗リン脂質抗体(aPL)と呼ばれる病原性自己抗体が産生され、再発性血栓症や習慣流産などを引き起こす自己免疫疾患である。APSの半数はSLEに合併し、疾患スペクトラムはSLEに類似する。また、APSでもSLEと同様に低補体血症が報告されており、aPLを介した補体古典経路の活性化が想定されている1。
SLEに合併しないAPS(原発性APS)でも、脳梗塞のほかに、てんかん、舞踏病、横断性脊髄症、多発性硬化症様病態、認知機能障害など特長ある神経疾患が比較的高頻度に認められ、aPL関連神経疾患とよばれる。SLEの多様な中枢神経症状の主要な病態のひとつがこのaPL関連神経疾患に属すると考えている。
荒木 真理人
アブストラクト
研究報告書
順天堂大学大学院医学研究科
輸血・幹細胞制御学
変異型分子シャペロンの多量体化によるサイトカイン受容体活性化メカニズムの解明100
フィラデルフィア染色体陰性の骨髄増殖性腫瘍(MPN)患者において見いだされる、calreticulin遺伝子のフレームシフト変異による細胞腫瘍化メカニズムの解明を行った。本研究により、腫瘍化に必要な変異型CALR蛋白質の多量体化が、変異により出現した変異型特異的ドメインに存在する疎水性アミノ酸クラスター間の分子間相互作用により生じることが明らかになった。さらに、多量体化した変異型CALR蛋白質が、細胞表面においてトロンボポエチン受容体MPLを恒常的に活性化することで、腫瘍化シグナルを発生させていることを明らかにした。今後、本研究で得られた知見を基盤として、変異型CALR蛋白質による細胞腫瘍化シグナルを特異的に抑制するMPNの新規治療戦略の開発が大いに期待される。
池添 隆之
アブストラクト
研究報告書
福島県立医科大学
血液内科学講座
TM類縁体を用いた新規血管内皮保護薬の開発100
トロンボモジュリン(TM)は主に血管内皮細胞上に発現して血液凝固を負に制御する膜タンパクである。TMの細胞外領域を、遺伝子工学技術を用いて作製したrTMは播種性血管内凝固(DIC)の治療薬として2008年から臨床使用されている。造血細胞移植後に内皮細胞障害を起点として発症する肝類洞閉塞症候群(SOS)や血栓性微小血管症(TMA)を基礎疾患として発症したDICをrTMで治療するとSOSやTMAにも著効を示したことから、我々はrTMに血管内皮保護作用が存在することに気付いた。rTMは抗凝固薬であるため出血のリスクの高いSOSやTMAには使用しづらい。そこで血管内皮保護作用に特化したTM類縁体を作製すること思い立った。本研究で、血液凝固系に全く作用せず内皮保護作用のみを保持するTMの19アミノ酸構造を同定することに成功した。このアミノ酸構造はマウスSOSモデルでその予防効果を示した。
石井 直人
アブストラクト
研究報告書
東北大学大学院医学系研究科
免疫学分野
ネフローゼ症候群における免疫細胞関与機構の解明100
ステロイド感受性ネフローゼ症侯群では、免疫異常が病態形成に関与することが想定されているものの発症関連遺伝子の報告は極めて少ない。筆者らは、ステロイド感受性ネフローゼ症侯群を家族内発症した家族5人の全エクソームシークエンス解析を行い患者特異的にIL-1 receptor accessory protein(IL-1RAP)の複合ヘテロ接合型ミスセンス変異を見いだした。遺伝子再構成実験により患者由来のIL-1RAP変異体が機能低下型であることが証明されたことから、ネフローゼ症侯群発症におけるIL-1シグナル障害の関与が想定される。しかし、同定されたIL-1RAP変異は一家系由来であること、また、IL-1RAP欠損マウスでは腎炎易感受性が証明できなかったことから、IL-1RAP変異とネフローゼ症侯群発症の関連性の証明にはさらなる解析が必要である。
一戸 猛志
アブストラクト
研究報告書
東京大学医科学研究所感染症国際研究センター
感染制御系ウイルス学分野
DNAセンサーによるRNAウイルス認識機構の解析100
細胞質中のミトコンドリアDNAはインターフェロン応答を誘導することが知られているが、RNAウイルスがミトコンドリアDNAを細胞質中へ放出するメカニズムは不明である。本研究では、RNAウイルスであるインフルエンザウイルスのM2タンパク質や、脳心筋炎ウイルスの2Bタンパク質のイオンチャネル活性がミトコンドリアDNAを細胞質中へ放出させるのに必要であることを明らかにした。インフルエンザウイルスや脳心筋炎ウイルス感染細胞で細胞質中に放出されたミトコンドリアDNAは、cGASやSTING依存的にインターフェロン応答を誘導した。野生型マウスおよびcGAS、STING欠損マウスにインフルエンザウイルスを感染させて、感染5日目の肺胞洗浄液中のウイルス量を測定すると、STING欠損マウスでウイルスの増殖が有意に増加していたことから、インフルエンザウイルスの抑制にも細胞内DNAセンサーが重要な役割を果たしていることが示唆された。
今井 孝
アブストラクト
研究報告書
群馬大学大学院医学系研究科
生体防御学
マラリア原虫寄生赤芽球の生物学的意義100
マラリアはエイズ、結核とならぶ世界3大感染症の一つであり、早急な制圧が望まれている。申請者らは、近年マラリア原虫が赤血球だけでなくその前駆細胞である赤芽球にも寄生するということを発見したが、マラリア原虫が何故数の少ない赤芽球に寄生するのか全く研究がなされていない。本研究においては、「原虫寄生赤芽球の生物学的意義」を探った。マウスにGFP発現Plasmodium yoeliiを感染後、抗マラリア薬であるピリメサミンの投与により治療した。その後、血中において原虫寄生赤血球が認められなくなった時点で、サンプリングしたところ脾臓の寄生赤芽球の存在が確認された。このことは、寄生赤芽球が抗マラリア薬に対してより抵抗性であることを示唆している。今後は、実験を繰り返すとともに、ピリメサミン投与後どれほど長く寄生赤芽球が存在し続けるか、他の抗マラリア薬投与でも同様であるかを確認する必要がある。
小内 伸幸
アブストラクト
研究報告書
金沢医科大学医学部
免疫学講座
胎児期における樹状細胞の分化制御機構解明と炎症性疾患における役割の解明100
胎児は母体由来のアロ抗原や病原性微生物など様々な免疫刺激に暴露される危険がある。実際、妊娠中の母体の感染や炎症が胎児の脳の発達に影響を及ぼすことが報告されている。しかし、胎生期における病原性微生物に対する免疫反応を制御する樹状細胞に関しては不明である。我々はマウス胎仔肝臓中に樹状細胞様細胞及び同細胞の新規前駆細胞を同定した。現在まで、胎生期における樹状細胞の機能やその分化制御機構、さらに免疫・炎症反応制御機構は全く不明である。本研究では、胎生期樹状細胞とその前駆細胞の機能、炎症における役割を明らかにする。
柏木 浩和
アブストラクト
研究報告書
大阪大学大学院医学系研究科
血液・腫瘍内科学
血小板インテグリンシグナル機構の解明と血管病変形成に関する検討100
血管性病変の形成に重要な役割を果たしている血小板インテグリン機能に関し、以下のような検討を行った。1)インテグリン活性化を誘導するインサイドアウト・シグナルにおけるkindlin-3の重要性を、αIIbβ3欠損血小板およびkindlin-3欠損血小板を用いて検討した。その結果、kindlin-3は血小板においてαIIbβ3だけでなくコラーゲンの受容体であるα2β1の機能発現にも重要であることが明らかとなった。2)αIIbβ3恒常的活性化変異導入マウスを用いた検討により、本変異が血小板機能だけでなく血小板産生にも影響を与えることを明らかにした。これらの一連の研究は今後の抗血小板療法開発における分子標的検討の重要性とともに、インテグリン機能制御により、血小板機能だけでなく血小板数もコントロールしうる可能性を示唆している。
金澤 寛之
アブストラクト
研究報告書
旭川医科大学
移植医工学治療開発講座
ヒト由来人工赤血球を用いたブタ脂肪肝の保存方法の検討100
【背景】マージナルドナー肝に対し機械還流保存を適応することでドナープール拡大が期待されている。
【目的】マージナルドナー肝に対する酸素化機械還流保存の至適灌流条件の探索と、人工赤血球含有灌流保存液に期待される役割について精査する。
【方法】機械還流保存灌流温度、灌流圧、酸素供給条件、および人工赤血球含有保存液での検討を行う。
【結果】心停止ドナー肝の酸素化機械還流保存は組織ATP濃度が減少することなく、むしろ経時的に増加し阻血再灌流傷害を軽減した。特殊飼料による脂肪肝モデル作成を試み、肝障害を誘導することができた。
【考察】酸素化灌流保存法は虚血再灌流傷害を軽減し、組織ATP濃度を上昇することが示されたが、人工赤血球を用いることで効果的な酸素化が担保されれば、一層の臓器機能回復および蘇生が期待される。大動物での安定した脂肪肝モデルの確立が急務であり、引き続き検証を行っていく必要がある。
河野 洋平
アブストラクト
研究報告書
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
免疫アレルギー学分野
cCLPの増殖維持に関わる支持細胞由来因子の同定100
免疫細胞が感染防御のみならずがん抑制に重要であることからも、ますます免疫研究が活発となっていくことが期待されるが、免疫細胞の資源は十分でない。申請者は最近新たな免疫細胞資源として、cCLPと名付けたあらゆる免疫細胞に成長できる希少なマウス免疫前駆細胞の長期大量培養に成功した。cCLPの増殖および未分化性維持には支持細胞が必須であるが、その分子詳細は不明であり、本研究では当該因子の同定を目的とした。CRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いて、CXCL12が関与しうることを明らかにした。またcCLP増殖支持能の異なる支持細胞のRNA-seqを行い、網羅的遺伝子発現比較解析を行ったところ、CXCL12以外の候補分子としてDlk1を抽出した。今後当該分子の欠損株作製など、さらに着目してより深い研究を行うことで、CLP増殖への関与を明らかにしていく必要がある。

諫田 淳也
アブストラクト
研究報告書
京都大学大学院医学研究科
血液・腫瘍内科学
同種造血幹細胞移植後の急性移植片対宿主病における早期発見及び治療反応性予測を目的としたmicroRNAの評価100
GVHDに対する非侵襲的かつ鋭敏なバイオマーカーの検索および早期治療介入は移植成績の向上に貢献すると考えられる。まず、1990年から2018年の間に京都大学医学部附属病院で初回の同種移植を受けた575名の患者を対象として、患者背景や移植方法が、急性GVHD発症に及ぼす影響を検討した。急性GVHD発症リスク因子として、カルシニューリン阻害剤のみ、抗胸腺細胞免疫グロブリン不使用、およびHLA不適合の存在が抽出された。
次に、同種造血幹細胞移植前から1 ヶ月後まで、1週間毎に血清の凍結保存を行った。この中から、移植前、移植後1週、2週、3週、4週の血清が連続的に凍結保存され、かつこの期間、再発を認めていない患者109例を抽出した。移植後1-2週の血清からは回収不良であったが、移植後3-4週の血清からは十分量のmicroRNAが回収できた。現在、回収したmicroRNAの一部を用いて、網羅的解析を行っている。
小林 弘一
アブストラクト
研究報告書
北海道大学大学院医学研究院
免疫学教室
NLRC5/MHC class I transactivator のGVHD発症における役割とメカニズム100
造血管細胞移植は血液悪性腫瘍に対する重要な治療法であるが、ドナーT細胞がレシピエント組織のアロ高原を認識する事により、30−60%のレシピエントにおいて重篤な合併症である移植片対宿主病(GVHD)を発症しうる。主要組織適合抗原MHCは一番重要なアロ抗原であるがGVHD発症時のMHC発現メカニズムはよく理解されていない。我々は近年MHC class I転写因子であるNLRC5を同定した。マウスGVHDモデルにおいて、NLRC5欠損群においては、ドナーCD8T細胞のサイトカイン分泌が低下し、炎症性細胞による組織障害が減弱していることが認められた。これらの結果からNLRC5がGVHD発症時のMHC-I発現誘導にも関与しており、NLRC5の活性を抑制する事が将来のGVHD治療戦略になる可能性が示唆される。
新中須 亮
アブストラクト
研究報告書
大阪大学 免疫学フロンティア研究センター
分化制御研究室
インフルエンザ感染における液性免疫記憶形成機序100
インフルエンザワクチンの予防効果は、抗体が主要な役割を担っている。通常の感染では、ウイルスの変異が高頻度に生じるHead部位に対する抗体を保持するメモリーB細胞が多くを占めるが、パンデミック感染などでは、変異が生じにくいStem部位に対する抗体(万能記憶抗体)を有するメモリーB細胞が重要であることが証明されてきている。しかしながら、Stem部位に対するメモリーB細胞は生体内に非常に少なく、なぜ形成されづらいのかそのメカニズムははっきりしていない。そこで、今回我々は、1) サイレンシングモデル、2) アクセスモデル、3) 希少レパトアモデルの3モデルについて検証を行った。
その結果、B細胞がHAのstem部位にアクセスしづらいことが理由の一つである可能性が示唆された。ただし、希少レパトアモデルについては現在も検証中であり、この結果も合わせて最終的な結論を出す予定である。

杉村 竜一
アブストラクト
研究報告書
京都大学
CiRA
斎藤潤研究室
転写・シグナリングネットワークによる造血幹細胞の誘導100
ヒトiPS細胞をiMatrix511上で2次元培養し維持した。次にヒトiPS細胞を3次元スフェロイド形成し、iMatrix511上に展開した。次にサイトカインを添加することで中胚葉オーガノイドを誘導し、血球分化を行った。得られたHemogenic内皮細胞をfibronectin上に展開する血球への分化をうながした。ヒトiPS細胞から得られたHemogenic内皮細胞の血球分化を従来法と比較したところ、効率の良い結果を得たので論文出版したhttps://www.jove.com/video/59823/hemogenic-endothelium-differentiation-from-human-pluripotent-stem特許出願中である。
大道寺 智
アブストラクト
研究報告書
京都府立医科大学大学院
医学研究科
感染病態学
ヒト気管上皮細胞における鳥インフルエンザウイルスの感染機構の解明100
鳥インフルエンザウイルス(Flu)は人獣共通感染症であり、公衆衛生学上、世界規模の問題である。鳥Fluはそのレセプターの観点からヒト気道においては深部呼吸器に感染することが示唆されているが、一方で細気管支よりも上位のヒト気道上皮では、鳥Fluがどの程度感染するのかついて、その詳細は不明であり解明が求められる。本研究ではヒト気管部位由来の上皮細胞株を樹立し、鳥Fluに対する感染動態を評価することを目的とした。初代気管上皮細胞由来の樹立細胞株を用いて、分離された年代・地域ともに、様々なウイルス株を用いて解析を行ったところ、用いた複数の樹立細胞は鳥Fluに対し、感受性を示した。また細胞表面上にウイルスレセプターも確認されたが、ウイルス感染性とウイルス粒子の結合量には必ずしも相関がなかったため、侵入後の過程で、感染が規定されているものと考えられる。現在その詳細について解析を進めている。
竹馬 俊介
アブストラクト
研究報告書
慶應義塾大学医学部
微生物学・免疫学教室
エピゲノム調節機構不全による、自己免疫疾患発症メカニズムの解析100
老化にともなって自己免疫疾患が発症する機構は多くが不明である。クロマチン調節因子であるTRIM28をマウスの免疫細胞で欠失させると、T細胞性の自己免疫疾患、炎症性遺伝子の発現などの免疫老化形質がみられ、この機構を追及することを目的とした。次世代シーケンスを駆使して、TRIM28欠損により、免疫細胞で抑制性ヒストン修飾(H3K9メチル化)が低下、それにともない、ゲノム上で、内在性レトロウイルス由来配列の脱抑制が起こること、この配列は脱抑制にともなって近傍の炎症性遺伝子を発現誘導する可能性が示唆された。本研究より、①老化にともない、免疫細胞に起こるエピジェネティックな変化と、②その、自己免疫疾患発症における役割の一端が明らかになった。
牧島 秀樹
アブストラクト
研究報告書
京都大学大学院医学研究科
腫瘍生物学
急性骨髄性白血病の移植後再発における新規GNB2遺伝子異常の解明100
急性骨髄性白血病(AML)に対する治療は、時に短期的に有効ではあるが、AMLが抵抗性を獲得し再発することも多く、その場合高頻度に早期死亡に至る。従来、そのメカニズムとして、ゲノム異常に関しては、特に、ボトルネック効果に関連したクローン構造の変化について、十分検討されていないため、再発・治療抵抗性に関わる遺伝子異常が明らかにされていない。本研究の目標は、再発・治療抵抗性を示すAMLに対して、有効な標的治療を開発することである。そこで、我々が培ってきたゲノム解析技術とボトルネック効果に関する成果を活用し、再発・治療抵抗性獲得前後の多様性を明らかにするために再発期間が短縮される前後で獲得される遺伝子異常を明らかにした。
吉岡 和晃
アブストラクト
研究報告書
金沢大学医薬保健研究域医学系
血管分子生理学分野
エンドソーム膜受容体シグナリングを標的とする難治血管病治療戦略の開発100
本研究では、治療困難な血管難病(虚血肢血管新生、大動脈瘤、アナフィラキシー)を対象とする新規治療の開発を目的として、リン酸化PI産生酵素・クラスII型PI3キナーゼ“PI3K-C2α”の発現安定化を標的としたmiRNA核酸医薬および、PI3K-C2αの酵素産物・PI(3)Pに対する脱リン酸化酵素(PIホスファターゼ)を探索・機能解析を行い、エンドサイトーシスにおけるPI3K-C2αの機能調節機構の解明を目的とした。本研究課題として取り組んだin vitro実験系においては、内皮細胞内膜小胞上で脂質リン酸化酵素・PI3K-C2αにより産生されるPI(3)Pを特異的に分解する脱リン酸化酵素・MTMR4を同定し、C2α-MTMR4系による強調的PI(3)Pレベル調節システムの存在を見出した。今後、このPI(3)Pレベル調節システムを標的とした全く新しい概念の血管内皮機能改善薬の開発に向けた開発プラットホーム作りに着手する道筋ができたことは、本研究課題の成果である。
吉崎 歩
アブストラクト
研究報告書
東京大学大学院医学系研究科・医学部
皮膚科学
皮膚科
医工連携によって実現した微量サイトカイン解析技術を用いた全身性強皮症の病態解明と新規治療ターゲットの同定100
強皮症は自己免疫を背景に、皮膚および内臓諸臓器に線維化を来す予後不良の疾患であり、未だに有効な治療法が無く、新規治療法の開発が急務である。強皮症の病態形成においてサイトカインの重要性はこれまで多数報告されている。しかしながら、サイトカイン研究には、検出下限が一般的にpM程度であるという測定における大きな困難がある。このことは、極端に濃度上昇しているサイトカインしか現代の技術では捕らえ切れていないことを示唆しており、未だにサイトカインバランスの及ぼす病態への影響は明らかとなっていない。このことから、申請者は高感度のサイトカイン測定技術が必要であると考え、工学部との共同研究を行い、微量サイトカイン測定デバイスを開発した。本研究では、微量サイトカイン測定法を用いて強皮症の病態形成機序における研究を行った。

平成30年度
血液医学分野 若手研究者助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
伊藤 綾香
アブストラクト
研究報告書
名古屋大学環境医学研究所
分子代謝医学分野
細胞内脂質代謝に着目した自己免疫疾患の新たな病態メカニズムの解明100
近年、様々な疾患の基盤病態として慢性炎症が注目されている。研究代表者はこれまでに、核内受容体LXRに着目し、細胞内の脂質蓄積が炎症性サイトカインの発現亢進や自己免疫疾患の原因となることを見出した。しかしながら脂質代謝と自己免疫疾患との関連性について直接的な因果関係は不明である。
本研究では、代表的な自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)に着目して研究を進めた。遺伝性あるいは薬剤誘導性の複数の異なるSLEモデルマウスを用いた解析を行うことにより、自己抗体価の上昇や腎臓へのイムノグロブリンの沈着が認められる以前の、病態の早期から免疫細胞自律的な脂質蓄積を認めることを見出した。また、SLEモデルマウスにオメガ3脂肪酸を投与することによりSLE病態の一部が改善したことから、早期の脂質代謝の改善がSLE治療標的となる可能性が示唆された。
梅本 晃正
アブストラクト
研究報告書
熊本大学 国際先端医学研究機構
幹細胞制御研究室
造血幹細胞の自己複製分裂時におけるThrombopoietin 応答のチューニング100
骨髄組織損傷後のストレス造血時では、造血幹細胞は活発に分裂を繰り返えし、造血組織再構築を主導すると考えられている。しかしながら、造血幹細胞が「自己複製分裂」と「分化分裂」を使い分ける機構に関しては未だに不明な点が多い。本研究では、 ミトコンドリア制御によって、造血幹細胞の増殖・維持・分化を司るサイトカイン“Thrombopoietin (TPO)”の応答を幹細胞性維持・増殖用にチューニングすることで、自己複製分裂が誘導されるとの仮説の下、造血幹細胞の運命決定機構の本質に迫ることを目的としていた。その結果、造血幹細胞が主に幹細胞を生み出す分裂はミトコンドリア代謝に依存しており、前駆細胞を生み出す分裂はミトコンドリアに依存していない可能性が示唆された。従って、本研究の成果は試験管内の造血幹細胞増幅や、骨髄移植療法時のドナー幹細胞の自己複製分裂のサポート等、主に骨髄移植療法の発展に大きく寄与するものと考えられる。
蔵野 信
アブストラクト
研究報告書
東京大学医学部附属病院
検査部
スフィンゴシン1-リン酸に注目したHDLの抗血栓作用の解明100
本研究では、「HDLの抗血栓作用はApoM/S1Pに(少なくとも部分的には)依存する」という仮説について疾患モデルマウスを用いて検討した。その結果、ApoM/S1Pには抗DIC作用があること、その機序としてApoM/S1PはNetosisを抑制すること、および、Netosis惹起後の臓器障害、DICの進行を抑制することが考えられること、さらには、リコンビナントApoMを用いることにより、HDLの多面的効果を治療医学的に応用できる可能性があることが分かった。
近藤 泰介
アブストラクト
研究報告書
慶應義塾大学医学部
微生物学・免疫学教室
代謝リプログラミングによるステムセルメモリーT細胞の誘導とがん免疫療法への応用100
近年ステムセルメモリーT細胞(TSCM)の形質を有するキメラ型抗原受容体(CAR)-T細胞療法がCAR-T療法に比べて、高い治療効果を示すことがわかった。我々はCAR-T細胞を Notchリガンドを発現するフィーダー細胞と共培養し、CAR-iTSCM細胞を誘導することに成功した。またCAR-iTSCM細胞の誘導にはミトコンドリアの代謝リプログラミングが重要であること特定した。さらにNotchシグナルの下流因子であるFOXM1を同定し、代謝学的変化およびiTSCM細胞の誘導に重要であることを見出した。Notchシグナルで作成されたCAR-iTSCM細胞と同様にFOXM1の強制発現でCAR-iTSCMと同等の細胞が得られ、これらのTSCM細胞様CAR-T細胞はヒト白血病モデルマウスにおいて強い抗腫瘍効果を示した。我々はCAR-iTSCM細胞を従来のCAR-T療法に代わる新たな細胞移入療法として提案する。
曽根 正光
アブストラクト
研究報告書
千葉大学医学部医学研究院
イノベーション再生医学
血小板の産業的生産に向けた巨核球成熟のシングルセルアプローチ100
我々はこれまでiPS細胞技術に基づく人工血小板製造システムの構築を目指し、Dox誘導性の不死化因子を導入したimMKCL細胞株を樹立した。imMKCLは無限に増殖でき、Doxを除去すると一部の細胞は血小板を産生するが、大部分の細胞は未熟な状態に留まり、その効率の低さが産業化における障壁となっている。そこで本研究において、細胞形態を分化指標としてシングルセルレベルでの遺伝子発現比較解析を行い、そのようなimMKCL成熟の不均一性の要因を探索した。結果として、巨核球分化の最終段階であるproplateletの形成(PPF)が見られる細胞群は、PPFの見られない未熟な細胞群とは異なる遺伝子発現プロファイルを示した。今後、両細胞群で差のある遺伝子に注目し、解析を進めることでimMKCLの成熟を妨げる要因を排除し、より効率的な人工血小板の製造を実現できる可能性がある。
西出 真之
アブストラクト
研究報告書
大阪大学大学院医学系研究科
呼吸器・免疫内科学
ANCA関連血管炎における好中球免疫チェックポイント分子の機能解析とその治療応用 100
本研究は、ANCA関連血管炎(AAV)におけるセマフォリンの病態学的関与を明らかにし、新たな治療法、診断法の開発に繋げることを目的とした。AAVの病型のうち、高度な腎炎を呈するMPAと、好酸球性副鼻腔炎を合併するEGPAを研究対象とし、血管炎モデルマウスの立ち上げを行った。MPAモデルは、ヒトの病態に非常に近い重篤な腎血管炎をマウスに発症させることに成功した。同モデルの発症に成功した事例は本邦初であり、引き続き前臨床試験、病態解明に取り組む所存である。好酸球性副鼻腔炎モデルについては抗セマフォリン抗体を用いた治療実験までを完了し、抗セマフォリン抗体が好酸球性血管炎の軽減をもたらすことが明らかとなった。本研究を通じて、セマフォリンは好中球だけでなく、好酸球にも発現し、血管炎に密接に関連している事が明らかとなった(論文投稿中)。セマフォリンを標的とする治療がAAVの全病型に幅広く有用である可能性がある。
早河 翼
アブストラクト
研究報告書
東京大学医学部附属病院
消化器内科
アドレナリン依存性内皮細胞Immunogenic reprogrammingを介した腫瘍免疫機構の解明100
本研究では、胃腫瘍内アドレナリンシグナルによる、免疫応答制御機構のメカニズムを検討し、治療応用の可能性を検証した。血管内皮細胞に発現するADRB2を介したカテコラミンシグナルが腫瘍内のPDL1陽性F4/80陽性マクロファージ分画とCD80陽性CD11b陽性骨髄球分画を誘導していた。胃腫瘍オルガノイド移植マウスにAdrb2阻害剤を投与したところ腫瘍内骨髄球分画の減少、特にPD-L1を発現する分画の減少を認め、腫瘍内T細胞の増加を認めた。またAdrb2阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤の併用投与を行ったところ、コントロールおよびAdrb2阻害剤/免疫チェックポイント阻害剤単剤群に比べより効果的な腫瘍サイズ縮小効果が認められた。以上の結果より、Adrb2阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤の併用を含めた胃癌に対する新規治療法の可能性を提示することができた。
樋浦 仁
アブストラクト
研究報告書
東北大学大学院医学系研究科
情報遺伝学分野
ヒト胎盤栄養膜幹細胞を活用したがん免疫細胞療法100
がん免疫細胞療法では、主にNK細胞療法、樹状細胞療法などが利用されている。しかしながら、体外で培養する場合、免疫細胞の質的な低下だけでなく、がん患者の場合は、健常者に比べて質および量がさらに低下する。本研究では、ヒトTS細胞の細胞特性を活用し、がん免疫療法を行う際の安全かつ迅速な大量培養の検討を目的とした。ヒト末梢血単核細胞を培養液A:ヒトTS細胞培養液、培養液B:未分化TS 細胞を培養した培養液を含んだTS細胞培養液(CT-CM)、培養液C:ST 細胞を培養した培養液を含んだTS細胞培養液(ST-CM)にて培養し、細胞増殖能、細胞遊走能および抗酸化酵素遺伝子発現量について検討した。その結果、ST細胞の培養液中には、免疫細胞を増殖し、細胞遊走能が最も高いことが判明した。ST細胞の生理学的活性物質は、がん免疫細胞療法に有効である可能性が示された。
細川 健太郎
アブストラクト
研究報告書
九州大学大学院医学研究院
幹細胞再生修復医学分野
テロメア結合因子による造血幹細胞の自己複製制御機構の解明100
テロメアの安定性は細胞の生存だけでなく、代謝の恒常性に対しても影響を与えることが明らかになってきている。我々は以前テロメア結合因子shelterinのうちPot1aの機能について解析を進め、Pot1aが造血幹細胞(HSC)におけるテロメアDNAの損傷応答の抑制と、エネルギー代謝調節に関与することを見出した。また近年、別のshelterin因子Tin2はミトコンドリアの代謝調節に関与することが報告されている。そこで本研究ではTin2の局在に焦点を当て、HSCの代謝や自己複製に対する影響を明らかにすることを目的とした。増殖中のHSCにおいて、Tin2はミトコンドリアへの移行が見られ、エネルギーと共にROSの産生を増加させ、このことがHSCの自己複製に対し負に働くことが考えられた。一方Tin2の局在を核内に集積させるため、Tpp1やPot1を導入したところ、Tin2のミトコンドリアへの移行を抑え、低速度の自己複製型分裂を促進できることが示唆された。
森脇 健太
アブストラクト
研究報告書
大阪大学大学院医学系研究科
細胞生物学
赤血球脱核と形態維持における細胞内膜輸送系の役割100
上皮細胞の極性の形成維持には細胞内での方向性のある小胞輸送(極性輸送)が重要であり、我々はその分子機構並びに生理的・病理的意義の解析を行ってきた。その中で、小腸上皮細胞でアピカル面(管腔側)への極性輸送を司る分子としてEHBP1L1を以前に同定した。EHBP1L1ノックアウト(KO)マウスを作成したところ、胎生期後半から明らかな貧血を呈し、生後数時間以内に全て死亡した。KOマウスの末梢血で多くの有核赤血球が観察され、また、溶血性貧血の指標となる肝臓での鉄の沈着が見られた。このことから極性輸送制御分子EHBP1L1が赤血球の脱核とその形態の維持に非常に重要であることが明らかとなった。赤血球系細胞は非極性細胞であるが、脱核過程では核を押し出す方向に向かって極性が形成される。非極性細胞での一過的な極性形成の場面でもEHBP1L1が重要なことは、極性輸送機構の普遍性・共通性を示唆している。

平成30年度
血液医学分野 若手研究者継続助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
井上 毅
アブストラクト
研究報告書
大阪大学 免疫学フロンティア研究センター
分化制御研究室
記憶B細胞産生の分子メカニズム100
記憶B細胞および長期寿命プラズマ細胞は液性免疫の中心としてはたらく細胞であり、記憶B細胞の産生メカニズムの解明は、ワクチン開発戦略における重要な課題である。前年度までの成果で、転写因子Bach2欠損マウスにおける記憶B細胞産生異常の原因の一つが、エネルギー代謝の異常亢進であることが分かった。そこで本年度は新規マウスモデルを導入し、野生型の胚中心B細胞に特異的・誘導的に代謝状態を変化させる実験系を開発した。その結果、mTORC1活性は胚中心B細胞分化に重要な役割を果たしており、低代謝状態は記憶B細胞分化を亢進させる効果を持つことが明らかになった。

平成29年度
循環医学分野 一般研究者助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
笹野 哲郎
アブストラクト
研究報告書
東京医科歯科大学保健衛生学研究科
生命機能情報解析学
セルフリーミトコンドリアDNAを介した、心房細動が全身炎症を惹起する機序の解明100
心房細動は、血中CRPの上昇などの全身性の炎症を合併し、多くの全身性合併症を引き起こすことが知られているが、全身性炎症反応を惹起するメカニズムは解明されていない。申請者はセルフリーDNA(cfDNA)に着目して検討を行った。マウス心房筋細胞に高頻度ペーシング刺激を与えるとcfDNAが培地中に放出され、このcfDNAをマクロファージに加えるとIL-6, IL-1βの発現が増加した。定量的PCRにより評価すると、cfDNAの多くは核ではなくミトコンドリアDNA由来であった。核DNAとミトコンドリアDNAを個別に抽出して断片化した後マクロファージに添加したところ、ミトコンドリアDNAのみがIL-6発現を誘導した。このIL-6発現誘導は、TLR9アンタゴニストによって抑制された。以上より、心房細動においては、高頻度興奮により心房筋細胞がミトコンドリアcfDNAを細胞外に放出し、それがTLR9を介した自然免疫系のメカニズムによって炎症を惹起することが明らかとなった。

平成30年度
循環医学分野 一般研究者助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
吾郷 哲朗
アブストラクト
研究報告書
九州大学病院
腎高血圧脳血管内科
脳梗塞後の修復応答により誘導される梗塞周囲再髄鞘化および機能回復の分子細胞機構についての研究100
マウス中大脳動脈永久閉塞モデルを用いて,脳梗塞組織修復と機能回復の関連について検討した.脳梗塞後の組織修復に重要な役割を果たすペリサイトの機能が減弱したマウスとしてPDGFRβヘテロノックアウトマウス(PDGFRβ+/-)を用いた.PDGFRβ+/-では組織修復の抑制とともに梗塞周囲のアストログリオーシスが有意に減弱していた.梗塞周囲におけるOPC増殖は7日目でピークとなり野生型とPDGFRβ+/-で有意差を認めなかったが,OPC分化および再髄鞘化応答はPDGFRβ+/-で有意に抑制されていた.PDGFRβ+/-では14日目以降の運動機能回復が有意に抑制されており,再髄鞘化応答の経時変化とよく一致していた.培養細胞を用いた検討結果とも合わせ,ペリサイト由来細胞による有効な脳梗塞組織修復は,アストロサイト活性化を介したOPC分化・再髄鞘化応答を促進し機能回復に寄与するものと考えられた.
足立 健
アブストラクト
研究報告書
防衛医科大学校
内科学
循環器
心血管病におけるNO標的SERCA2の障害100
心不全ではSERCA2の障害が関与するが機序は明らかではない。研究代表者は、心不全において、SERCA2のCys674が酸化修飾を受けて障害される事を発見した。本研究の目的は心筋障害時のSERCA2酸化修飾を評価し、臨床的意義と薬物標的を探索することである。また、Cys674の電気学的特性と不整脈発症への関与を検討した。
Cys674亜硫酸化SERCA2を検出する抗体により、拡張型心筋症患者病理検体で免疫染色を行なった。65歳以下の患者では、BNP, MACEとの相関を認めた。SERCA2酸化障害を模倣したSERCA Cys674Ser ノックインマウスにアンジオテンシンIIを一週間持続皮下注射したところ、小胞体カルシウムハンドリング異常から致死性不整脈が誘発された。SERCA2 Cys674障害の心不全予後、致死性不整脈発症への関与が示唆された。
五十嵐 正樹
アブストラクト
研究報告書
東京大学医学部附属病院
糖尿病・代謝内科
腸管上皮が加齢に伴う血管病変形成に与える影響の解明とその治療への応用100
腸管は、栄養吸収、インクレチン分泌、腸内細菌叢などを通じ、全身の代謝の制御に重要な役割を持つ臓器である。しかし、腸管上皮の加齢における変化とその加齢に伴う心血管系の変化への影響は知られていない。そこで、腸管上皮の老化を制御すると考えられる長寿遺伝子SIRT1および細胞老化に関わるp53、Rbに着目して、血管病変への影響を解明する。腸管上皮のSIRT1はNeurogenin3発現と腸管内分泌細胞数の変化を通じて、腸管ホルモンの量を制御していると考えられる。GLP-1は心血管病変との関わりが、ヒト臨床試験からも示唆されており、腸管のSIRT1がGLP-1を介して動脈硬化を制御する可能性がある。また、腸管の細胞老化もGLP-1分泌や、糖新生を通じた全身のインスリン抵抗性への関わりが示唆され、今後、これら腸管の老化を特徴づける遺伝子変化により、心血管病変を制御する可能性について検討を継続する。
市原 佐保子
アブストラクト
研究報告書
自治医科大学
環境予防医学講座
環境応答機構の破綻がもたらす炎症誘導による血管内皮機能障害の機序解明100
循環器疾患は、喫煙、運動不足、不健康な飲食などが原因であり、個人の生活習慣の改善により予防可能な疾患の一つであると考えられているが、近年、大気汚染や土壌汚染などの原因となる環境化学物質が心血管疾患の発症を増加させているとの指摘もある。本研究では、物理化学的環境要因として環境中に飛散するナノサイズの物質の血管系への影響に注目し、動脈硬化モデル動物および血管内皮細胞に投与した結果、カーボンナノチューブの高濃度の曝露は、インフラマソームを構成する連結因子であるASCの細胞内での凝集を促進し、インフラマソームを活性化させ、動脈硬化を惹起する可能性が示唆された。血管内皮細胞障害を惹起する炎症応答に重要なインフラマソーム制御の役割の解明は、環境要因による毒性評価に役立つのみならず、生活習慣による循環器疾患の病態解明や発症予防法の確立に寄与すると考えられる。
伊藤 薫
アブストラクト
研究報告書
理化学研究所
生命医科学研究センター
循環器疾患研究チーム
アントラサイクリン心筋症病態解明と日本人精密化医療実現のための包括的ゲノム解析100
近年がんの寛解治癒率は格段に向上しているが、それに伴い抗がん剤副作用が予後やQOLを左右する主要因となっている。その中で最も重要な課題がアントラサイクリン系抗がん剤による心筋症であり、遺伝要因の理解は未だ十分でなく日本人固有の遺伝リスクも不明である。そこでゲノム研究の手法を用い、その分子メカニズム理解と新規治療標的の創出、患者層別化と最適な治療提案など、精密医療実現に資する研究を行う。日本人のスタディの予備実験とサンプル収集は順調に進んでいる。また欧米人からの解析結果から、心筋症関連遺伝子群のうちタイチン遺伝子のタンパク質短縮遺伝子変異が、アントラサイクリン心筋症の背景に存在し、発症リスクを増加させているものと考えられた。この結果から、積算量や臨床像だけでなく、遺伝子検査もアントラサイクリン心筋症発症の予測に重要であると考えられた。
猪原 匡史
アブストラクト
研究報告書
国立循環器病研究センター
脳血管部門
脳神経内科
脳梗塞の新規感受性遺伝子多型の日欧比較と当該多型が規定する脳梗塞の予後調査研究100
日本人46,958名(脳梗塞17,752名,対照29,206名)を対象に,RNF213 p.R4810K多型頻度を調べ,日本人の脳梗塞の強力なリスク遺伝子であることを確認した.多型保有者は,女性で発症リスクがより高く(オッズ比;男性1.50 (1.14-1.98) vs. 女性2.69 (1.95-3.69)),非保有者より発症が4歳以上若いことから,一般の孤発性脳梗塞とは異なる疾患群,謂わば「RNF213関連脳血管症」の存在が示唆された.一方で,INTERSTROKE研究に登録された欧州人には本多型は観察されず,東アジア固有の脳梗塞亜型であると考えられた.これらは,脳梗塞の人種差を説明する新知見であると考えられた.RNF213 p.R4810K多型陽性群(n=20)では陰性群(n=357)に比し,中大脳動脈狭窄,前交通動脈欠損,後交通動脈両側開存例が有意に多く,ウィルス動脈輪の構築に強い影響を与えることも明らかとなった.
小笠原 邦昭
アブストラクト
研究報告書
岩手医科大学医学部
脳神経外科学講座
頚動脈内膜剥離術を用いた脳循環不全性認知症とアルツハイマー病の関連の解明100
頚部頚動脈狭窄による脳循環不全をもつ症例に対し、PET上の脳内アミロイドの沈着程度、認知機能を頚動脈内膜剥離術前後に施行し、「頚動脈狭窄による脳循環不全が脳からのアミロイドの排出を阻害し、沈着したアミロイドが脳障害をきたす」かどうかおよびその可逆性を検証した。本研究は結果として「1)慢性脳循環不全は大脳半球のアミロイド沈着を促進しない、2) 慢性脳循環不全の改善は大脳半球のアミロイドを洗い流す、3) 大脳半球のアミロイドが洗い流された場合には認知機能が改善する」ことを示唆している。
沖 健司
アブストラクト
研究報告書
広島大学大学院医歯薬保健学研究科
分子内科学
シングルセル解析を基盤にした細胞間情報伝達を介したアルドステロン合成機構の解明100
原発性アルドステロン症は,アルドステロン産生腺腫 (APA) と特発性アルドステロン症に大別され,APAの30-60%に内向き整流性カリウムチャネル (Kir3.4) をコードするKCNJ5の体細胞変異が同定される.KCNJ5変異によるアルドステロン合成機構を明確にするために,シングルセル解析を用いて,個々の細胞レベルにおけるKCNJ5変異とCYP11B2発現量を明らかにし,アルドステロン合成の細胞内分子機構を解明することを最終目的とし,本研究において,適切なシングルセルを得るための条件検討を行うことを目的とした.手術で摘出したAPAを単一細胞に破砕し,フローサイトメトリーにより,細胞径が小さいもの,DAPIが適切に発現しているものを取り出すことにより,1000個以上の生細胞のみを回収することができた.抽出した細胞に,アルドステロン合成酵素CYP11B2が高発現しており,APA由来の細胞であることを確認した.
尾野 亘
アブストラクト
研究報告書
京都大学大学院医学研究科
循環器内科学
ATP保持による心筋梗塞治療法の開発100
ブタ心筋梗塞(虚血再灌流モデル)を用いてKUS121の保護効果を検討した。再灌流直後にKUS121を冠動脈内投与し、再灌流7日目に梗塞領域の評価を行った。TTC・エバンスブルー二重線色による組織学的な評価では、KUS121投与によって用量依存的に梗塞領域は減少した。また、遅延造影心臓MRIによる梗塞領域の評価においても同様の結果を示した。
心筋梗塞後の梗塞範囲の大きさは予後との相関があることが明らかにされている。心筋梗塞後の梗塞範囲を抑えることができれば、患者のQOLの大幅な改善にとどまらず、総死亡率ならびに心不全入院を減少させることが期待できる。
今後、新規の急性心筋梗塞治療薬として臨床応用へ向けた開発を行う予定である。心不全による再入院と治療においては現在莫大な医療費が使われているため、そのような心筋梗塞治療薬の開発は医療経済的にも大きな意義を持つと考えられる。
門田 真
アブストラクト
研究報告書
信州大学バイオメディカル研究所
バイオテクノロジー・生体医工学部門
多能性幹細胞由来心臓ペースメーカーの開発100
徐脈性不整脈の治療法である機械式ペースメーカー植込み術は、機械性能の向上とともに症例数が増加している。しかし、機械式ペースメーカーは、定期的な電池交換術が必要であり高額な医療費の問題に加え、手術後感染の増加が大きな問題となっている。本研究の目的は、多能性幹細胞由来心筋細胞からペースメーカー細胞を純化し、細胞治療による生物学的ペースメーカーを開発することである。ヒトES細胞株H9のペースメーカー細胞特異的遺伝子の下流に蛍光タンパク遺伝子DsRedをCRISPR/Cas9を用いて遺伝子導入し、レポーター遺伝子導入細胞株を作製に成功し、分化誘導を行ったが、DsRedの蛍光発現が弱く、移植に必要な細胞数が確保できなかった。今回作製した細胞株ではペースメーカー細胞の純化に至らなかったが、標識遺伝子を変更してレポーター細胞株の樹立に成功すれば、新たな細胞治療への応用が可能になると考えられる。
北川 知郎
アブストラクト
研究報告書
広島大学大学院医歯薬保健学研究科
循環器内科学
心外膜下脂肪の炎症基質に着目した冠動脈粥腫および弁膜石灰化への分子的アプローチ100
本研究では、画像ツールを用いた冠動脈粥腫および心臓弁膜石灰化の臨床的病態評価と、術中に採取した心外膜下脂肪組織(epicardial adipose tissue: EAT)の分子生物学的解析を対比することにより、EATの病原性の本質に迫った。また、新規バイオトレーサーを用いた次世代分子イメージングを活用し、EATの炎症基質に着目した新たな予防的治療戦略を模索した。その結果、以下の知見を得た。①CT上の冠動脈ハイリスクプラークを有する群においてはEATの炎症サイトカインIL-1β発現が亢進している。②フッ化ナトリウム(NaF)PETを用いた検討では、大動脈弁石灰化におけるNaF信号が冠動脈ハイリスクプラークや経時的な石灰化進展と相関する。③プラーク周囲EATのCT値とプラークNaF 信号は正の相関を呈し、冠動脈狭窄やハイリスクプラークで補正した後もプラーク周囲EATのCT値上昇がプラークNaF 信号亢進の有意な予測因子である。
佐藤 公雄
アブストラクト
研究報告書
東北大学病院
循環器内科 臨床医学開発室
これまでの基礎研究を基盤とした臨床応用研究100
研究代表者はこれまで、酸化ストレス刺激によって血管平滑筋細胞や活性化マクロファージ、活性化血小板、心線維芽細胞から分泌されるサイクロフィリンA (CyPA)およびその受容体basigin (Bsg)の心血管疾患発症の機序の解明を行ってきた。本研究の目的は、循環器疾患発症における酸化ストレス分泌蛋白サイクロフィリンA(CyPA)およびその受容体Basigin (Bsg)の基礎研究成果を臨床応用すべく診断薬や治療薬開発を行うことにある。CyPAとその受容体Bsgは循環器疾患のみならず癌の発症に重要な役割を果たしており、予後を規定する。そこで、CyPAとBsgの双方の発現を抑制し、細胞増殖抑制作用を指標としたハイスループット・スクリーニングを進め、セラストロールを発見した。また、セラストロールの投与により心不全に伴う肺高血圧動物モデルでの心機能および肺高血圧症の改善効果を確認し、論文報告を行った(Proc Natl Acad Sci U S A. 115:E7129-E7138, 2018.)。
束田 裕一
アブストラクト
研究報告書
九州大学稲盛フロンティア研究センター
先端生命情報研究部門
エピゲノムによるコレステロール調節機構100
生活習慣病は、食生活などの環境と加齢に密接な関係があり、環境と遺伝子発現の橋渡しをするエピゲノムがその発症に関与している。本研究では、エピゲノム制御因子KDM7の欠損により引き起こされる脂質異常をモデルとして、脂質異常症の発症機構におけるエピジェネティック制御の役割を解明し、その成果を脂質異常症の予防および治療法へと発展させることで国民の健康増進に貢献することを目的としている。本研究の結果、KDM7はマウスの雌雄を問わず視床下部、下垂体前葉におけるGnrh、Fshbの遺伝子発現を制御し、性ホルモンの調節に関与していることが示唆された。そして、KDM7欠損により雌マウスではエストロゲン合成が減少し、血中HDLコレステロールの減少を引き起こしている可能性が示唆された。本研究の継続は、脂質異常症の発症機構におけるエピジェネティック制御の役割解明へと繋がることが期待できる。
新妻 邦泰
アブストラクト
研究報告書
東北大学大学院医工学研究科
神経外科先端治療開発学分野
脳梗塞に対するMuse細胞治療の開発100
脳梗塞は高齢化に伴い患者数は増加傾向である。既存の如何なる治療法でも脳梗塞に陥った組織を回復できないため、脳組織自体を再生させ得る幹細胞治療に期待が集まっている。本研究課題では、東北大学で発見されたMuse細胞を用いて、新しい再生医療の開発に取り組んだ。本研究結果から、ラット脳梗塞後にMuse細胞を静脈内投与することにより、免疫抑制薬の有無に関わらず、少なくとも3ヶ月の段階においては有意な神経機能の改善が得られることが示唆された。さらなる検証が必要ではあるが、今後の臨床応用を考える際に、免疫抑制を使用しない選択肢も考えられるため、多彩な患者の状況にも対応可能になると考えられた。また、脳梗塞後2日で静脈内投与したMuse細胞が、投与翌日には梗塞巣に集積していたことから、脳梗塞においてもMuse細胞が病巣に遊走して神経機能を回復していることが示唆された。今後は更に、他の中枢神経疾患への応用を目指し検証を進める。
原田 睦生
アブストラクト
研究報告書
東京大学大学院医学系研究科
先端臨床医学開発講座
心不全進展過程におけるβ-アレスチン偏向性受容体CXCR7の機能解明100
CXCR7はマウス心臓で最も発現の多いGPCR遺伝子でありながら、その役割は不明である。このため本研究ではCXCR7の心臓における生理的、病理的役割を解明するために研究を実施した。
心筋細胞特異的CXCR7遺伝子欠損マウスに圧負荷 心不全を誘導すると、野生型マウスと比較して心機能の増悪傾向を認めた。一方で、血管内皮特異的、線維芽細胞特異的Cxcr7遺伝子欠損マウスの圧 負荷心不全モデルでは、野生型マウスと比較して明らかな差異を認めなかった。左冠動脈を結紮した心筋梗塞モデルを作成すると、心筋細胞特異的CXCR7遺伝子欠損マウスで有意な心機能の抑制を認めた。このため、心臓におけるCxcr7は心筋細胞に発現するものが主体となっており、 心保護的に働いている可能性が示唆された。
馬場 志郎
アブストラクト
研究報告書
京都大学医学部附属病院
小児科
HOIL-1L遺伝子異常による心不全発症および進行の病態解明100
 HOIL-1L遺伝子異常症は高率に重症筋症・心筋症となる。細胞内に異常多糖類(アミロペクチン)の蓄積が認められ筋症・心筋症発症・進行の原因といわれているが機序は全く不明である。
まず、骨格筋芽細胞株であるC2C12を用いた実験では、正常C2C12とHOIL-1L遺伝子ノックアウトC2C12(C2C12-KO)から分化した骨格筋細胞の比較では、いずれも有意なアミロペクチン沈着は認められなかった。一方、C2C12-KO骨格筋細胞でより未分化な骨格筋が作製されていた。HOIL1L遺伝子異常患者から作製したiPS細胞(HOIL-iPS)由来心筋細胞においても同様な結果であり、HOIL-iPS由来心筋細胞は、より未熟であることが示唆された。
以上より、HOIL-1L遺伝子は骨格筋・心筋分化に影響し、筋症・心筋症を発症すると考えられた。
福田 大受
アブストラクト
研究報告書
徳島大学大学院医歯薬学研究部
心臓血管病態医学分野
血管内皮細胞における自然免疫機構が糖尿病性血管機能障害の発症に与える影響の検討100
【背景】
細胞内核酸断片認識受容体のstimulator of IFN gene (STING)の糖尿病性血管内皮機能障害への関与を検討する。
【方法と結果】
糖尿病による内皮依存性血管弛緩反応は、野生型マウスで悪化したが、STING欠損マウスでは差がなかった。両系統に血糖値に差はなかった。また、STINGアゴニストのcGAMPによって、野生型マウスでは内皮依存性血管弛緩反応が悪化したが、STING KOマウスでは差がなかった。さらにcGAMPにより血管内皮細胞のVCMA-1などの炎症性物質の発現が増加した。また、cGAMPにより、TBK-1とIRF-3のリン酸化が増加した。さらに、TBK-1の阻害薬の存在下で、上述の炎症性物質の発現が抑制された。
【結語】
STINGが、高血糖下で遊離した核酸断片を認識し、血管内皮細胞の慢性炎症を惹起することで糖尿病性血管内皮機能障害を発症させる。

古橋 眞人
アブストラクト
研究報告書
札幌医科大学
循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座
心血管・代謝疾患における脂質シャペロンの役割解明100
脂質シャペロンの一つである脂肪酸結合タンパク4 (FABP4) は脂肪細胞とマクロファージに発現し、糖尿病および動脈硬化の形成に関連する。近年、FABP4が脂肪細胞から分泌され、新規のアディポカインとして働くことが報告されている。通常動脈の血管内皮細胞にはFABP4は発現しないが、細胞老化や血管傷害などにより血管内皮細胞にFABP4が異所性に誘導されることが報告された。今回、その意義について検討した。血管傷害により再生された血管内皮細胞において、異所性にFABP4が発現し、局所で分泌され、近傍の細胞にオートクライン、パラクラインで作用することで、炎症を惹起し、血管内皮機能の低下や血管平滑筋(様)細胞での増殖能や遊走能を増加させ、新生内膜形成に関与することが示された。臨床的には血管形成術後の再狭窄に血管内皮での異所性FABP4発現が病態に関与することが示唆され、新規の治療ターゲットになる可能性が期待される。
南野 徹
アブストラクト
研究報告書
新潟大学大学院医歯学総合研究科
循環器内科学
動脈硬化疾患に対する抗老化治療の開発100
これまで我々は、p53依存性の老化シグナルの活性化が、糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病の発症進展に関与することを報告してきた。しかしながら、p53を直接抑制することは、がん化に繋がるため臨床応用は困難である。さらに最近我々は、p53の下流で制御されるセマフォリンが糖尿病の病態に重要であることを見出した。そこで今回我々はペプチド抗原を用いた抗セマフォリン3Eワクチンを開発し、Sema3E-plexin D1経路を抑制することでがん化を促進することなく、糖代謝異常を改善する、新たな糖尿病治療の創出を目的として研究を開始した。食餌誘導性肥満モデルマウスに、アジュバントとともにSema3Eペプチド抗原を接種したところ、Sema3Eに対する抗体価の有意な上昇を認めた。ワクチン投与を行った肥満モデルマウスにおいて糖負荷試験を行ったところ、ワクチン群においてブドウ糖負荷後の血糖値の上昇が有意に抑制されたことからその有効性が示された。
宮脇 哲
アブストラクト
研究報告書
東京大学医学部
脳神経外科
脳海綿状血管奇形の発症に関わる新規関連遺伝子の同定100
脳海綿状血管奇形(CCM)において既知の原因遺伝子であるCCM1,2,3変異の有無およびCCM1,2,3以外の関連遺伝子の同定を目的にCCM症例を解析した。多発例5例に加え、単発例11例を対象とした。次世代シークエンサーを用いて網羅的に解析した。第一にCCM1,2,3変異を検索し、第二にCCM1,2,3変異陰性例における変異の中から疾患との関連が疑わしい新規関連遺伝子候補を抽出した。多発例の3例にいずれも過去に報告のない変異を3種類同定した。単発例にはCCM1,2,3変異は認められなかった。CCM1,2,3以外の関連遺伝子候補として、多発例においてLFNG, USP42, 単発例においてAUTS2, SOBP が抽出された。多発例、単発例におけるCCM1,2,3変異頻度及びその他の関連遺伝子候補を同定した。今後、追加症例の解析や機能解析を行うことで新たな根本的治療法開発につなげていくことが期待される。
八代 健太
アブストラクト
研究報告書
大阪大学大学院医学系研究科
心臓再生医療学共同研究講座
心筋緻密化の背景にある受容体GFRA2を介する新規シグナル経路の解明100
心筋緻密化は、心室壁の密度と厚みが増す心室壁の成熟過程である 。この過程に関連するシグナル経路の情報は断片的で、いまだに不明な点が多い。私たちは、マウスにおいて、神経栄養因子受容体GFRA2が、未知のシグナル経路によって心筋緻密化に必要である事を見出した。これを起点にして、この新規シグナル経路の本態を明らかにすることで、心筋緻密化の分子機構の理解を深めることを目的とし、心筋緻密化過程での遺伝子発現解析と、心筋緻密化過程を模倣するオルガノイドの樹立に挑む研究計画を開始した。現在、ヒトES細胞を用いる計画は準備段階にある一方で、マウスを用いて転写因子Sox17が心筋緻密化に関与することを見出した。また、オルガノイド樹立のために、マウスES細胞から心内膜様の内皮細胞を得て、さらにこれが心内膜と言えるかどうかを現在は検証中である。今後も引き続き研究計画を継続し、臨床的な応用への発展に挑みたい。
山下 徹
アブストラクト
研究報告書
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
脳神経内科学
新しい慢性脳低灌流アルツハイマーモデルマウスを用いた新規脳血管保護療法の確立100
本研究では、慢性脳低灌流アルツハイマー病マウスモデルに対して、フリーラジカルスカベンジャ-であるエダラボンを投与しその治療効果を検討した。
 APP23マウス16週齢オス16匹は、偽手術のみとして、32匹にアメロイドコンストリクターを両側総頚動脈に取り付けることで、慢性脳低潅流モデルを作成し、16匹にエダラボン50ミリグラム/キログラム、16匹に溶媒を隔日で腹腔投与を行った。
 12週齢の時点で、エダラボン治療群はロータロッドにおける運動機能と8字迷路テスト上の有意に改善を認めた。またエダラボン治療群はアミロイドβオリゴマーとリン酸化タウの沈着が有意に低下し、酸化ストレスマーカー 3-NTとAGEならびに炎症マーカーIL-1βとNLRP3の発現も有意に抑制されていた。
 以上の結果から、酸化ストレス自体が慢性脳低潅流を伴ったアルツハイマー病の病態メカニズムに重要な役割を持っていることが示唆された。

平成30年度
循環医学分野 若手研究者助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
魚崎 英毅
アブストラクト
研究報告書
自治医科大学 分子病態治療研究センター
再生医学研究部
足場の硬化による心筋細胞の機能低下メカニズムの解明100
多能性幹細胞から誘導した心筋細胞(PSC-CMs)は長期培養を行っても十分に成熟しない。そこで、成熟度の指標となるレポーター細胞を開発し、細胞外マトリックス(ECM)のスクリーニングを行い、PSC-CMsの成熟を促進するECMを同定した。
成熟度レポーターはMyom2遺伝子座にRFPをノックインし樹立した。Myom2-RFPはES細胞から心筋細胞へと分化誘導すると、分化28日目で70%が陽性となる。Myom2-RFP陽性細胞は形態、サルコメア構造、二核化、生理学機能などで、RFP陰性細胞より成熟した性質を持つ。15種類のECMから、Myom2-RFPの蛍光輝度を増加させるLN511,521を同定した。LN511, 521上でPSC-CMsを培養すると、PSC-CMsはより成熟した。
本研究を進めることで、より成熟したPSC-CMsが得られ、創薬や疾患研究への応用が可能になると考えられる。
神吉 康晴
アブストラクト
研究報告書
東京大学 アイソトープ総合センター
RI教育研究推進部門
ヘテロクロマチン及び染色体構造による血管老化機構の解明100
本研究は、動脈硬化の初期イベントである血管内皮細胞への単球接着に関与するエピゲノム因子を探索する目的で研究を開始した。単球接着には、血管内皮細胞上に発現する接着因子VCAM1, ICAM1, E-selectinなどが重要である。これらの発現変動を調べていくと、炎症性サイトカインを受容した血管内皮細胞では、KDM7A、UTXという2つのヒストン脱メチル化酵素が、ヘテロクロマチン状態を速やかに除去することが重要であることが示された。更に、上記2つの酵素の阻害剤をマウスに投与すると、単球接着が有意に抑制された。これらの結果から、血中の脂質の高い患者において、KDM7AやUTXの阻害剤は、動脈硬化初期イベントである単球接着を阻害する可能性が示唆された。
櫛笥 博子
アブストラクト
研究報告書
東京医科歯科大学 難治疾患研究所
生体情報薬理学分野
タイプ別心筋のダイレクトリプログラミングにおける研究100
胚発生、幹細胞からの心筋誘導研究は、線維芽細胞から心筋への分化転換方法の樹立に大きく貢献した。しかしながら、機能性の異なる心筋タイプへの分化転換法は確立されていない。
本研究では、タイプ別心筋への分化転換の制御機構を明らかにし、線維芽細胞の性質の理解を目的とした。まず、マウス胚発生過程心臓とヒトiPS細胞由来分化過程心筋からタイプ別心筋の誘導に必要と予測される遺伝子プロファイルを作成した。次に、強制発現系を用いてタイプ別心筋の誘導法を確立した。また同因子は、線維芽細胞を用いた心筋分化転換実験においても、タイプ別心筋に分化転換させる機能を有した。興味深いことに、線維芽細胞においてレチノイン酸シグナルは恒常的に活性化されており、心房筋へ分化転換しやすいことを見出した。この発見は線維芽細胞由来心筋を用いた再生医療研究の発展と、レチノイン酸シグナルの組織特異的な転写制御機構の理解に寄与する。
篠原 啓介
アブストラクト
研究報告書
九州大学病院
循環器内科
心肥大における心-脳連関による交感神経出力増加の機序解明100
【目的】心臓求心性交感神経末端のTRPV1刺激の増強を介した延髄孤束核でのBDNF増加が、心肥大における交感神経活性化の機序に関与するかを明らかにする。【方法と結果】C57BL/6Jマウスにおいて腹部大動脈狭窄術により左室重量が増加し、心臓TRPV1および孤束核BDNFの発現が増加した。心臓TRPV1の刺激により交感神経出力増加を介した昇圧反応が起こることから、TRPV1のリガンドであるカプサイシンを心表面に貼付し血圧の変化を測定したところ、大動脈狭窄術群でsham群と比しカプサイシンによる昇圧反応は増強した。腹部大動脈狭窄術により誘導されたこれらの変化は、TRPV1ノックアウトマウスにおいてすべて抑制された。【考察】圧負荷心肥大における交感神経出力の増加や心肥大には、心臓TRPV1を介した心臓求心性交感神経活性化および弧束核BDNF増加が関与することが示された。
遠山 周吾
アブストラクト
研究報告書
慶應義塾大学医学部
循環器内科(臓器再生医学)
代謝制御と力学刺激による成熟化ヒト心筋組織の作製と創薬への応用100
ヒトiPS細胞はあらゆる細胞に分化可能であり、再生医療や創薬スクリーニングへの応用が期待されている。しかし、ヒトiPS細胞から作製した心筋細胞は様々な成熟段階の細胞から構成される不均一な集団であるため、創薬スクリーニングにおける表現型のばらつきが問題となっている。本研究では、成熟化を促進させる手法として培養環境および3次元心筋組織における力学刺激に着目した。まず、ヒトiPS細胞から高純度心室筋細胞を作製し、それらを用いて、Engineered Heart Tissue (EHT) を作製した。EHTでは配向性が認め、成熟化マーカーが顕著に上昇していることを確認した。さらにEHTに対してISPを添加したところ、陽性変時作用、陽性変力作用が認められた。今後は成熟度を促進させる添加因子や培養条件を探索し、未熟心筋組織と成熟心筋組織における薬剤応答性の差異を明らかにしたい。
中原 健裕
アブストラクト
研究報告書
慶應義塾大学医学部
放射線科学教室(診断)
大動脈瘤進展・破裂予測におけるNaF/FDG PETの有用性の検討~新規治療法・新規薬剤開発の礎100
大動脈瘤は慢性的な炎症性疾患であり、死亡率も高い。無症状に進展・破裂し、その予測はできない。我々は、同じく炎症を背景とする動脈硬化症において、18F-NaF/FDGを用いた分子イメージング(PET)が有益であることを示してきた。本研究の目的は、同一個体の同一病変における18F-NaF/FDGの取り込み及び大動脈瘤の経時的変化を生体内で観測し、大動脈瘤進展・破裂予測におけるNaF/FDG PETの有用性を評価する事である。ラット大動脈瘤モデルにおいて、FDG・NaFの取り込みは経時的に変化した。主にマクロファージ活性を反映するFDG取り込みは比較的早期に対照群と同レベルまで低下したのに対し、微小石灰化を反映するNaFの取り込みは遷延し、対照群よりも高いレベルを維持した。以上より大動脈瘤進展予測におけるFDG/NaF PETの有用性を示唆し、臨床的応用時の解釈の補助となると考えられる。
中村 晋之
アブストラクト
研究報告書
九州大学病院
腎・高血圧・脳血管内科
脳血管障害後の組織修復に細胞外マトリックスperlecanが与える影響に関する研究100
我々は細胞外マトリックス蛋白perlecanが脳血管において内皮細胞・ペリサイト間の基底膜に存在することに着目し、脳虚血病態における両細胞間の密な相互作用すなわち血液脳関門(BBB)の維持に関与しているのではないかと考え、Perlecan KOマウスに対して脳梗塞モデルを用いて検討した。Perlecan KOマウスでは梗塞巣の拡大・BBB破綻の増悪がみられた。脳虚血によって梗塞巣および周囲にはペリサイトが動員されるが、Perlecan KOマウスではそれが抑制されていた。Recombinant perlecan domain V (DV)を作成して機序を検討したところ、perlecan DVがPDGFRβおよびintegrin α5β1の協調作用によって脳血管ペリサイトの遊走を促進した。脳梗塞後にperlecan DVを投与すると、梗塞巣周辺でのペリサイト増加をさらに促し、梗塞サイズが縮小する傾向がみられた。脳梗塞修復を促進させる治療にむけて、今後更なる検討が必要である。
原 弘典
アブストラクト
研究報告書
東京大学医学部附属病院
循環器内科
Hippo-YAP経路を標的とした新規心筋再生治療の開発100
従来、成体心筋細胞は増殖しないと考えられてきたが、近年、成体心筋細胞も、主に既存の心筋細胞が分裂することで、僅かながら自己再生しており、その機序として「既存の心筋細胞の分裂」が注目されている。成体心筋細胞の増殖メカニズムを解明し増幅することができれば、従来の虚血性心疾患・心不全治療の効果を補足・促進する新たな治療手段の提供に繋がる可能性がある。本研究では増殖を司るHippo経路の転写因子TEADsの転写活性を指標に、心筋細胞増殖と心筋再生を促進する薬剤の創出を試みた。約18,600種類の機能未知化合物ライブラリーから有効な化合物を選択、さらに改変することで、マウス心筋梗塞モデルにおいて心臓線維化の軽減と心機能改善に有効な化合物を創出した。この化合物はヒトiPS細胞由来心筋細胞でも増殖効果を認めた。今後、虚血性心疾患・重症心不全患者への新たな治療の開発、さらには心筋細胞の分裂機序解明が期待される。
福田 達也
アブストラクト
研究報告書
徳島大学大学院医歯薬学研究部
薬学域
衛生薬学分野
脳への微弱電流処理によるBBB開口・リポソーム動態制御による脳梗塞治療法の開発100
脳梗塞時の特徴的な病態である血液脳関門(BBB)の透過性亢進に着目し、リポソーム製剤を用いた脳梗塞治療の有用性を報告してきた。しかし、リポソームの患部への移行は虚血/再灌流後の早期に限定されるため、この時間的制限を克服し、BBBを突破可能な技術が求められる。我々は、イオントフォレシスに用いられる微弱電流処理が組織細胞間隙の開裂を誘起し、リポソーム等のナノ粒子の組織内浸透を促進するという知見に基づき、脳への微弱電流処理によってBBBを構成する細胞の生理を制御し、BBBの開口を誘起することで脳梗塞部位へのリポソーム製剤の集積性を増大することを目的とした。発育鶏卵を用いた検討から、微弱電流処理が低分子・高分子物質の血管外への漏出を促進、すなわち血管透過性の亢進を誘起することが示唆された。一方、脳梗塞モデルラットを用いた検討では期待した結果を得ることが困難であったため、条件を最適化する必要がある。
吉田 陽子
アブストラクト
研究報告書
新潟大学大学院医歯学総合研究科
循環器内科学/先進老化制御学講座
ミトコンドリアダイナミクスを標的とした新たな心不全治療の開発100
重症心不全患者には集学的治療が有効なレスポンダー群と、抵抗性を示すノンレスポンダー群が存在し、ノンレスポンダー群の予後は特に悪く医学管理上問題となる。ノンレスポンダー群の詳細な分子機序や、両者を鑑別する確立したマーカーは存在せず、未だ満たされない医療ニーズが多く存在する。我々はヒト心不全患者の心筋組織を用いた検討において、従来の集学的心不全治療が有効なレスポンダー群と比べ、治療に不応性のノンレスポンダー群でヒト心臓サンプルを用いて検討した結果、ノンレスポンダー群で、心筋細胞のミトコンドリア数やサイズが減少していること、また心筋細胞のMitofusin-1の発現が減少することがわかった。その分子機序として、過剰な交感神経からcAMP-PKAシグナル経路を介してMfn1の発現が制御されているものと考えられた。本研究により、心臓のMitofusin-1を標的とした心不全治療も創出できる可能性があると考えられた。

平成30年度
循環医学分野 若手研究者継続助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
楠本 大
アブストラクト
研究報告書
慶應義塾大学医学部
循環器内科/救急科
抗動脈硬化iPS由来血管内皮細胞にて高発現している霊長類特異的遺伝子POTEEが、動脈硬化抑制に果たす役割の検討100
我々は、動脈硬化リスクが非常に大きいにもかかわらず動脈硬化進行が全く認められない抗動脈硬化患者から作成したiPS細胞由来血管内皮細胞では、霊長類特異的遺伝子POTEEが高発現していることを突き止め、詳細な解析を行なった。POTEEを培養血管内皮細胞に強制発現させると、酸化ストレスに誘導される細胞老化や炎症を抑制し、炎症惹起転写因子であるNFκBの活性化を抑制した。またPOTEEの結合蛋白を質量分析法により網羅的に解析を行い、低分子G蛋白であるRAN関連タンパクと強く相互作用していることが分かった。POTEEはRNAシグナルの活性化を促進する事でNFκBの作用を減弱することが判明した。血管内皮細胞特異的にPOTEEを強制発現させるマウスを作成したところ、大腿動脈カフモデルに誘導される血管障害を著明に抑制した。またAPOE-/- マウスと交配させ高脂肪食を投与して動脈硬化を誘導すると、POTEEは動脈硬化進行を著明に抑制することが示された。

平成29年度
先進研究助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
吉村 昭彦
アブストラクト
研究報告書
慶應義塾大学医学部
微生物学・免疫学教室
脳内炎症の収束と組織修復にかかわる免疫細胞の解析1,000
脳梗塞は我が国における主な死因、寝たきりの原因のひとつであるが治療法は限られている。脳梗塞後数日間に炎症が起こることにより、脳浮腫や梗塞領域の拡大、症状の悪化が起こることが明らかとなってきた。脳梗塞急性期や亜急性期の自然免疫応答に関する研究は進んできているにもかかわらず、慢性期の獲得免疫応答は明らかとなっていない。我々はマウス中大脳動脈閉塞モデルを用いて脳梗塞後7日目から21日にかけての慢性期におけるT細胞の免疫応答を解析した。その結果脳梗塞慢性期の神経症状の回復には脳特異的な制御性T細胞が重要な役割を果たしていることがわかった。脳Tregはサイトカインなどの神経傷害性因子やグリオーシス亢進因子を抑えることによって、脳梗塞後の脳内ホメオスタシスの維持に寄与していると考えられる。本成果は本年度Nature誌(Ito et al. 565:246-250)に報告した。
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