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2022年度 研究成果報告集

令和3年度
精神薬療分野 一般研究者助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
小池 進介
アブストラクト
研究報告書
東京大学大学院総合文化研究科 進化認知科学研究センター精神疾患多施設データセットの結合による脳画像特徴量スコアの開発100
精神疾患における脳画像多施設共同研究では、異なるプロジェクトデータセット間でも適切に補正し、大規模データを一括して解析する方法が確立しつつある。本研究では、既存の2つの脳構造画像データセットを用いた発達・加齢曲線を非線形回帰によって推定し、各個人の個人差を抽出する手法を確立した。そのうえで、③ Polygenetic risk scoreと似た手法で脳画像的な特徴量スコアを機械学習解析によって開発し、疾患分類法の可能性を示した。さらに、通常の解析では難しかった疾患群内のサブタイプ抽出の可能性を示した。今後は、脳画像べーすのサブタイプ分類の病態基盤解析、機械学習器を思春期発達データに適用した精神症状の形成予測などを明らかにする予定である。
疋田 貴俊
アブストラクト
研究報告書
大阪大学蛋白質研究所 蛋白質高次機能学研究部門 高次脳機能学研究室多点ドーパミンイメージングによる統合失調症の神経回路病態の解析100
報酬行動や認知行動は大脳皮質-側坐核神経回路により制御されている。 統合失調症をはじめとした精神疾患では大脳皮質-側坐核神経回路が変化し、行動異常や認知障害を引き起こす。ドーパミンは、脳内報酬系を介して報酬情報処理を行っており、統合失調症ではドーパミン神経伝達の異常がある。大脳皮質-側坐核神経回路は、大脳皮質、側坐核、腹側淡蒼球などの複数の脳領域から構成され、それぞれ腹側被蓋野からのドーパミン入力を受けている。 しかしながら、これらのドーパミン修飾がどのように大脳皮質-側坐核神経回路に作用しているかは明らかになっていない。そこで、マウスの報酬行動において、側坐核と腹側淡蒼球におけるドーパミン動態を同時観測した。その結果、側坐核と腹側淡蒼球では異なるドーパミン動態が観察された。今後、統合失調症モデルマウスの解析により、統合失調症病態の解明や新しい治療法の開発につながる。
藤原 和之
アブストラクト
研究報告書
群馬大学大学院医学系研究科 神経精神医学分野(精神科神経科)GABA神経系の制御による統合失調症の認知機能障害の治療法開発100
統合失調症の死後脳研究では、GABA合成酵素の一種GAD67の減少が繰り返し報告されている。この知見に基づき、Lewisらは「GAD67の発現低下がGABA神経伝達障害を引き起こし、結果として統合失調症の症状(特に作業記憶等の認知機能障害)を引き起こす」という仮説を提唱している(Lewis et al., 2011)。しかし、死後脳研究は観察研究であるため、GAD67の低下が本当に認知機能障害を引き起こしたのか否か、因果関係を立証することは困難であった。我々は最近、CRISPR-Cas9技術を用いて、GAD67ノックアウトラット(GAD67KO)の作成に成功した(Fujihara et al., 2020)。現在、我々は成獣のGAD67KOラットにおいてGAD67の発現量を回復させる治療モデルの開発に取り組んでいる。本報告書では、そのプロジェクトで使用するGAD67KOラットおよび治療モデルでのハイスループットな認知機能障害評価法の導入について報告する。
渡部 雄一郎
アブストラクト
研究報告書
新潟大学大学院医歯学総合研究科 精神医学分野統合失調症の発症に大きな効果をもつde novo変異の同定100
両親には存在せず患者で新たに生じたde novo変異が、統合失調症の発症に大きな効果をもつことが示されている。De novo変異には生殖細胞系列変異と体細胞変異が含まれるが、体細胞変異に関する研究は十分になされていない。本研究の目的は、統合失調症の発症に大きな効果をもつde novo変異(生殖細胞系列変異と体細胞変異)を明らかにすることである。統合失調症患者・両親60家系を対象とし、通常深度の全エクソーム解析、高深度の全エクソーム解析、超高深度のターゲットシーケンスを実施した。患者・両親60家系において生殖細胞de novo変異を62個、患者・両親34家系において体細胞de novo変異を26個同定した。これらの変異が存在する遺伝子のなかには、統合失調症のリスク遺伝子として報告されているものが複数含まれていた。したがって、今回同定された変異の中には真のリスク変異が含まれているものと考えられる。
池田 匡志
アブストラクト
研究報告書
藤田医科大学医学部 精神神経科学リピドミクスとゲノミクスの多層的解析による双極性障害の病態生理解明100
ω-3/ω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)と双極性障害(BD)の関連が指摘されており、BDの病態に脂質異常が関与する可能性が示唆されている。本研究では、BDとPUFAの関連/因果関係を明確化することを目的とした解析を行い、1)PUFAの量的効果を規定するSNPを同定することで、血漿中のPUFA濃度におけるSNPの影響を検討(QTL解析)、2)因果関係を検討するメンデルランダム化(MR)解析を実施した。PUFAの量的効果を検討するQTL解析においては、血漿中のω-3/ω-6 PUFAではγ-リノレン酸とアラキドン酸以外有意な関連が認められなかった。他方、MR解析において、ω-3/ω-6PUFAの構成要素と強く関連するSNPsは、BD感受性に対して因果関係にない結果が得られた。本結果は偽陰性を示していることも考えられ、確定的な結論を得るためには、さらなるサンプル数を用いた解析が必要である。
㓛刀 浩
アブストラクト
研究報告書
帝京大学医学部 精神神経科学講座気分障害におけるストレス要因を規定する栄養・腸内環境の解明100
本研究は気分障害における視床下部―下垂体―副腎系の異常について、毛髪サンプルを用いて評価し、ストレス関連症状や栄養学的異常、腸内細菌叢について調べ、気分障害における食生活習慣・栄養学的異常とストレス応答との関連について明らかにすることを目的とする。報告書作成時点で研究は進行中であり、既存の非臨床サンプルを用いた予備的解析を行った。その結果、毛髪中のコルチゾール値とうつ症状、不安症状などのストレス関連症状や睡眠指標との間に明らかな相関を認めず、毛髪中コルチゾール値の臨床的有用性が高いことを示唆する結果は得られなかった。一方、うつ病症状と栄養学的指標との相関を検討したところ、血中フェリチン値やエイコサペンタエン酸値と有意な負の相関がみられ、これらの栄養素の補充がうつ症状の予防や軽減に有効である可能性が示唆された。
高橋 長秀
アブストラクト
研究報告書
名古屋大学医学部附属病院 親と子どもの心療科産後うつ病の全ゲノム・メタボローム解析による病態解明とバイオマーカーの開発100
産後うつ病は頻度が高く、妊産婦に苦痛とQOL低下、ひいては自死をもたらし、児の養育環境の悪化も引き起こすため、要介入群の同定や適切な治療法の確立が課題である。しかし、産後うつ病の病態生理は明らかになっておらず、発症リスクや重症度を予測するバイオマーカーなどが存在しない。本研究では、妊産婦前向きコホート参加者のDNAおよび血漿を用いて、ゲノムワイド関連解析による発症リスクを高める遺伝子多型とパスウェイの同定を行なった。被験者の21.6%が産後うつ病を発症し、9q34.2に位置するABO遺伝子のイントロン領域に位置するSNPがゲノムワイドな関連を示した(OR[SE]=2.019[0.123]、 P=8.58×10-09)。この関連は東北メディカルメガバンクの参加者においても再現された(OR[SE=1.121]、P=0.036)。
竹林 実
アブストラクト
研究報告書
熊本大学大学院生命科学研究部 神経精神医学講座ドラッグリポジショニングによる抗うつ薬のグリア創薬研究100
抗うつ効果の高い古典的な三環系抗うつ薬が、グリアにおいてLysophosphatidic acid(LPA)1受容体を標的としていることを過去に明らかにした。高感度のLPA1受容体アッセイ系を確立し、約1600種類の既存薬を用いて、網羅的にLPA1受容体活性の有する化合物を探索した。その結果、1次及び2次スクリーニングを行い、約30化合物がヒットした。今後in vivoうつ病モデルで検討し、候補化合物をさらに選定する予定である。
橋本 謙二
アブストラクト
研究報告書
千葉大学社会精神保健教育研究センター 病態解析研究部門ケタミンの持続抗うつ効果の機序解明に関する研究100
麻酔薬ケタミンは、難治性うつ病患者に対して即効性かつ持続性の抗うつ作用を示すことが、多くの臨床研究で証明されている。一方、前臨床試験において、ケタミンは長期にわたりストレス等によるうつ様行動に対して予防効果を示すことが報告されている。しかしながら、ケタミンの長期に持続する予防効果に関わる機序は明らかでない。本研究では、新規抗うつ薬アールケタミンの炎症性うつ病の予防効果として、NFATc4およびmiR-149が関与している可能性を見出した。また慢性拘束ストレスモデルにおいて、アールケタミンの予防効果にmiR-132-5pが関与することを報告した。これらの結果より、アールケタミンはうつ病の治療だけでなく、うつ病の再発予防にも応用できると考えられる。
麻生 悌二郎
アブストラクト
研究報告書
高知大学教育研究部 医療学系基礎医学部門 遺伝子機能解析学講座BRI2/BRI3のユビキチン化阻害による革新的アルツハイマー病創薬100
アルツハイマー病(AD)は認知症の約7割を占めるが、根治療法は存在せず、その開発が急務である。アミロイド前駆体(APP)結合タンパク質であるBRI2とBRI3は、アミロイドβ(Aβ)の産生、分解、凝集、および糖尿病の発症と同病へのAD合併に深く関わる膵島アミロイドポリペプチド(IAPP)の分解、凝集の複数の過程を制御することにより生理的な抗AD因子として機能する。最近私どもは、NRBP1を基質認識タンパク質としてもつユビキチンリガーゼがこれらBRI2、BRI3を選択的にユビキチン化して分解に導くことを発見した。そこで本研究では、革新的AD治療薬の開発に寄与することを目的に、NRBP1-BRI2間相互作用を特異的に阻害する化合物をAMED中分子化合物(15,000個)のライブラリーから二分子発光補完法を用いたハイスループットスクリーニング(HTS)により探索し、19個のヒット化合物を得た。
川辺 浩志
アブストラクト
研究報告書
群馬大学大学院医学系研究科 薬理学分野記憶障害の革新的治療法の確立を目指した特異的ユビキチン化の阻害剤の開発100
社会の高齢化に伴い認知症患者数が年々増加している。認知症は大きく4つに分類できる。アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症のいずれの場合も脳高次機能の中でも特に記憶能力が顕著に低下している。これらの認知症の根治療法の開発が進んでいないため、記憶障害に対する対症療法の開発が重要になっている。記憶は神経細胞の中でもシナプスで制御されている。申請者は、シナプスの形成と機能の制御機構の中でも、ユビキチン化による制御機構の研究に関して多くの成果をあげてきた。ユビキチン化の基質特異性を決定するE3 リガーゼであるNedd4ファミリーのE3リガーゼが記憶能力を抑制していることを発見した。本研究ではこの結果を踏まえ、このNedd4ファミリーE3リガーゼによる特異的ユビキチン化がどのように記憶能力に重要かを明らかにした。
等 誠司
アブストラクト
研究報告書
滋賀医科大学 生理学講座 統合臓器生理学部門遺伝子改変カニクイザルを用いた前頭側頭葉変性症の病態解明100
前頭側頭葉変性症(FTLD)は、若年発症を特徴とする認知症の1つで、タウやTDP-43, FUSなどの変性タンパク質が神経細胞死を引き起こすと考えられるものの、細胞死に至るメカニズムはわかっていない。前頭葉の発達が弱い齧歯類では、FTLDの病態を忠実に再現することが困難であるため、本研究ではヒト変異型FUS遺伝子を過剰発現するトランスジェニックカニクイザルの作製を試みた。変異型FUSの恒常的な過剰発現は、カニクイザルの初期発生や神経発生を障害する可能性が高いので、テトラサイクリン発現誘導システムを用いた。レンチウイルスをベクターとしてカニクイザル受精卵に遺伝子導入し、1頭のトランスジェニックカニクイザルを得た。出産時に採取した胎盤から線維芽細胞を樹立し、ドキシサイクリンを添加して培養したところ、変異型FUSの発現誘導が確認された。今後、ドキシサイクリン投与による脳病理を解析する予定である。
森 康治
アブストラクト
研究報告書
大阪大学大学院医学系研究科 精神医学前頭側頭型認知症におけるリピート翻訳の選択性制御機構の解明100
FTDは、前頭葉の障害による常同行動、脱抑制的な性格変化、側頭葉の障害による進行性失語などを呈する認知症である。C9orf72遺伝子イントロンのGGGGCCリピート伸長変異では家族性のFTDやその類縁疾患であるALSが引き起こされる。この核酸リピートはRepat associated non-AUG(RAN)翻訳により3つ全ての翻訳フレームでDPRへと翻訳される。本研究では我々が新規に同定した翻訳関連分子に着目した。新規因子のノックダウンはDPRの一つであるPoly-GAの発現量を減少させ、逆に過剰発現ではPoly-GAの発現量を増加させた。本因子がPoly-GA以外のDPRの発現量をも調整するのか現在検証を続けている。RAN翻訳阻害によるC9orf72-FTD/ALSの新たな治療法開発の観点から、より生体条件を反映したモデルとしてiPS細胞由来神経細胞での解析も展開していく必要がある。
木村 亮
アブストラクト
研究報告書
京都大学大学院医学研究科 形態形成機構学ゼブラフィッシュ表現型解析を用いた自閉スペクトラム症治療薬の探索100
自閉スペクトラム症(ASD)は、社会コミュニケーション障害等を特徴とし、国内外で増加しているが、その原因は不明である。近年、大規模なゲノム研究によりASDに関わる遺伝子が多数報告されているが、それら遺伝子の機能解析は遅れており、創薬への障壁となっている。
 本研究では、ヒト遺伝子と約80%の相同性を有し、生育・変異体作成が容易なゼブラフィッシュに着目、ASD発症に関わる最有力遺伝子の一つであるdyrk1a遺伝子を標的として、モデル作成・表現型解析等を通じて、創薬スクリーニングへの可能性を検討した。
佐々木 哲也
アブストラクト
研究報告書
筑波大学医学医療系 生命医科学域 解剖学・神経科学研究室自閉的行動基盤を形成する神経回路形成・再編成機構の解明100
ヒトの大脳皮質では、出生直後から興奮性シナプスが急速に増え、児童期に最大値に達した後減少する(オーバーシュート型シナプス形成)。シナプスの「刈り込み」は、機能的な神経回路を作り上げるために不可欠な過程とされるが、どのような仕組みで起こるかはわかっていない。このシナプス形成異常が、様々な精神疾患に関与していることが明らかになりつつある。例えば、自閉症スペクトラム障害者の脳では刈り込みが少ないため、過剰なシナプスが維持されていると考えられている。本研究は、自閉症様行動を示す霊長類を用いて、ヒト自閉症患者に見られる「オーバーシュート型」のシナプス形成の異常とその基盤となる分子メカニズムを明らかにしようと試みるものである。
竹本 さやか
アブストラクト
研究報告書
名古屋大学環境医学研究所 神経系I分野カルシウムシグナリング分子の遺伝子変異発達障害モデルを用いた実験的治療検証研究100
カルシウムシグナリングは、細胞内カルシウム上昇に伴い活性化されるシグナル伝達経路で、カルシウムチャネルやカルシウムの結合により活性化される各種機能タンパク質により構成される。神経活動を細胞応答に結びつけ、生理的には神経回路形成やシナプス可塑性といった脳機能を支える分子基盤を担う。近年、ゲノムワイド関連解析や全エクソームシーケンシングなどの大規模解析により本経路の遺伝的変異が発達障害(自閉スペクトラム症など)や統合失調症などの遺伝的要因となることが判明しその重要性が裏付けられる。しかしながら、各変異の分子的意義やその結果如何にして疾患に結びつくのか、発症や病態機序の理解は不十分である。そこで、本研究では病態解明および治療法開発へと繋げるために、発達障害患者より見いだされたカルシウムシグナリング分子の変異を模倣する新たな病態モデルマウスを作出し、その樹立に成功した。
中村 和彦
アブストラクト
研究報告書
弘前大学大学院医学研究科 神経精神医学講座発達障害のメタボローム解析、エクソーム解析、臨床データの多変量解析での特徴や相関100
神経発達症群の診断のための有効なバイオマーカーを探索するため網羅的なメタボローム解析を行った。1)自閉症診断ツール、注意欠如・多動症診断ツールなどの各種診断ツールを用いて診断した5歳児の末梢血由来の血漿を対象とした。2)これらの血漿のメタボローム解析を施行し、各種データの多変量解析を行い相関を明らかにした。健常群とASD群で最も有意に変動のあった代謝物はA因子であった。ROC曲線を解析し、カットオフ値82.8 ng/mlで感度77.2%、特異度71.2%であった。また、パスウェイ解析で、酸化ストレスや脂質代謝異常が示唆された。さらにA因子はASD群のAQの下位項目全てと有意に正の相関関係にあることがわかった。A因子は診断に有効な生物学的traitマーカーかつ、症状の重症度のstateマーカーにも利用できる可能性が示唆された。
堀家 慎一
アブストラクト
研究報告書
金沢大学疾患モデル総合研究センター 疾患オミクス分野エピゲノム編集技術を用いたレット症候群の新規治療法の開発研究100
レット症候群(RTT)は,女児に発症する神経発達障害であり,X染色体上のMeCP2遺伝子変異が原因である。これまでの研究で,MeCP2の機能不全はターゲットとなる下流遺伝子の発現変化を誘発し,筋緊張の低下やてんかん・側弯・知的障害などの多彩な症状を引き起こす。興味深いことに,ヒトの生後半年程度に相当する3~4週齢のMecp2-KOマウスに正常なMecp2を補うと運動障害の改善が認められたことから,RTT患者でも正常MeCP2の適切量を補うことでRTTの発症予防及び治療の可能性が示唆された。すなわち,RTT患者にアデノ随伴ウイルスで正常なMeCP2を導入することは,RTTの治療に有効な手段と考えられるが,一方でMeCP2の過剰はMeCP2重複症候群を引き起こすことが知られている。そこで本研究では,我々が独自に改良したCRISPR脱メチル化システムの治療効果を検証した。
酒本 真次
アブストラクト
研究報告書
岡山大学病院 精神科神経科グルココルチコイド産生阻害に着目した摂食障害の新規治療法の確立100
摂食障害は世界的に罹患率・死亡率の高い疾患であるが、根本的な治療薬は存在しない。本研究では、摂食障害モデルマウスであるActivity-Based Anorexia (ABA)モデルに対して、グルココルチコイドの産生阻害に関与する薬剤を投与することで、運動量、体重、摂食量、血中グルココルチコイド、炎症性サイトカイン)、神経細胞やグリア細胞などに与える影響を多元的に解析した。ABA
モデルでは8週齢マウスを最初の5日間馴化した後、実験開始日にABA(食事制限2時間+運動)グループ、対照群に分け7日間観察した。11βHSD1阻害薬投与群と溶媒投与群において運動量の明らかな減少がみられ、過活動の抑制に作用することが示唆された。また体重減少は11βHSD1阻害薬投与群と溶媒投与群において明らかな差は見られなかった。いずれもABAモデルの死亡率が高い影響でサンプル不足が生じており、プロトコール修正の上で、再度追加実験を行い検証する予定としている。
山中 章弘
アブストラクト
研究報告書
名古屋大学環境医学研究所 神経系分野2PTSD治療にむけた記憶消去の分子メカニズム解明100
睡眠中に記憶がどのように制御されているのかについて良く分かっていない。本研究では、研究実施者等が独自に同定した視床下部のメラニン凝集ホルモン産生神経(MCH神経)がレム睡眠調節に関わっていること(Tsunematsu et al., J Neurosci 2014)と、MCH神経が海馬に密に投射しており、レム睡眠中に活動することで、記憶の消去に関わっている (Izawa et al. Science 2019)知見から、この記憶消去に関わる分子メカニズムについて明らかにし、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの記憶に問題がある疾患の治療法開発に資する結果を得ることを目指す。遺伝子改変動物とインビボゲノム編集を用いてMCH神経特異的に各伝達物質の欠損を引き起こしたときの、記憶能力の変化を評価することで関与する伝達物質を特定する。その結果小胞グルタミン酸トランポーター2(vGlut2)を欠損させた時に記憶が向上することを見いだした。

令和3年度
精神薬療分野 COVID-19関連 一般研究助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
後藤 孔郎
アブストラクト
研究報告書
大分大学医学部 内科学 神経内分泌COVID-19由来の脳損傷に対するACE2慢性投与の有用性100
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のヒト感染(COVID-19)には、アンジオテンシン変換酵素(ACE)2が不可欠な受容体であることが明らかになっている。COVID-19で死亡した患者を調査したところ、脳組織でも損傷がみられるという報告が散見される。COVID-19重症化の危険因子に肥満があげられている。今回、肥満モデルを作製し、肥満で脳内ACE2発現が増加するか、また肥満に対してACE2の投与がSARS-CoV-2の脳内感染を軽減させる効果がみられるか検討した。肥満によって脳内でのACE2発現が増加し、ACE2の投与が脳内でのSARS-CoV-2感染を軽減させることが示唆された。今後、ワクチンと並行してACE2の慢性投与が、COVID-19に伴う脳組織の損傷を最小限にとどめ、COVID-19に由来する脳関連疾患の発症予防に有効であることが推測された。
加瀬 義高
アブストラクト
研究報告書
慶應義塾大学医学部 生理学教室COVID-19関連中枢神経障害に対する治療薬の開発研究100
COVID-19は、神経障害、全身性炎症、免疫細胞の異常を引き起こす。COVID-19による神経障害は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-2)が中枢神経系の細胞に直接感染して毒性を発揮する原因である可能性がある。
しかし、SARS-CoV-2は変異が絶えず起こっており、変異に伴って中枢神経系細胞への感染性がどのように変化するかはよくわかっていない。また、中枢神経系細胞(神経幹/前駆細胞(NS/PC)、ニューロン、アストロサイト、ミクログリア)の感染性がSARS-CoV-2変異株によって異なるかどうかを検討した研究はほとんどない。そこで、神経障害の治療薬開発のためにも、本研究では、まず、SARS-CoV-2がミクログリアを含む中枢神経系細胞へそもそも感染し得るのか検証し、変異株がその感染性を高めるか否かを検討した。

令和3年度
精神薬療分野 若手研究者助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
木村 大樹
アブストラクト
研究報告書
名古屋大学大学院医学系研究科 脳神経病態制御学分野新規の病態解明を企図した統合失調症多発家系のロングリードシークエンス100
本研究では、統合失調症(SCZ)の多発家系症例を対象にロングリードによる全ゲノムシークエンスを実施し、SCZ発症に関連する新規のバリアントを同定する研究を実施した。令和4年度は、ロングリードの解析の対象を決めるために、申請者が所属する研究室が保有するSCZ 多発 14家系のエクソーム解析を実施した。その結果、14多発家系内においてSCZ患者群で共有されたゲノムバリアントが存在する遺伝子は、カルシウムチャネル機能に関連する遺伝子群でエンリッチした。本研究はその後のロングリード解析を実施する対象となるSCZ多発家系の抽出に有用であると考えられた。また、本研究を通じてSCZ多発家系のシークエンス解析によって発症に強い影響を及ぼし得るバリアントが同定されることを証明し、SCZ患者・家族に対してシークエンス解析を実施して遺伝カウンセリングを行う意義を示した。
吉永 怜史
アブストラクト
研究報告書
東京慈恵会医科大学医学部 解剖学講座死後脳空間的遺伝子発現解析に基づく動物モデル作成による精神疾患病態解明100
統合失調症の病態は不明だが、遺伝環境相互作用の場として回路や細胞集団の異常が想定される。本研究は単一細胞・空間的transcriptomics (Visium、GeoMx)により患者死後脳の分子的/細胞的変化を単一細胞レベル/空間的に把握し、マウスで所見の病的意義を解明することを目指す。Visiumスポットを組織ドメインに分類し、抑制性ニューロンへの発現変動遺伝子集積を認めた。単一細胞核へのtrans-annotationでアストロサイトシグナルの疾患群での増加を認めた。GeoMXでは疾患群で皮質層ごとのニューロンのtranscriptomeの違いが減弱していた。組織学的に一部のアストロサイトの形態的/数的異常を認めた。ゲノム編集マウス作成と子宮内電気穿孔法による関連所見解析を開始した。今後、重層的な分子的解析でアストロサイトとニューロンの変化と相互作用を描き出し、さらにマウスで検証したい。
近藤 誠
アブストラクト
研究報告書
大阪大学大学院医学系研究科 神経細胞生物学講座治療抵抗性うつ病に対する新規治療薬の開発100
現在、うつ病治療には、SSRIを主とする抗うつ薬が用いられているが、寛解率は半数以下であり、既存の抗うつ薬に対して抵抗性を示す患者は多い。近年、ケタミンには、即効性の抗うつ作用があること、さらに、治療抵抗性うつ病の患者に有効であることが明らかとなった。本研究では、マウスを用いてケタミンの抗うつ作用について検討を行った。マウスにケタミンを投与すると、脳のmPFCにおいて、IGF-1の遊離が数時間にわたって増加することを明らかにした。さらに、行動解析により、ケタミンによりmPFCで遊離が増加するIGF-1が、抗うつ作用の発現に重要であることを見出した。本研究成果は、将来、新たなうつ病治療薬の開発につながる可能性が期待できると考えられる。
高宮 彰紘
アブストラクト
研究報告書
慶應義塾大学医学部 精神・神経科電気けいれん療法による海馬体積増大の細胞生物学的メカニズムの解明100
うつ病に最も有効な電気けいれん療法(ECT)の作用機序は不明である。MRI を用いた臨床研究では、ECTによる海馬歯状回の体積増大が示されたが、この体積増大が神経新生を反映しているかは不明である。本研究では、ECTのマウス海馬体積への影響、体積変化と神経新生の因果関係を調べた。野生型マウスに対して全身麻酔下で週に3回、合計9回のECTを行った後、固定脳のMRI撮像行った。ECT施行群(n=12)は非刺激群(n=12)と比較して両側海馬CA1と歯状回の領域における体積増大を認めた。同様の変化は放射線照射マウスの実験でも認めた。ECT施行群は海馬歯状回における有意なdoublecortin陽性細胞の増加を認めた、放射線照射マウスでは認めなかった本研究は、マウスにおいてECTがMRIの海馬体積増大をもたらすことを示し、さらにこのMRI体積変化と神経新生の因果関係を示した世界で初めて研究である。
山西 恭輔
アブストラクト
研究報告書
兵庫医科大学医学部 精神神経免疫学講座インフラマソームを中心とした末梢炎症がうつ病を引き起こす機序解明と新規治療戦略の模索100
我々は以前、インターロイキン18(IL-18)欠損下では精神症状として記銘力障害、意欲低下を引き起こすとの報告を行った。本研究では急性ストレス反応で誘発される脳内炎症と精神症状へのインフラマソームの役割を解明する。IL18欠損(Il18−/−)マウスと野生型マウスに6時間の拘束ストレスを負荷する。拘束負荷後、行動実験、機序解明などを行った。野生型マウスは行動変化を認めなかった。Il18−/−マウスは強制水泳試験、尾懸垂試験で活動性の亢進を認めた。海馬におけるRNA-Seqから学習や回避に関連する遺伝子、免疫に関する遺伝子の変化が見られた。Il18−/−マウスでは拘束ストレスによりIL1β、IL6、Tnfαの発現上昇が観察された。さらにIl18−/−マウスでは脳内ミクログリアの陽性細胞数の上昇がみられた。免疫因子であるIL18が欠損していると急性ストレスにより惹起される脳内炎症が持続し、ストレス反応性の行動異常につながる可能性が示唆された。
北西 卓磨
アブストラクト
研究報告書
大阪市立大学大学院医学研究科 神経生理学記憶情報の脳内伝達とその破綻・回復のメカニズム100
海馬は空間記憶に重要な脳領域である。海馬には、動物のいる場所・移動スピード・道順などの情報を持つ神経細胞が存在し、これらの細胞が空間記憶を支えていると考えられる。本研究は、生体脳における大規模神経活動計測により、海馬や関連領域から他領域へと、どのような空間情報が分配されるか検証を進めた。また、2領域からシナプス入力を統合する神経細胞に選択的に遺伝子導入を行うウイルスベクター技術を開発した (Kitanishi et al., Commun Biol, 2022)。さらに、海馬/海馬台の細胞集団レベルでの情報表現を低次元神経多様体に着目することで解明した (Nakai, Kitanishi et al., in preparation)。加えて、これらの研究内容を概説した総説を記した (Mizuseki and Kitanishi, Curr Opin Neurobiol, 2022)。
久米 広大
アブストラクト
研究報告書
広島大学原爆放射線医科学研究所 分子疫学研究分野DNAメチル化を利用したリピート病の新規治療法の開発100
今回我々はリピート周囲のDNAメチル化を誘導することがリピート病の治療法となりうるかを検討した。対象遺伝子は我々が家族性筋萎縮性側索硬化症(ALS)家系から同定した新規原因遺伝子である。ALS患者および非発症者よりiPS細胞を作製し、脊髄運動神経に分化させ解析した。リピート下流部のDNAメチル化は、非発症者のiPS細胞由来運動神経で亢進していた。DNAメチル化の亢進に一致して、DNAse Ⅰ chromatin accesiblityおよびmRNA発現量は低下していた。発症者ではこれらの変化を認めないことから、リピート周囲のDNAメチル化がALSの発症抑制に関与していると考える。DNAメチル化を誘導はリピート病の有望な治療法となりうると考えた。今後、DNAのメチル化を誘導し、細胞死を抑制することができるかを検討したい。
岡﨑 康輔
アブストラクト
研究報告書
奈良県立医科大学 精神医学講座小児期自閉スペクトラム症における医工連携バイオマーカー研究100
本研究は、ロールシャッハ検査時(RT)に得られた工学的評価を用いて、小児期自閉スペクトラム症(ASD)の診断精度の向上ならびに新たな診断補助法に繋がる医工連携によるバイオマーカーの探索を目的とした。結果、vocal intensityの変動係数はASD群において有意に低値であった。また、言語スコアはASD群において有意に高値であった。vocal intensityの変動係数及び言語スコアの2指標によって、感度80.0%、特異度85.7%、AUC 0.93で判別された。さらに、RT時の視線活動データはCNN及びrandom forestを用いることで、69.6%の精度で定型発達群とASD群が判別された。RT時に得られる工学的評価は、定型発達児とASD児の判別に有用であることが示唆された。今後、工学的評価によるデータを蓄積することで、客観的評価を用いたバイオマーカーの創出も可能であると考えられた。
夏堀 晃世
アブストラクト
研究報告書
東京都医学総合研究所 精神行動医学研究分野 睡眠プロジェクトセロトニン神経の脳代謝調節機能と病態関与の解明100
細胞共通のエネルギー分子であるATP(アデノシン三リン酸)の神経細胞内濃度は、エネルギー需要が増加する動物の覚醒時に皮質全域で増加する。我々は最近、動物の覚醒神経の一つであるセロトニン神経が皮質神経のATP濃度を増加させることを見出した。このことから本研究は、気分障害などセロトニン神経と関連した精神疾患に共通の中間病態として“セロトニン神経系変容による脳代謝異常”という新たな病態仮説を提唱し、マウスを用いてその生体検証を行うことを目的とした。遺伝子工学的手法によるセロトニン神経の活動操作と脳代謝活動の生体計測を組み合わせた実験により、セロトニン神経が投射先皮質でグリア細胞の一種であるアストロサイトの活動調節を介して神経の細胞内ATP濃度を調節する仕組みと、セロトニン神経系抑制によるその異常を明らかにした。本研究は、セロトニン関連疾患の新たな病態解明と治療開発を目指して今後も継続予定である。

令和3年度
精神薬療分野 若手研究者継続助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
有岡 祐子
アブストラクト
研究報告書
名古屋大学医学部附属病院 先端医療開発部精神疾患をもたらすヒト神経細胞遊走機構の解明100
発達期における神経細胞は方向性をもって遊走し、その異常は精神疾患発症につながると考えられる。しかし、様々な発症リスクゲノムバリアントを起点として、如何なるメカニズムでヒト神経細胞の遊走機構に影響を及ぼし精神疾患を引き起こすのか、その共通分子・細胞機構は不明である。そこで本研究では、患者iPS細胞とゲノム編集iPS細胞を用いて、ゲノムバリアント横断的な①神経細胞内分子ネットワーク変化と②申請者独自に開発したシステムを取り入れたヒト神経細胞遊走の動態変化解析をおこなった。その結果、ゲノムバリアント横断的に発現変化する遺伝子は神経発生・発達・形態に関わるカテゴリに集積すること、さらに共通の遊走異常動態を見出した。これら分子・細胞機構は精神疾患発症ルーツとなるメカニズムの一端だと考えられ、病態解明や創薬に寄与すると考える。

平成31年度
血液医学分野 一般研究者助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
縣 保年
アブストラクト
研究報告書
滋賀医科大学 生化学・分子生物学講座 分子生理化学部門iPS細胞から再生したT細胞の活性化シグナルを強化するがん免疫療法の開発100
本研究では、がん抗原特異的なTCR遺伝子を、ゲノム編集とカセット交換法を用いてiPS細胞の内在性TCR遺伝子座へノックインした。TCR遺伝子がノックインされたiPS細胞をT細胞へ分化誘導したところ、がん抗原特異的に高い細胞傷害活性を示した。次にiPS細胞から再生したT細胞の増殖能を高めることを目的として、CARのシグナル伝達分子を発現させたが、その発現の有無に拘わらず、再生T細胞は高い増殖能を示した。さらにカニクイザルの腫瘍細胞移植モデルにおいて、腫瘍に浸潤したT細胞からTCR遺伝子を単離した。単離したTCR遺伝子をiPS細胞から再生したT細胞へ導入したところ、出現頻度の高いTCRは腫瘍細胞に対して高い細胞傷害活性を示すとともに、免疫不全マウスを用いた動物実験でも抗腫瘍活性を示した。この方法を用いれば、がん抗原は未知であっても、腫瘍殺傷能をもつTCR遺伝子を単離できると期待される。

令和3年度
血液医学分野 一般研究者助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
淺田 騰
アブストラクト
研究報告書
岡山大学病院 血液腫瘍内科白血病-神経-血管連関解明と局所的末梢神経制御による新規治療法の開発100
急性白血病による骨髄内の末梢神経ならびに骨髄微小環境の変容を捉えるために、マウス生体内で白血病細胞を可視化できる白血病細胞を作製した。骨髄内ニッチ細胞、血管内皮細胞、末梢神経(交感神経, 感覚神経)を可視化する遺伝子改変マウスを作製し、骨髄内イメージングによりいずれも可視化に成功している。今後、白血病細胞を輸注した骨髄微小環境/神経可視化マウスの骨髄微小環境/神経変容の解析を行い、さらに、局所的末梢神経制御による治療効果を検証する。
大森 司
アブストラクト
研究報告書
自治医科大学医学部 生化学講座 病態生化学部門プロテインC欠損症に対する遺伝子治療法の開発100
プロテインC(PC)遺伝子の両アレル異常によるPC欠損症は、出生直後から新生児電撃性紫斑病という全身に致死的な血栓形成をきたす難治性疾患である。本研究ではPC欠損症の治癒を目指した画期的治療法の開発を目的とした。複数のPC変異体を作製し、活性型PCとして分泌される配列を同定した。活性型PCは濃度依存性にヒト血漿凝固時間を延長した。野生型マウスに対して、活性型PCを発現するAAVベクターを投与すると濃度依存性にマウス血中の凝固時間、第V因子活性を阻害した。新生仔PC欠損マウスに対して、活性型PC配列をin vivoゲノム編集治療によって発現させると、PC欠損マウスの長期生存が得られた。以上より、PC欠損症に対して活性型PCを利用した遺伝子治療・ゲノム編集治療が一つの治療選択肢となりうることが示唆された。
柏木 浩和
アブストラクト
研究報告書
大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学新規実験系を用いたαIIbβ3シグナル機構の解析とその病態への影響に関する検討100
インテグリンαIIbβ3はフィブリノゲンやフォンウィルブランド因子の受容体として血栓・止血において中心的役割を果たしているが、従来、血小板産生には関与しないと考えられていた。しかし近年αIIbβ3活性化を誘導する変異と血小板減少症との関連が明らかにされ、αIIbβ3の新たな役割として注目される。今回、我々は新たなβ3遺伝子異常を有する血小板減少症家系を見出し、その変異ノックインマウスにおいてヒトと同様のphenotypeを確認できた。今後このマウスを用いることにより、αIIbβ3と血小板機能および産生に関し、そのメカニズムを解明することが可能となってきた。
木戸屋 浩康
アブストラクト
研究報告書
福井大学学術研究院医学系部門 血管統御学白血病の促進に働く血球-血管における微小環境クロストークの解明100
白血病の進展における骨髄微小環境の変化に着目し、特にこれまで未解明であった骨髄血管の解析を進めた。白血病マウスの大腿骨の血管を解析すると、白血病の発症に伴って骨髄中の血管数の増加や血管構造の異常が起きていることが確認できた。さらに、白血病マウスの異常化した骨髄血管から特異的に産生される分子を同定し、血管内皮細胞特異的に遺伝子を欠損するマウスを作成した。これらの遺伝子欠損マウスに白血病細胞を移植することで白血病を誘導したところ、白血病細胞の異常増殖やリンパ節腫脹および脾腫の抑制が認めら、さらに生存期間も有意に延長することが確認された。白血病における骨髄血管の異常化は、新たな治療標的となる可能性が示され、臨床において求められている白血病の根治を達成する治療法の開発に繋がるものと期待できる。
西 裕志
アブストラクト
研究報告書
東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科血栓性血小板減少性紫斑病の二次的発症の機序解明100
実験的糸球体腎炎を誘導したADAMTS13欠損マウスでは血栓性血小板減少紫斑病thrombotic thrombocytopenic purpura (TTP)に類似した表現型が見られた.この表現型はリコンビナントADAMTS13投与によって生存率が改善した.また,マウス血液の高速流体イメージングではADAMTS13欠損マウスでは野生型マウスよりも多い循環血小板凝集塊が存在していた.以上より,血中のADAMTS13が不足していることが確かに循環血中に血小板凝集を引き起こし,多臓器血栓が形成される原因であることがわかった.今後さらに血液・血管内の各コンパートメントの血栓形成に対する寄与を検証していく.
吉岡 和晃
アブストラクト
研究報告書
金沢大学医薬保健研究域医学系 血管分子生理学分野血管内皮の特殊オートファジー経路を介したウイルス感染制御機構100
本研究では、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)が血管内皮細胞に侵入する際、その受容体であるACE2に相互作用した後、エンドサイトーシスによってインターナリゼーションすることに着目し、クラスリン依存性エンドサイトーシスに必須なクラスII型PI3Kアイソフォーム・PI3K-C2αが血管内皮細胞へのウイルス侵入調節機構を解析することを目的とした。その結果、これまでのオートファジー研究で明らかにされてきたクラスIII-PI3K・Vps34によるホスファチジルイノシトール−3−リン酸(PI3P)産生を介したオートファゴソーム形成(古典的オートファジー)とは異なったオートファジー経路として、クラスII-PI3Kアイソフォーム・PI3K-C2αを介した特殊なオートファジー系の存在が明らかとなった。
荒木 真理人
アブストラクト
研究報告書
順天堂大学大学院医学研究科 輸血・幹細胞制御学腫瘍性リガンド変異型CALRの切断メカニズムの解明100
フィラデルフィア染色体陰性の骨髄増殖性腫瘍(Myeloproliferative Neoplasms: MPN)の発症原因分子である、変異型CALR蛋白質の腫瘍原性に必要なドメインを切断する分子基盤を明らかにした。本研究により、蛋白質分泌経路上に存在するFurin/PCSK3が、変異型CALR蛋白質の切断に関与することが明らかになった。さらにこのFurin/PCSK3は、9個の類似するPCSKファミリーを構成していることから、PCSKファミリーに属する他のプロテアーゼも、変異型CALR蛋白質の切断に関与する可能性が強く示唆された。本研究で得られた知見を基盤として、変異型CALRの切断を司る分子基盤を標的としたMPNの新規治療戦略の開発が大いに期待される。
大石 篤郎
アブストラクト
研究報告書
杏林大学医学部 肉眼解剖学教室白血病患者血清中のリガンド探索を通じた新規治療開発100
現在臨床で使われる薬剤の30%はGPCRを標的としている。ヒトゲノム中約800あるGPCRのうち半数は嗅覚受容体で残りの約半数が非嗅覚受容体で、この非嗅覚受容体のうち未だ100の受容体がリガンドが見つかっていないオーファン受容体である。
我々は白血病腫瘍で高発現するオーファンGPCRを見出した。これらオーファンGPCRのリガンド発見は新たな白血病治療法の開発につながることが期待されるため、リガンドスクリーニングプラットフォームの開発とリガンドスクリーニングに始まり、オーファンGPCRが腫瘍化に関与するメカニズムの探索と創薬への道筋を目指した。本助成期間内ではリガンドスクリーニングプラットフォームの完成を目指した。
吉見 昭秀
アブストラクト
研究報告書
国立がん研究センター研究所 がんRNA研究ユニット核酸医薬を用いた新規白血病治療法の開発100
スプライシング因子(SF)の遺伝子変異が様々ながんで高頻度に認められることから、発がんにおけるスプライシング異常の機能的役割の解明とその治療標的化は今後のがん治療において重要な位置を占める。一方で、SF変異がんは高齢者に多く、ほとんどのがん種では有効な治療法がないことから、SF変異を特異的に標的とする治療法の開発は喫緊の課題である。本研究では、SFに遺伝子変異を有する白血病を対象として、SF変異の下流に生じる、鍵となるスプライシング異常を修正するようなアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を開発し、同時に複数のASOにより複数の標的スプライシング異常が修正されることを示した。現状では予後不良なSF変異がんに対する治療法は開発されていないが、本研究開発が順調に進めば、SF変異を有するがんに対する特異的な治療法につながり、白血病に関して予後改善に寄与する可能性がある。
崎元 晋
アブストラクト
研究報告書
大阪大学医学部医学系研究科 眼科学網膜血管内皮コロニー形成細胞の調節機構の解明と疾患モデルへの関与100
糖尿病網膜症は、先進国における生産年齢の失明原因の第一位であり、非常に重要な疾患である。近年抗VEGF剤により画期的な治療効果がもたらされるようになったが、反復眼内注射が必要など改善を要する点があるため、新たな治療の開発が喫緊の課題である。本研究では、組織中に存在し、血管形成に関わるとされる網膜の血管内皮幹細胞を同定し、幹細胞システムを解明することを目的とした。報告者は、網膜血管(およびニッチ環境)に存在する網膜血管内皮幹細胞を同定し、幹細胞が豊富に存在するニッチ環境を同定することに成功した。さらに内皮幹細胞マーカーを用いることで、虚血性網膜症モデルにおける幹細胞の関与を明らかにした。
礪波 一夫
アブストラクト
研究報告書
東京大学大学院医学系研究科 分子細胞生物学専攻 代謝生理化学分野内皮細胞固有の細胞動態を生み出す遺伝子の再構成による非血管細胞からの血管構造誘導の試み100
本研究では、これまで血管新生のモジュールとなる内皮細胞に特徴的な協調運動として同定してきた細胞接触により亢進する直線的運動と回転運動を制御する責任分子を同定し、これら分子システムの遺伝子導入により非血管細胞から内皮細胞固有の細胞動態や血管構造を誘導することを目的とした。PECAM1、遺伝子Fおよび遺伝子Tに着目し、遺伝子ノックアウトおよび過剰発現の実験から、PECAM1は内皮細胞間の安定的な接着に、遺伝子Fは運動の方向性の維持に、遺伝子Tは内皮細胞の発芽伸長に寄与することを明らかとした。そこで、VE-カドヘリンと上記遺伝子群を非血管細胞で過剰発現した結果、上皮細胞であるMDCKにおいて、内皮細胞に類似した回転運動の亢進を示唆する所見を観察することが出来た。この結果は、これら遺伝子による内皮細胞固有の細胞動態の誘導により、非血管細胞において血管構造を再現し得る可能性を期待させるものである。
三原田 賢一
アブストラクト
研究報告書
熊本大学国際先端医学研究機構 幹細胞プロテオスタシスタンパク質構造変化から紐解く造血幹細胞の制御機構100
造血幹細胞は全種類の血液細胞を生涯にわたって供給できる能力を持つが、体外培養や過剰な分裂刺激の下では能力が著しく低下する。申請者は造血幹細胞がタンパク質の折りたたみ能力が低いこと、化学シャペロンである胆汁酸が造血幹細胞の造血再構築能を促進することを報告してきた。本研究では、造血幹細胞の能力を規定するタンパク質が、他の血液細胞と比べて異なる立体構造を持つと仮定し、熱安定性を利用した網羅的タンパク質構造比較を用いて造血幹細胞で構造変化を示すタンパク質を同定し、その機能を解析する。
井上 毅
アブストラクト
研究報告書
大阪大学免疫学フロンティア研究センター 分化制御研究室B細胞受容体による記憶B細胞分化制御100
新型コロナウイルスやインフルエンザウイルス感染に対するワクチン療法は免疫記憶誘導を根幹としており、申請者はその反応の中心となる記憶B細胞が生体内で産生されるメカニズム解明に注力してきた。申請者は胚中心において記憶B細胞分化への運命決定を司る細胞因子の一つとしてB細胞表面受容体の発現勾配に着目し、その制御メカニズムの解明を目的とした。本研究では表面発現量や、生化学性質が紐づいたインフルエンザウイルス抗原特異的B細胞のBCR配列を取得し、in vitroでB細胞にその配列をノックインすることに成功し、研究目的のための基盤データを得ることができた。
江川 形平
アブストラクト
研究報告書
京都大学医学研究科 皮膚科皮膚駐在性メモリーT細胞に着目した、アトピー性皮膚炎寛解維持療法の確立100
2型皮膚炎モデルである遅延型過敏反応を用いて皮膚のCD4陽性組織駐在性メモリーT細胞(CD4+Trm)の形成メカニズムを解析した。皮膚炎の寛解後も多数のCD4+Trmが皮膚に存在することが確認された。CD4+Trmは主に真皮血管周囲でクラスターを形成し、同クラスター内でCD301+樹状細胞(cDC2)と共局在していた。cDC2を除去するとCD4+Trmクラスターの形成は阻害され、皮膚炎も抑制された。またCxcr6を介するシグナルがCD4+Trmクラスターの形成に必須である可能性が示唆され、その阻害実験等により臨床応用への可能性を探っている。Trmについての知見を増やすことはアトピー性皮膚炎などの疾患コントロールを考えるうえで重要と考えられ、Trmをターゲットとした治療戦略が今後の研究の発展で可能になってくるかもしれない。
小野寺 康仁
アブストラクト
研究報告書
北海道大学大学院医学研究院 医理工学グローバルセンターウイルス生体内動態の迅速検査法の開発100
COVID-19に限らず、新規ウイルスの出現とパンデミックは、人類にとってこれからも大きな脅威であり続ける。新たに出現した未知の性質のウイルスが生体内でどのような挙動を示すのか、それを容易かつ迅速に解析する手法を確立できれば、感染拡大や病態悪化の阻止に大きく貢献できると考えられる。本研究では、近年のアウトブレイクの多くを占めるエンベロープ型ウイルスについて、培養細胞で増幅・精製して実験動物へ投与するのみで感染・増幅の様子をリアルタイムで解析できるような汎用解析技術の開発を目指す。より具体的には、実験動物にウイルスと発光基質(ルシフェリンなど)を投与することで、感染・増幅部位を化学発光により特定できるような手法を確立する。特殊な遺伝子を導入した培養細胞を用いてウイルスを感染・増幅させることで、ウイルス自体のゲノム解析や遺伝子操作を行わずとも生体内動態を解析できるシステムを構築する。
佐藤 精一
アブストラクト
研究報告書
北海道大学遺伝子病制御研究所 分子生体防御分野ウイルス感染における自然免疫系バックアップディフェンス機構の構築100
DNAウイルスだけではなくインフルエンザ、EMCV、NDV 等のRNAウイルス感染においてもDNAセンサーcGAS依存的にcGAMPが産生され、cGAMPが細胞外へと放出され、細胞膜局在STINGを活性化していることが見出された。細胞外cGAMP分解酵素であるENPP1に対する阻害剤であるARL67156を投与した結果、ウイルス感染時にSTINGリガンドであるcGAMPの上昇によりモノサイトに特異的に存在している細胞膜局在STINGにより自然免疫応答が活性化され、ウイルスを抑制することを見出した。興味深いことに、RIG-Iのシグナルが働かないマウスMAVS KOにおいても、ウイルス感染時にcGAMPの上昇が認められることから、RIG-Iによる第一関門が破られた場合の、自然免疫系第二関門(バックアップディフェンス)機構であることを示唆しており、このcGASによるRNAウイルス感知という全く新しい機構であることが示唆された。
瀬川 勝盛
アブストラクト
研究報告書
東京医科歯科大学難治疾患研究所 医化学分野“eat me”シグナルの制御による悪性リンパ腫の治療基盤の開発100
フリッパーゼは、リン脂質であるホスファチジルセリンの膜動態を制御する膜タンパク質である。これまでの研究により、フリッパーゼが悪性リンパ腫の新しい抗腫瘍ターゲットとして機能することが示唆されている。本研究では、フリッパーゼの阻害による抗腫瘍効果のメカニズムを解明し、リン脂質膜動態の制御による悪性リンパ腫の新しい治療基盤を開発することを目指して研究を遂行した。
田中 良哉
アブストラクト
研究報告書
産業医科大学医学部 第1内科学講座関節リウマチにおける分子標的薬を用いた臨床・免疫情報に基づくprecision medicineに関する研究100
関節リウマチの臨床情報と免疫情報を基盤とした分子標的薬の使い分けを目的とし、下記の結果を得た。
1) 224名のRA患者が本研究に参加した。ベースラインでの疾患活動性はSDAI 27.4であった。2) RAでは健常人に比してCD4+ effector T細胞、Activated Tfh細胞、Effector B細胞、plasmacytoid DCが増加した。3)末梢血免疫フェノタイプのクラスター解析により、免疫学的異常に乏しい群、強い群、非常に強い群に三分できた。4) C群では、Effector B細胞とplasmablastの上昇が見られ、さらに、Th17/Tfh dominant群、Treg/Tfh dominant群に分けられた。5) この4群の疾患活動性は同等だったが、治療反応性はTh17/Tfh dominant groupではアバタセプトが、Tfh/Treg dominant groupではトシリズマブが効果を認める傾向が見られた。
以上より、関節リウマチの臨床情報と免疫情報を基盤とした分子標的薬の使い分けの可能性が示唆された。
早河 翼
アブストラクト
研究報告書
東京大学医学部附属病院 消化器内科胃内細菌による粘膜免疫・発癌制御機構の解明と治療応用100
本研究では、これまでの解析結果を発展させ、ピロリ菌陰性時代に胃癌を引き起こす第二の原因菌を同定し、非ピロリ胃内細菌と宿主免疫応答による発癌制御機構を解明することで、新時代の胃癌予防・治療法を確立することを目的とする。免疫チェックポイントに関連する応答を含む宿主免疫系と胃内細菌群との関連を解析し、その機序を解明することによって、最終的に胃癌に対する免疫チェックポイント阻害療法の効果増強や、癌死亡を減少させることを目指したい。本研究の解析結果からは、マウスモデル・ヒトサンプルの解析結果より、特定の胃内細菌(特にFusobacterium・Neisseria)が胃粘膜の免疫反応を制御し、その後の発癌や腫瘍免疫に関与している可能性が示された。
平橋 淳一
アブストラクト
研究報告書
慶應義塾大学医学部 総合診療科白血球細胞外トラップ抑制による急性腎障害新規治療開発100
白血球細胞外トラップ(ETs)現象は、自己免疫疾患や敗血症などの難治性炎症性疾患、血栓性疾患、癌の転移等における重要な炎症性メディエーターである。2016年、我々はLactoferrin(LF)が、ETs放出を抑制する生体内物質であることを見出し、これを基盤として臨床応用可能なETs阻害薬開発を進めてきた。2018年マウス横紋筋融解症後急性腎障害(Crush症候群)モデルがETsに依存することを証明し、これを本薬剤開発のin vivoスクリーニングツールとした。LF 配列に含まれる陽性荷電が豊富なFK-12 配列(12アミノ酸)がETs抑制活性を担うことを見出し、これに構造改変を加えてマウスCrush症候群モデルを用いた構造活性相関研究を展開して、新規治療ペプチドFK-12AMを創製した。さらにFK-12AMの顕著な治療効果は、ETs抑制を介した全身性炎症制御に帰するものであることが判明した。

令和3年度
血液医学分野 COVID-19関連 一般研究助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
金子 直樹
アブストラクト
研究報告書
九州大学大学院歯学研究院 口腔顎顔面病態学講座 顎顔面腫瘍制御学分野COVID-19における特異なT細胞およびB細胞サブセットの増加とその機能の解明100
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、その治療法やワクチン開発は劇的な進捗を見せているものの、病態については未だ不明な点が多くその解明が望まれている。われわれは先行研究で、自己免疫疾患で増加し、健常者では認められない特殊なサブセットである CD4+CTLsとDN B細胞が COVID-19 においても増加することを明らかにした。 本研究では、 COVID-19 の病態形成における CD4+CTLs と DN B 細胞の役割およびその関連を明らかにすることである。肺組織および末梢血液において、CD4+CTLsとDN B細胞の増加を認めた。シングルセル解析とTCR・BCRレパトア解析を行なったところ、CD4+CTLsとDN B細胞はクローナリティーを持って増加拡大していた。さらにCD4+CTLsは細胞障害性サイトカインや線維化因子を、DN B 細胞は抗体産生に関与する分子を発現していた。同サブセットは、病態形成にダイレクトに関与し、治療標的となり得ることが明らかとなった。
早川 正樹
アブストラクト
研究報告書
奈良県立医科大学 輸血部COVID-19における重症化予想マーカーとしてのADAMTS13の有用性100
2020年1月から現在まで第7波までの新型コロナウイルス(COVID19)感染拡大を経験した。既にワクチンや抗体薬、抗ウイルス薬が普及したが、感染拡大期には医療体制の崩壊を招くことに変わりはない。治療法の開発から、その使用方法や効率的な入院基準の構築が現在の急務である。効率的医療資源使用方法の探索として新規COVID19入院患者133名の入院時のADAMTS13活性、フォンヴィレブランド因子抗原量と、入院時の重症度および入院中の重症度変化について解析を行った。既報の通り患者因子と重症度には「年齢」が最も相関した。解析より入院時のADAMTS13活性は年齢同様に重症度と強く相関し、「入院後の酸素投与の必要性」や「ICU入症などの重症化」との関係性においても年齢と同レベルの統計的有意差を有していた。医療ひっ迫時に年齢とADAMTS13活性値から重症化を予想した入院適応判断の可能性が示唆された。
林 豪士
アブストラクト
研究報告書
国立感染症研究所 ウイルス第二部腸管・呼吸器オルガノイドを用いたSARS-CoV-2に対する宿主免疫機構の解明100
本研究では、ヒト生体(in vivo)に近い性質を持つオルガノイド培養系を駆使して、SARS-CoV-2に対する宿主免疫機構を解析した。CRISPR/Cas9法を用いて、宿主抗ウイルス応答に重要な役割を担うJAK/STAT経路の構成因子であるSTAT1遺伝子が欠損した腸管オルガノイドの作製に成功した。当該細胞を用いて、SARS-CoV-2感染実験を行ったところ、親細胞と比較して顕著なウイルス増殖の促進が認められた。以上より、腸管オルガノイドにおいて、JAK-STAT経路依存的な宿主因子によりSARS-CoV-2感染が制御されていることが明らかとなった。今後さらに詳細な解析を進めることで、宿主の防御機構を利用した革新的なCOVID-19治療薬の開発に繋がることが期待される。
藤田 雄
アブストラクト
研究報告書
東京慈恵会医科大学 エクソソーム創薬研究講座新型コロナウィルス感染症重症化における宿主免疫応答予測100
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の多くは軽症にて改善するが、一部の患者では急性呼吸窮迫症候群に至るなど重症化するため、重症化機序に基づく早期予測バイオマーカーの必要性が極めて高い。これまで幾つかの先行研究にて重症化予測マーカーが報告されているが、未だ重症例を高い診断率で判別できるマーカーは存在しない。エクソソームは、細胞が分泌する直径100nm程の脂質二重膜で囲まれた小胞で、ウィルス感染における細胞間相互作用に重要な役割を担っている。本研究ではエクソソームの内包分子の中で、申請者らの検討で同定したエクソソーム上に発現するタンパク質Aを標的として、重症化早期予測バイオマーカーキット開発を行い実用化に繋げることを目的として研究を実施した。
山田 大翔
アブストラクト
研究報告書
北海道大学遺伝子病制御研究所 分子生体防御分野喫煙による高いCOVID-19重症化リスクに関連する、自然免疫応答抑制の分子機構の解析100
SARS―CoV―2が原因ウイルスである新型コロナウイルス感染症は、現在でも、大きな社会問題となっており、その病態や治療に向けた研究は急務となっている。重症化のリスク要因として、「喫煙」が知られているが、その詳細な分子機構は不明である。特に、「喫煙」と宿主の自然免疫システムの関連性という観点から、ウイルス増殖に及ぼす影響については不明なままである。これに関連して、タバコ煙抽出物を処理したヒト肺上皮細胞では、SARS―CoV―2の複製が増強することを見出すことができていたが、その分子機序については不明であった。その結果、タバコ煙抽出物曝露によってRIG―I発現量が低下することがウイルス増殖の原因の大きな一因であることがわかった。さらに、レチノイン酸によるRIG―I誘導や、インターフェロンの産生をTIPARP阻害剤によって増強することでウイルス複製を阻害することが出来た。

令和3年度
血液医学分野 若手研究者助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
田辺 章悟
アブストラクト
研究報告書
国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 神経薬理研究部神経変性疾患の神経筋病態に寄与する血中由来因子の同定100
筋萎縮性側索硬化症 (Amyotrophic Lateral Sclerosis: ALS) は運動ニューロンが変性していく進行性の神経変性疾患である。本研究ではALSの病態によって血中由来因子の成分が変化し、ALSの神経筋病態の形成に寄与している可能性を検証した。ALSのモデルマウスであるSOD1G93Aマウスと野生型マウスの並体結合を施したところ、野生型マウスにおいて顕著な神経筋接合部の変性が観察された。また、SOD1G93Aマウスで含有量が増加している血中由来因子を同定するとともに、その発現量を調節している転写因子を特定した。同定した血中由来因子に対する機能阻害抗体をSOD1G93Aマウスに投与したところ、神経筋接合部の変性が抑制されたことに加え、坐骨神経刺激による腓腹筋の収縮が大きく観察されたことから、血中由来因子の阻害により機能的にも神経筋病態が抑制されたことが示唆された。
藤原 隆行
アブストラクト
研究報告書
東京大学医学部附属病院 循環器内科学時空間的マルチスケールイメージングによる難治性循環器疾患の病態解明100
難治性血管疾患である肺動脈性肺高血圧症および大動脈瘤・解離症候群の病態解明のため、我々は三次元可視化システムを用いた血管構造の立体解析の確立、およびヒト原因遺伝子の導入による疾患モデルマウスの作成を試みた。組織透明化技術CUBICならびに多光子顕微鏡を用いた三次元可視化システムでは、肺血管・大動脈の三次元構造を臓器全体から微細構造に至るまで描出することに成功した。またヒト疾患家系における遺伝子変異の導入およびそのほかの遺伝子変異の組み合わせにより、新規PAHおよびTAADモデルマウスの作成に成功した。その一部においては三次元的な病態像の描出に成功し、また網羅的解析より、DNA損傷がその病態に関与している可能性が示唆され、新規治療法の探索のため、さらなる病態解明を推し進めていきたい。
苅田 聡
アブストラクト
研究報告書
大阪大学医学系研究科 細胞生物学講座赤血球形成における極性輸送制御因子EHBP1L1の役割の解明100
細胞には固有の方向性があり、それを細胞極性という。細胞極性は細胞のみならず組織、個体の機能に重要な役割を持つ。我々は低分子量GTP結合タンパク質Rab8が腸の上皮細胞の管腔(apical)面の形成に重要であり、EHBP1L1というタンパク質がRab8に結合し、apical面に向かう小胞の形成に重要であることを解明した。さらに、EHBP1L1のノックアウト(KO)マウスを作製したところ、生後間もなく死亡した。EHBP1L1 KOマウスが生後間もなく死亡する原因として、貧血および赤血球の脱核異常が示唆されたため、脱核のどの段階でEHBP1L1が重要かを解明することを目的として解析を行った。その結果、Rab8結合因子であるEHBP1L1は脱核にも重要と判明した。Rab8とRab10は相同性が高いため、Rab8/10は共にEHBP1L1-Bin1-dynamin系によって赤芽球の極性形成に関与することが示唆された。
近藤 健太
アブストラクト
研究報告書
滋賀医科大学 生化学・分子生物学講座 分子生理化学部門ビタミン CによるDNA脱メチル化が誘導するガレクチン3発現増加が CD8 T細胞の腫瘍排除能に及ぼす影響の解明と癌免疫療法への応用100
癌免疫療法は、T細胞の免疫応答を人為的に高めることで腫瘍排除を促す治療法である。抗原刺激により活性化したT細胞がエフェクターやメモリーT細胞に分化するには、適切なゲノム領域が脱メチル化されることが必要であることが知られている。DNA脱メチル化は、DNA脱メチル化酵素 (TET)により誘導される。ビタミンCは、TETを活性化することでDNA脱メチル化を促進する。本研究では、ビタミンCのDNA脱メチル化促進作用がCD8 T細胞に及ぼす影響を検討した。その結果、ビタミンCがCD8 T細胞においてもDNA脱メチル化を促進し、病原体や腫瘍細胞に対する免疫応答を亢進させた。今後は、ビタミンCによるCD8 T細胞の免疫応答促進作用を応用した免疫療法の開発を進めていきたい。
田村 彰吾
アブストラクト
研究報告書
名古屋大学大学院 総合保健学専攻 オミックス医療科学 細胞遺伝子情報科学講座軟骨基質と血管内皮細胞の相互作用を再現した軟骨内骨髄脈管発生システムの開発100
長管骨の骨髄発生は軟骨内骨化によって生じる。軟骨内骨化では無血管の始原軟骨に骨膜血管由来の血管内皮細胞が侵入し、軟骨組織の脈管化で骨髄が発生する。我々はこの軟骨内骨化をin vitroで再現することで人工骨髄(骨髄オルガノイド)の開発を進めている。今回、骨髄のもとになる人工軟骨(軟骨オルガノイド)が分泌する血管形成サイトカインのスクリーニングを行い、さらに軟骨オルガノイドと血管内皮細胞との共培養によって骨髄オルガノイド開発の足がかりを得た。軟骨オルガノイドはVEGFなどの血管新生関連因子を分泌し、HUVECとの共培養では軟骨オルガノイドに向かうHUVECの遊走を観察した。さらに軟骨オルガノイドの周囲に血管内皮細胞が生着する像も観察できた。しかし、軟骨への血管侵入を惹起する因子として、サイトカインなどの化学誘引因子に加え、種々の機械的刺激などに着目する必要があることがわかった。
綿貫 慎太郎
アブストラクト
研究報告書
国立国際医療研究センター研究所 生体恒常性プロジェクト加齢造血幹細胞のATP代謝機構の操作による造血幹細胞若返りの基盤的技術の開発100
造血幹細胞(HSC)の代謝動態は、細胞の運命と分化を支配している。加齢HSCは骨髄系細胞を優位に産生するMyeloid biasを呈し、分化能が低下している。しかし、加齢HSCの代謝システムおよびそれに基づいた若返り技術の報告はない。そこで、FRETベースのATP濃度バイオセンサーであるGO-ATeam2による解析を行い、加齢HSCの代謝システムを若年HSCと比較した。加齢HSCの代謝は、強固なミトコンドリア代謝によって特徴づけられていた。メカニズムとして、ミトコンドリア電子伝達系複合体IIによるATPの可塑的産生が加齢HSCに特異的なATP産生機構であった。これを人工的に調節し代謝学的/機能的若年化を目指すため、加齢HSCに対してサイトカイン強制刺激を与えた後に骨髄移植を行い機能を解析した。刺激後の加齢HSCは血球産生能力とMyeloid biasの改善を認めた。本研究により、加齢HSCに特徴的な代謝システムの調節による機能的若返りの基盤が確立された。
荒 隆英
アブストラクト
研究報告書
北海道大学病院 血液内科肝臓GVHDの病態形成における腸内細菌叢の及ぼす影響についての解明100
【背景】移植片対宿主病(GVHD)は同種造血幹細胞移植における致死的合併症であり, 腸管・肝臓は主たる標的臓器である. 肝臓GVHDは, 腸管GVHDに比して病態生理に不明な点が多い. 【方法】マウスモデルを用いて同種移植群(Allo群)と同系移植群(Syn群)とで肝臓への細胞浸潤や細菌・炎症性サイトカインについて評価を行った. 【結果】Allo群ではSyn群に比べ, 移植早期にはT細胞が, その後に炎症性マクロファージが胆管周囲に浸潤していた. 炎症性マクロファージはTGF-βを産生しており, 胆管上皮細胞が傷害されていた. さらには, 本来無菌状態にある肝臓にあって, 病態形成期にAllo群においてのみ細菌浸潤を認めた. 【考察】肝臓GVHDではT細胞の浸潤に続いてマクロファージが浸潤し, 炎症性サイトカインの産生などを介してBECの傷害を引き起されるが, 同時期に肝臓へ細菌浸潤が生じており, 肝臓GVHDの病態形成に関与している可能性が示唆される.
金山 剛士
アブストラクト
研究報告書
東京医科歯科大学難治疾患研究所 生体防御学分野ミエロイド系細胞産生を誘導する新たな因子の発見とその応用100
IL-10は主要な抑制性(抗炎症性)サイトカインとして知られており、炎症や免疫応答、細胞死などを抑制することで恒常性の維持に寄与している。しかしながら、免疫系におけるIL-10の役割は詳細に解析されてきた一方で、造血系におけるIL-10の役割については十分に理解されていない。本研究では、IL-10が造血幹前駆細胞の細胞表面に発現するIL-10受容体を介して、直接的にミエロイド系細胞産生を誘導することをマウスモデルを用いて証明するとともに、抗IL-10抗体の骨髄への局所的な投与が、感染時に誘導される造血応答の制御を可能にすることを実験的に証明した。
河部 剛史
アブストラクト
研究報告書
東北大学大学院医学系研究科 病理病態学講座 免疫学分野新規の自然免疫型T細胞の機能制御による新たな感染症治療戦略の創出100
CD4 T細胞は獲得免疫応答の主軸を担うリンパ球である。これに対し我々は同細胞中に、自己認識依存的に産生され自然免疫機能を有する新規「MP細胞」を発見した。そして抗原特異的T細胞におけるTh1/2/17分類と同様、MP細胞もMP1/2/17に分類されることを見出した。そこで本研究では、MP細胞の免疫学的特性を明らかにするとともに、MP1/2/17分画の分化機構・自然免疫機能を解明することを目的とした。研究の結果、我々はMP細胞マーカーとしてCD127、Sca1、Bcl2を同定し、うちCD127(hi) Sca1(hi) MP細胞が最も成熟したMP1細胞であること、IL-12/18/2に対する高い反応性を有することを発見した。そして、MP1が1型樹状細胞由来のIL-12により恒常的に分化誘導され自然免疫機能の主体となることを見出した。以上より、MP細胞が従来型メモリー細胞とは異なる新たな自然免疫型T細胞であることが明らかになった。
平野 順紀
アブストラクト
研究報告書
国立感染症研究所 ウイルス第二部 第二室小胞体ストレスに着目したエンテロウイルスによる神経毒性の分子機序解明100
エンテロウイルスの感染では、小胞体ストレスとその下流のシグナル経路が誘導・改変されることが知られている。本研究では、エンテロウイルスのコードする非構造タンパク質の一つである3Aタンパク質の発現により、強い小胞体ストレスが誘導されることを見出した。さらに、3Aタンパク質による小胞体ストレスの宿主側のデタミナントとしてGBF1を見出した。3Aタンパク質はGBF1と相互作用することで、GBF1をハイジャック・隔離し、小胞体ストレスを誘導した。エンテロウイルス感染では、小胞体の膨化が起こり、小胞体にタンパク質が蓄積した病的な状態が観察された。3Aタンパク質によるGBF1の阻害により、小胞体ストレス依存的な細胞死が引き起こされた。また、小胞体ストレス経路を阻害した場合には、ウイルスによる細胞死が顕著に抑制されることを見出した。

令和3年度
血液医学分野 若手研究者継続助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
新澤 直明
アブストラクト
研究報告書
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 国際環境寄生虫病学分野次世代シーケンサー解析とゲノム編集によるマラリア原虫の赤血球侵入機構の解明 100
マラリア原虫メロゾイトの赤血球侵入は多数のタンパク質が関わる複雑な現象であり、その機構の大部分が未だに明らかになっていない。本研究では、独自に開発したマラリア原虫のゲノム編集技術によってメロゾイト形成期にmRNAが存在する5つのAP2転写因子のChIP-seq法による標的遺伝子解析を行い、新規の赤血球侵入関連因子の同定に成功した。継続助成となる本年度は、昨年度までの解析で同定した赤血球侵入関連因子の機能解析に向けたコンディショナルノックダウン法の開発を行った。開発に成功したコンディナルノックダウン法によって、ChIP-seqによって同定した侵入関連因子が赤血球侵入に必須であることを明らかにした。メロゾイト形成期転写因子の標的遺伝子解析では、多数の未知遺伝子が含まれていた。今回開発したコンディショナルノックダウン法を用いることで、これらの未知遺伝子の赤血球侵入における機能解析が可能となった。

令和3年度
循環医学分野 一般研究者助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
小笠原 邦昭
アブストラクト
研究報告書
岩手医科大学医学部 脳神経外科学講座脳主幹動脈閉塞病変による慢性脳虚血における脳温度上昇と脳脊髄液動態との関連100
本研究では、「慢性貧困灌流において低下した脳血流による不十分なラジエータ効果が存在するときに、脳脊髄液流が能動的にラジエータ効果を担っているのかどうか」を明らかにする。脳主幹動脈慢性閉塞狭窄性病変の原因となる動脈硬化性病変と虚血発症もやもや病を持つ患者を対象とした。全例に術前に15OガスによるPETを用いて貧困灌流の有無を、3T MRI MRSを用いて脳温度マップを、7 Tesla MRIで取得した拡散強調画像で得られたIVIM解析にてCSF dynamicsを作成した。結果として、1)脳温度が高いほど脳脊髄液動態は活発であった。2)を動脈硬化性病変と虚血発症もやもや病とで比較すると、1)の関係は後者でより顕著であった、3)脳温度が反対側に比して1度以上高い症例のうち脳脊髄液動態が活発な症例は認知機能低下の程度は軽度であったが、脳脊髄液動態が低下している症例は認知機能低下の程度は高度であった。
金澤 雅人
アブストラクト
研究報告書
新潟大学脳研究所 臨床神経科学部門 脳神経内科学分野脳梗塞に対する末梢血単核球細胞療法の保護的極性獲得機序の解明100
神経再生による脳梗塞の治療が可能か?という命題は,臨床神経学の究極的な課題である.我々は,採血で取得できる末梢血単核球(PBMC)を低酸素低糖刺激(OGD)で,脳保護的なタイプに変換し,脳梗塞に対する細胞療法の可能性を示してきた.今回「PBMC細胞療法を脳梗塞後の機能回復を促進する治療法として確立するために,細胞投与後の脳内修復(血管新生による神経再生)機序の解明を行い,PBMCによる新しい治療の確立と臨床応用」を可能とする研究を行った。OGD-PBMCに対してmiR阻害配列を添加することで、転写因子Hif-1を増加させ、PBMCが組織保護的に働く血管内皮増殖因子VEGF分泌を促進することを見出した。
坂井 信幸
アブストラクト
研究報告書
神戸市立医療センター中央市民病院 脳神経外科慢性期脳梗塞患者に対する自家末梢血 CD34 陽性細胞の内頚動脈内投与に関 する医師主導治験100
本研究の目的は、神経症状が安定した慢性期の脳梗塞患者を対象とし、MB-001(CD34陽性細胞分離機器)を用いて分離した自家末梢血CD34陽性細胞の内頚動脈内投与の有効性及び安全性の探索である。本研究は前観察期、二重盲検試験期及びレスキュー治療期の3期により構成されている。細胞治療群は内頚動脈内投与を、プラセボ群は大腿静脈内投与を実施する。
地域の基幹病院であるため、新型コロナ対応により入院患者の受け入れ制限などの制約もあったため、研究助成期間内の症例登録はなかった。しかし、選択基準及び除外基準を再検討し、適切な評価を実施でき安全性が確保できる治験実施計画書改訂を行い、規制当局の了承も得ることができ、今後の症例登録促進につなげる基盤が整備できた。
島村 宗尚
アブストラクト
研究報告書
大阪大学健康発達医学・寄附講座Rspondin3/LGR4をターゲットにした新規脳梗塞炎症制御療法の開発100
我々は、Wnt/βカテニンシグナルを促進するR-spondin (RSPO)/ LGR4シグナルに注目し、RSPO3投与により脳梗塞の治療効果、M1/M2フェノタイプへの作用、神経突起伸張への作用を検討した。マウス脳梗塞モデルでは、脳梗塞1,2日目でのリコンビナントRSPO3脳室内投与により、Il1β,Il6 mRNAの発現低下、Gap43 mRNAの発現上昇を認め、神経機能が改善した。MG6細胞を用いた検討では、TLR9による炎症も抑制できる一方で、TLR7による炎症は抑制しなかった。しかし、脳梗塞モデルもMG6細胞のいずれでもM1/M2への作用は認められなかった。グリア神経混合培養細胞では、LPSによる炎症性サイトカインの発現と炎症性サイトカインによる神経細胞死が抑制され、RSPO3刺激では、神経突起の伸張が促進された。以上の結果から、RSPO3は急性期の炎症性サイトカインの発現抑制と慢性期における神経突起伸張を促進し、脳梗塞後の神経機能障害を抑制することが明らかとなった。
相澤 健一
アブストラクト
研究報告書
自治医科大学附属病院 臨床薬理センター質量解析によるトランスサイレチン型心アミロイドーシスの病態解明と革新的診断法開発100
トランスサイレチン型心アミロイドーシスは高齢心不全患者の潜在的な基礎疾患であり、TTR 4量体安定化薬の適応拡大により近年特に注目されているのが、ATTRwtアミロイドーシスである。本研究では、三連四重極型質量分析計を用いて心アミロイドーシスを診断するハイスループット高感度分析系を構築し、心筋に加え、腹壁皮下組織や胃・十二指腸等他の組織においても低侵襲で確定診断可能か検討する。方法として、質量分析による高感度分析系の構築と生検心筋中のアミロイド蛋白の定量評価、プロテオスタシス破綻に基づくアミロイド蛋白の心筋内凝集メカニズムの解明を行った。アミノ酸配列から予想されるMRMトランジションを設定し基本分析メソッドを検討したが、最初に標準品タンパク質をトリプシン消化したものを試料として、トリプル四重極分析計によるMRM分析にて検出可能な消化ペプチドを確認した。
有馬 勇一郎
アブストラクト
研究報告書
熊本大学国際先端医学研究機構 心臓発生研究室収縮保持性心不全におけるケトン体を介した心保護効果の検証100
ケトン体による心保護作用が注目されているが、詳細な効果や機序は明らかでない。我々は、収縮保持性心不全マウスモデルの解析を進める過程で、ケトン体合成不全状態では心不全病態が重症化することを確認した。加えて、ケトン体合成不全を用いた検討において、ケトン体合成にはミトコンドリアタンパクのアセチル化を制御することで、機能を維持することを見出した。我々の報告を含め、これまでのケトン体代謝により、ケトン体にはエネルギー基質としての作用以外に多彩な作用を持つことを確認している。本研究では、ケトン体合成・利用それぞれのコンディショナルノックアウトマウスを用いて心不全病態を評価し、ケトン体代謝の多彩な作用をそれぞれ解析することで作用機序を明らかにすることをめざし、エネルギー基質、シグナル伝達、エピゲノム制御の変化を検証した。
王 英正
アブストラクト
研究報告書
岡山大学病院新医療研究開発センター 再生医療部難治性血管炎に対する標的RNA療法の基盤技術創出100
本研究では、病態進展の中心となるマクロファージならびに血管平滑筋細胞に注目し、川崎病モデルマウスを用いて、各種細胞自身より分泌されるexosomes由来のマイクロRNA (miR)プロファイルを網羅的に解析し、川崎病血管炎に対する新たなon-target-RNA療法の基盤技術創出を目的とする。川崎病モデルマウスにおける心臓内CD45+及びCD45-/CD34+細胞においては、合計8個のmiRがそれぞれ有意に上昇し、また、CD45+及びCD45-/CD34+細胞においても合計8個の異なるmiRが有意に減少した。以上により、同定した急性炎症時に有意な発現減少を示した一連の候補miR群のうち、miR-223-3p, miR-21-3p, miR-210-3pは川崎病血管炎症例の血清を用いたRNA sequencingでも同様に報告されており、今後、より緻密なin vitro検証を踏まえ、臨床応用につながるin vivoモデルでの治療評価を行い、難治性血管炎に対する標的RNA治療薬の開発根拠を随時構築していく。
沖 健司
アブストラクト
研究報告書
広島大学大学院医系科学研究科 分子内科学アルドステロン合成の翻訳後調節機構解明と創薬標的因子の同定100
原発性アルドステロン症 (PA) の一病型であるアルドステロン産生腺腫 (APA) におけるアルドステロン合成律速酵素はCYP11B2である.APAにおけるCYP11B2の翻訳律速因子や翻訳調節のアルドステロン合成細胞内分子機構は全く解っておらず,翻訳調節によるアルドステロン合成機構を解明することを目的とした.APAの原因遺伝子を導入した原発性アルドステロン症モデル細胞株を用い,CYP11B2の転写抑制下ではアルドステロン合成は認めたものの,翻訳制御下ではアルドステロン合成は抑制された.アルドステロン合成促進因子であるアンジオテンシンII投与下で,CYP11B2タンパクが翻訳される前からアルドステロン合成が促進されることがわかった.CYP11B2 mRNAに結合するタンパクを複数同定した.以上から,APAにおいて,CYP11B2翻訳によるアルドステロン合成機構が存在し,アルドステロン合成を促進していると考えられた.
小田 哲郎
アブストラクト
研究報告書
山口大学 第2内科心筋細胞内のカルモジュリンおよびカルシウム動態に注目した新しいHFpEF治療の探査100
本研究では、HFpEFモデル(two-hit法を用いる)、またCaMのRyR2への結合親和性を高めるとされるダントロレンを付加したHFpEFモデルを用いて、RyRの安定化やCaMの心筋細胞内動態を制御することがHFpEFの治療法となりうるかどうか、またHFpEFの発生機序に関わるかどうかを詳細に検討した。
その結果、HFpEFの成因に、CaMのRyR2への結合親和性の低下によるRyR2の機能異常、すなわちRyR2からの拡張期の異常なCa2+漏出(心筋の拡張障害を引き起こす)が関与しており、さらにそのRyR2から解離したCaMが核内へ移行することで、HFpEFに多く見られる病的心肥大の進展にも関わっていることが証明された。また悪性高熱病の特効薬であるダントロレンは、CaMのRyR2に対する結合親和性を高め、RyR2からの異常なCa2+漏出、さらにはCaMの核内移行を抑制することでHFpEFの進展または発症を抑制できる可能性があることが示唆された。
刀坂 泰史
アブストラクト
研究報告書
静岡県立大学薬学部 分子病態学分野アルギニンメチル化反応を介する心臓線維化転写制御機構の解明100
心臓線維化の抑制は有効な治療戦略と考えられるが、そのメカニズムには不明な点が多く、治療薬はいまだ開発途上である。心不全時、心臓線維芽細胞で様々な遺伝子発現が変化し、活性化さらに筋線維芽細胞へ分化する。その転写制御には、ヒストンのアセチル化やメチル化などのエピジェネティックな制御機構が寄与しているが、非常に複雑な過程であり、いまだ完全な解明には至っていない。
本研究よりアルギニンメチル化酵素PRMT5は心臓線維化に寄与する分子であること、PRMT5はヒストンのアルギニンメチル化反応を介して、線維化関連遺伝子の転写を制御することを見出した。本研究成果は心臓線維化の新たなメカニズムを解明し、その科学的意義は大きいと考える。
勝俣 良紀
アブストラクト
研究報告書
慶應義塾大学 スポーツ医学総合センター心臓における、警告シグナルとしてのグルタチオンの新たな機能の解明100
細胞は細胞内外にシグナルを伝達することで、細胞の恒常性を維持する。本研究では、虚血再灌流障害時のグルタチオンの病理学的意義やメカニズムについて検証を行い、虚血再灌流障害(IR)の新たな治療戦略の開発を目的とした。マイクロダイアリシスと組み合わせたメタボローム解析により、in vivoでの虚血中および再灌流後の虚血領域におけるグルタチオンの著しい細胞外放出が明らかになった。IR後の内因性酸化リン脂質をin vivoで評価したところ、再灌流12時間後に虚血領域で複数の酸化ホスファチジルコリン(ox-PC)レベルが有意に上昇し、フェロトーシスの関与が示された。また、multidrug resistance protein 1(MRP1)トランスポーターの阻害は、細胞内グルタチオン枯渇を抑制し、ox-PCsの生成を有意に減少させることが確認され、IR傷害を有意に減弱させた。再灌流後遅発性に生じる過酸化脂質をターゲットとした治療法が新たな治療ターゲットとなりえる。
柴 祐司
アブストラクト
研究報告書
信州大学医学部 再生医科学教室心臓再生を実用化するための細胞移植免疫制御法の確立100
iPS細胞を用いた心筋再生医療において、適切な免疫抑制プロトコールは確立されていない。本研究では、様々な免疫原性を示すiPS細胞株を樹立し、それぞれの移植条件で、霊長類同種移植における免疫原性を評価する。移植細胞の生着評価のために、カニクイザルモデルにおけるin vivo発光イメージングシステムを確立した上で、最適な免疫抑制プロトコールを樹立する。
清水 逸平
アブストラクト
研究報告書
順天堂大学医学部 内科学教室 循環器内科学講座拡張不全型心不全に対する次世代の治療法の開発100
本研究課題で、老化や肥満に伴い血液中で上昇し、線維化を促進する分泌型線維化促進分子(AFP)を標的とした拡張不全型心不全治療法の開発を目指した。肥満食を投与したところ左室拡張不全が生じたが、AFP全身ノックアウトマウス、臓器特異的AFPノックアウトマウスでは左室の線維化及び拡張不全の改善を認めた。cFOS/cJUN経路によりAFPの発現が上昇することがわかった。HFpEFに対する次世代の治療法を開発するためにAFPに対する中和抗体のスクリーニングを現在行っている。更に検討を行うことで、HFpEFに対する次世代の治療法開発を行いたいと考えている。
白石 学
アブストラクト
研究報告書
自治医科大学 総合医学第2講座 心臓血管外科心筋梗塞に対する骨髄由来 M2マクロファージ の心嚢内移植療法の開発100
心不全患者は増加傾向であり、根本的な病因究明と新たな治療法の確立が急務である。本研究の目的は、心筋梗塞発症後の組織修復の主要調節因子及びメカニズムを特定することである。 虚血障害マウス心臓からマクロファージを採取し、遺伝子発現の網羅的な解析を行った。同定した分泌タンパクの受容体をブロックする抗体を使用し、培養線維芽細胞の老化メカニズムの解析を行った。また、心筋梗塞モデルマウスに同定した分泌タンパクの受容体をブロックする抗体を投与し、生体内において線維芽細胞の老化進行が線維化に与える影響を解析した。線維芽細胞の老化やアポトーシスを制御する分子としてマクロファージが分泌するニューレグリン 1 を同定した。更に線維芽細胞の受容体をブロックすると線維芽細胞の老化が進行し、心筋梗塞領域のみならず遠隔領域にも過剰に線維化が亢進すること発見し、心不全発症メカニズムの一端を解明した。
中岡 良和
アブストラクト
研究報告書
国立循環器病研究センター研究所 血管生理学部大型血管炎の病態解明に基づく新規疾患活動性マーカーの同定100
本研究は、大型血管炎(高安動脈炎と巨細胞性動脈炎)の患者検体(血液及び便)を用いて、IL-6阻害療法下でも疾患活動性を反映する、あるいは血管合併症のハイリスク症例を早期に同定できる新規バイオマーカーの同定を目的とする。血清からエクソソームを分離して、タンパク質発現解析を行った。また便検体については、便から抽出したDNAを用いて16SrRNAアンプリコンシーケンスを実施・解析した。血清エクソソームのプロテオーム解析からは健常者で検出されず大型血管炎患者で検出され、活動性の高い患者ほど高値となるバイオマーカーを見出した。腸内細菌叢解析では、高安動脈炎患者で健常者と比して有意な腸内細菌叢の変容が見られた。また、細菌Xが大動脈瘤合併患者の腸内で有意に増加していることも明らかとなった。細菌Xの便中での検出がされる患者では前向きの検証でも大動脈瘤関連イベントの発生について同様の傾向が確認された。
仲矢 道雄
アブストラクト
研究報告書
九州大学大学院薬学研究院 疾患制御学分野慢性炎症期筋線維芽細胞の性質解明とその治療応用への基盤構築100
組織の線維化はコラーゲン等を産生する筋線維芽細胞によって実行される。最近、心筋梗塞後の心臓において急性炎症期から慢性炎症期に移行すると、これまで最終分化型と考えられていた筋線維芽細胞がさらに分化し、COMP等の骨や軟骨の分化に関連する蛋白質を発現するようになることが明らかになった。しかしながら、この慢性炎症期の筋線維芽細胞の性質はほとんどわかっていない。
そのような中申請者は、心筋梗塞後の心臓においてある分泌蛋白質が慢性炎症期になると筋線維芽細胞に特異的に高発現するようになること、そしてその分泌蛋白質が慢性炎症期の筋線維芽細胞においてコラーゲンの産生を促進することを見出した。そこでこの分泌蛋白質の慢性炎症期の筋線維芽細胞における役割を in vivoで確かめるため、この分泌蛋白質のノックアウトマウスをCRISPR-Cas9法を用いて作成し、取得することに成功した。
升田 紫
アブストラクト
研究報告書
東京大学医学部附属病院 予防医学センター脂質合成転写因子SREBP-1が多価不飽和脂肪酸を感受する機構の解明100
申請者は、予防医学において健康寿命延長に寄与する研究を志し、脂質代謝を制御する転写因子であるSREBP(Sterol Regulatory Element-Binding Protein)と、多価不飽和脂肪酸(PUFA)に着目した。SREBPは、相同性の高いSREBP-1とSREBP-2のアイソフォームが存在し、前者は脂肪酸代謝、後者はコレステロール代謝に関与する。申請者の研究グループは先行研究で、ニュートリゲノミクス手法を用いて、PUFAがSREBP-2には影響を与えない一方、SREBP-1の転写活性を特異的に抑制する事を解明した。詳細が依然未解明であったが、本研究により、SREBP-1上のPUFA感受ドメインを絞り込む事が出来、その感受ドメインは既存のSCAP(SREBP cleavage-activating protein)と独立に機能する事を証明した。
三阪 智史
アブストラクト
研究報告書
福島県立医科大学 循環器内科学講座心臓-骨髄連関におけるエピジェネティクスを基軸とした心不全の新しい治療戦略100
本研究では、心臓-骨髄連関における単球・マクロファージのDNAメチル化に着目して、加齢に伴うクローン性造血と心臓マクロファージのエピジェネティクスの関連性を検討した。マウス心不全モデル、クローン性造血モデル、骨髄由来マクロファージ培養の系を確立した。クローン性造血関連遺伝子変異を有するマウスでは、圧負荷後心機能低下を来し、心筋組織における浸潤したマクロファージ数の増加を認めた。骨髄由来マクロファージにおける次世代シーケンサーを用いたバイサルファイトシーケンスによる網羅的DNAメチル化解析を行い、クローン性造血関連遺伝子変異におけるdifferentially methylated regionsを同定し、これが免疫反応の差異に関連することが示唆された。骨髄由来血液細胞のエピジェネティクスの制御が、心臓-骨髄連関を基軸とした心不全の新しい治療法となる可能性があり、さらなる研究が必要である。
湯浅 慎介
アブストラクト
研究報告書
慶應義塾大学医学部 循環器内科機械学習を用いた循環器疾患創薬基盤技術の開発100
心血管病は世界中で4億人以上が罹患し主要な死因となっており、今後もその傾向は続くことが予測されている。心血管病の疾病負担を減らすため、心血管病の革新的治療方法開発に注力していく必要性が広く指摘されている。一方、近年の心血管病に関する創薬開発の成功確率は高くなく、新たな研究手法の開発が期待されている。本研究では、機械学習を用いて微細な細胞形態変化を自動で検出するシステムを構築し、心血管病の病態解明・創薬研究への基盤技術として開発・応用することを行った。

令和3年度
循環医学分野 COVID-19関連 一般研究助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
木村 和美
アブストラクト
研究報告書
日本医科大学 神経内科分野COVID-19に脳卒中を発症した患者の臨床的特徴を明らかにする研究 100
2019年12月に中国武漢で発生した原因不明の肺炎の原因がSARS-CoV2であることが確認された。その後もウィルスは変化しながら2022年10月までに約2200万人の感染者数、4万6千人を超える死者が出ている。ワクチン接種により重症化リスクは減ったように思えるものの、この感染が終息する気配は現時点では全くみられていない。このCOVID-19による懸念は当初重症呼吸器リスクであったが、その後に脳卒中を含む血栓症による合併症の報告が続き、その転帰が不良であるため注目された。日本脳卒中学会の承認を得て「脳卒中を合併したCOVID-19の症例登録研究」を2020年4月の症例から開始した。この研究は日本脳卒中学会の一次脳卒中センター975施設に研究参加依頼をし、6割を超える563施設から参加同意を得ることができ、2022年5月末の終了までに合計で165例の症例が登録された。そのデータを解析し報告する。
池村 奈利子
アブストラクト
研究報告書
京都府立医科大学 循環器内科学高親和性ACE2キメラ抗体分泌間葉系幹細胞によるCOVID-19細胞療法の開発100
我々はこれまでに新型コロナウイルスの感染受容体であるACE2を指向性進化法により親和性を100倍に高め、逃避変異が出現しないACE2中和蛋白製剤を開発した。本研究ではこの蛋白製剤をより迅速に製剤化できる方法として、間葉系幹細胞(MSC)の免疫調整作用及びウイルス中和製剤分泌による抗ウイルス作用に期待し、開発に取り組んだが、MSC-ACE2製剤を投与したマウスにおいてその治療効果は期待できなかった。そのため、ACE製剤の最適化と亜種株に対する有効性の確認に尽力することとした。昨今世界的に猛威を振るっているオミクロン株に対して従来のワクチンや回復期患者血清の中和活性は低下しており、また日本で承認されているカクテル製剤もその効果の低下が確認されたのに対し、ACE2製剤ではその中和活性効果が維持されていた。今後さらなる亜種株にも対応可能な薬剤開発と、迅速な製剤化に向けての改良が期待される。

令和3年度
循環医学分野 若手研究者助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
殿村 修一
アブストラクト
研究報告書
国立循環器病研究センター 脳神経内科Cnm陽性ミュータンス菌関連の脳内出血病態解明100
脳卒中のうちもっとも重症な病型の一つである脳内出血の病態を、口内の常在菌との関連から明らかにする研究を行った。臨床研究にて明らかにしてきた毒性のつよいCnm陽性ミュータンス菌株と脳血管内皮細胞や脳内の組織内マクロファージであるミクログリアとの関連を明らかにすることで、口内から一過性の菌血症を介して脳循環に直達した細菌が、どのように血液脳関門の破綻やミクログリアを介した脳内炎症に寄与しうるか、を明らかにする研究を行った。
安達 裕助
アブストラクト
研究報告書
東京大学大学院医学系研究科 内科学専攻 器官病態内科学講座 循環器内科学血管リモデリング進展過程における血管周囲脂肪褐色化の病態生理学的意義の解明100
血管周囲には血管周囲脂肪組織(PVAT)が存在するが、その病態生理学的意義は十分に分かっていない。本研究では網羅的遺伝子発現解析の結果、血管傷害後のPVATで褐色化が起きていることを見出した。褐色化の制御因子であるPrdm16を脂肪組織特異的にノックアウトするとPVATの炎症と血管リモデリングが増悪した。逆にPVATの褐色化を促進すると炎症とリモデリングが抑制された。一細胞RNAシークエンスにより、褐色化したマウス脂肪細胞から分泌されるアディポカインとしてNRG4を同定した。血管傷害後のPVATでは褐色化が起こり、褐色化したPVATはNRG4の分泌を介してマクロファージの炎症型への分極を抑制することで過剰な炎症を抑制し、病的な血管リモデリングを抑制していることが分かった。これらの知見は、動脈硬化の新たな治療標的を明らかにするものである。
石渡 遼
アブストラクト
研究報告書
防衛医科大学校 生理学講座転写因子TFEBを標的とした血管石灰化治療の検討100
慢性腎不全に伴う高リン酸血症は, 血管石灰化の原因である. 本研究では, Transcription Factor EB (TFEB) と血管石灰化の関連を明らかにするべく検討をおこなった.
 無機リン酸は血管平滑筋におけるTFEBのタンパク質発現を減少させた. siRNAによりTfebをノックダウンした細胞では,リン酸依存性の石灰化が亢進した. ラット慢性腎不全モデルでは, 石灰化の発症初期でのTFEB減少を認めた. プロテアソーム阻害剤により, リン酸依存性のTFEBの減少は抑えられた. しかし, AAVによるTfebの過大発現によっては, 血管平滑筋細胞におけるTFEBの増加は認めなかった.
 慢性腎不全による高リン酸血症は, TFEBのユビキチン-プロテアソーム経路による分解を促し, 血管平滑筋細胞のアポトーシスを誘導することで, 血管石灰化を増悪させると考えられた. 筆者らは現在, TFEBのユビキチン認識部位の同定を進めており, その可能性が高い領域を同定した.
氏原 嘉洋
アブストラクト
研究報告書
名古屋工業大学 電気・機械工学専攻細胞核の力学特性から迫る心筋細胞の分裂能喪失のメカニズム100
哺乳類の心筋細胞は,胎児期には活発に分裂するが,成体期ではほとんど分裂しないため,心臓の再生能力は著しく低い.本研究では,細胞核の硬化によって心筋細胞の分裂能が喪失したとの仮説を検証するために,両生類の中でも特に分裂能の高いアホロートル(ウーパールーパー)と分裂能を失った哺乳類の成体ラットの心筋細胞の核の力学特性を比較した.自作の力学試験装置を用いて,細胞から単離した核の引張試験を行った.アホロートルの核は,成体ラットよりも有意に軟らかく,分裂能の高い悪性腫瘍細胞と同程度の硬さであった.核の硬さを担うLamin A/Cとクロマチンの観察結果は,アホロートルの核が成体ラットよりも軟らかい構造を保持していることを示唆していた.哺乳類は,進化の過程で高いポンプ機能を獲得した代償として,DNAを力学ダメージから保護するために核を硬化させた結果,分裂能を喪失したのかもしれない.
髙田 卓磨
アブストラクト
研究報告書
東京女子医科大学 臨床医学系 循環器内科学心不全の病態解明を目指した配向制御に伴う心筋細胞同期的収縮制御機構の解明100
配向性は生体心筋に認められる構造であり、機能的な心臓組織作成に不可欠な要素である。しかしながら、配向制御が心臓機能に与える影響やその機序については未だ不明な点が多い。我々は、配向制御が心筋組織の収縮特性に与える影響を検証した。微細加工フィブリンゲル上にヒトiPS細胞由来心筋細胞を播種し配向心筋組織の作成に成功した。非配向心筋組織と比較し、配向心筋組織において収縮能の向上が認められ、運動解析にて配向心筋組織は、非配向心筋組織と比較し、一方向に収縮するだけでなく、同期的に収縮することが判明した。WBにて配向心筋組織におけるCx43の上昇が認められたため、AAVを用いて非配向心筋組織のGJA1遺伝子を過剰発現させたが、収縮能の向上だけでなく、Cx43の上昇も認められず、翻訳後修飾の影響が考えられた。修飾因子の同定は、配向制御を介した心筋細胞の同期的収縮の制御機構解明へ繋がる可能性が期待される。
塚崎 雅之
アブストラクト
研究報告書
東京大学大学院医学系研究科 病因・病理学専攻 免疫学血中を循環する骨保護因子OPGの動脈硬化性疾患における役割の解明100
Osteoprotegerin(OPG)は、破骨細胞分化誘導因子RANKLのデコイ受容体として働くことで破骨細胞による骨吸収を抑制し、骨恒常性の維持に必須の役割を担う。OPG欠損マウスは骨粗鬆症と血管石灰化を同時に発症することが知られるが、OPGは様々な臓器で発現し血中を循環する可溶性因子であり、血管石灰化の抑制に寄与するOPGの産生源やその動作原理は不明である。本計画では、OPGのコンディショナル欠損マウスを使用することで、血管恒常性維持を担うRANKL/RANK/OPGのシステムの作動原理を解析した。
中村 吉秀
アブストラクト
研究報告書
山口大学医学部附属病院 器官病態内科学リアノジン受容体結合カルモジュリン制御による心肥大・心不全治療100
本研究は、心筋のリアノジン受容体(RyR2)結合カルモジュリン(CaM)が、心不全、心肥大の進行に関するkey分子となることを証明し、心不全、心肥大に対する、これまでに無い治療法を確立することである。
hwo-hit拡張不全モデルにおいてダントロレンとRyR2 V3599Kの効果を、ミネラルコルチコイド誘発高血圧ラットでダントロレンの効果について検討した。
V3599Kとダントロレンは拡張不全を抑制し、左室の弛緩、コンプライアンスを改善した。
心筋のリアノジン受容体(RyR2)結合カルモジュリン(CaM)の親和性増強はCa2+依存性肥大シグナルすなわちCaN-NFATc, CaMKII-HDAC4シグナルを抑制し、心肥大を抑制するのみならず、心筋ERストレス改善を介した、新しい拡張不全治療につながる可能性が示唆された。
樋口 雄亮
アブストラクト
研究報告書
京都府立医科大学 循環器内科学CRISPRライブラリを用いた新規マイトファジー制御因子の発見と心不全治療への応用100
心不全患者の増加は問題であり、新規治療法による介入が必要である。心不全は心筋リモデリングが中心の病態であり、そこには低酸素によるミトコンドリア機能障害の関与していることは知られている。ミトコンドリアの品質管理機構としてマイトファジーが知られているが、生理的状況下を反映する低酸素下におけるマイトファジー制御は十分に解明されていない。
そこで、CRISPRライブラリを用いて低酸素下でのマイトファジー制御因子の探索を行なったところSlc25a11という遺伝子を発見した。Slc25a11がマイトファジーを制御するメカニズムにはLC3依存的なメカニズムに加えて、トランスポーター機能を含めた他のメカニズムも関与している可能性が考えられた。
平出 貴裕
アブストラクト
研究報告書
慶應義塾大学医学部 難治性循環器疾患病態学 寄付研究講座遺伝子変異に起因する全身性難治性血管病の病態解明と新規創薬ターゲットの探索100
【背景】肺動脈性肺高血圧症(PAH)は妊娠可能年齢の女性に好発する、生命予後不良の難病指定疾患である。発症関連遺伝子変化であるRNF213 R4810K変化がPAH発症に関連する機序は不明である。
【方法】CRISPR-Cas9システムを用いてRnf213 R4828K(ヒトのR4810Kに相当)バリアントを挿入し、患者ゲノム再現マウスを作製した。常酸素環境および10%低酸素環境で飼育し、PAHを発症するか検証した。
【結果】低酸素環境ではヘテロマウスで有意なPAHが惹起された。肺組織のマイクロアレイではCxcl12が有意に変動しており、炎症性ケモカインがPAHの発症に関連している可能性が示唆された。CXCL12のリガンドであるCXCR4は、肺動脈内腔および間質に発現していることを免疫染色で確認した。
【結語】 RNF213 R4810Kバリアントは低酸素環境下でPAHを惹起する疾患感受性遺伝子であり、CXCL12-CXCR4シグナルを抑制することでPAHが軽度になることを報告した。
正木 豪
アブストラクト
研究報告書
国立循環器病研究センター研究所 血管生理学部芳香族炭化水素受容体シグナルに基づいた肺動脈性肺高血圧症の新規治療及び診断法開発100
肺動脈性肺高血圧症(Pulmonary Arterial Hypertension: PAH)は原因不明の疾患であり、既存の治療薬に抵抗性の患者の予後は依然として不良である。研究者らは、芳香族炭化水素受容体(Aryl hydrocarbon receptor:AHR)がPAHを発症・重篤化させるメカニズムを明らかにし、PAH患者血清のAHR活性化能がPAHの重症度や予後予測因子となり得ることを示してきた(Masaki T, et al PNAS 2021)。さらに、末梢血単核球(Peripheral blood mononuclear cell: PBMC)のAHR mRNA発現がPAHの診断・治療の新しい指標になる可能性を見出した。本研究では、動物実験によりAHRシグナルを阻害剤によって抑制することでPAHの病態を抑制できる可能性を示した。また、PBMCにおけるmRNA発現とPAHの重症度や予後との関係に着目し、AHRと同様に、免疫細胞の炎症性シグナル制御に関わるRegnase-1の発現低下が、PAH発症の原因となっている可能性を示した。
丸山 和晃
アブストラクト
研究報告書
三重大学大学院医学系研究科 修復再生病理学リンパ管を介した炎症抑制による新規心筋梗塞治療の開発100
心筋炎は心筋を主座とする炎症性疾患である。心筋炎は自然免疫系による過剰なサイトカインの産生、獲得免疫系による心筋細胞の障害、炎症反応の消退といった過程をたどり、臨床的には炎症反応をいかに抑制するかと自然軽快までの血行動態維持が最も重要な課題である。リンパ管は過剰な間質液の回収を通じた微小環境の調節、免疫細胞の回収経路を通じて炎症反応を制御する。近年の研究で、自己免疫性脳炎モデルで篩板に存在するリンパ管内皮細胞(LECs)が抗原提示やProgrammed death-ligand 1(PD-L1)を介して総合的に炎症反応制御をしている可能性が示された。本研究において我々は発生学的な解析に基づき, 成体でリンパ管内皮細胞の発生・維持に必須の転写因子である Prospero Homeobox 1(Prox1)を欠損させた遺伝的リンパ管欠損モデルを作成し、心筋炎を誘発し、心筋炎におけるリンパ管を介した炎症制御機構の全体像を明らかにする事を研究の目的とする。 

令和3年度
循環医学分野 若手研究者継続助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
候 聡志
アブストラクト
研究報告書
東京大学医学部附属病院 循環器内科学講座シングルセル解析に基づく心不全病態解析と心保護因子の探求100
シングルセルR N A seq解析は心不全研究領域でも近年普及しつつあるが、得られた膨大なデータを如何に処理し、有用な情報を抽出(新規心不全治療ターゲットの探索)するのかは未解決の課題である。申請者らはこの課題解決するため、まずデータの解析手法の工夫に取り組み、重み付け遺伝子共発現ネットワーク解析やリガンド-受容体解析、パスウェイ解析、細胞間コミュニケーション解析といった解析手法を用いたり、空間的遺伝子発現解析との統合解析を行ったりすることで、多くの心不全治療標的因子候補を同定することができ、本年度は一定の成果を得た。

令和2年度
先進研究助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
保仙 直毅
アブストラクト
研究報告書
大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学血液がんに対する新規CAR-T細胞療法の開発1,000
我々が自作した10,000クローン以上の抗骨髄腫細胞モノクロ―ナル抗体の中から見出した骨髄腫特異的抗体R8H283はCD98hcを認識するが、CD98hcを発現する正常リンパ球には結合しない。本研究において、CD98hcに付着する糖鎖の違いが、正常な白血球にR8H283が結合しない原因である可能性を示した(Hasegawa, K.,et al. Sci Transl Med 14:eaax7706, 2022) 。さらに、我々は、抗AML細胞株モノクロ―ナル抗体を約14,000クローン作製し、その中からCD34+CD38-AML幹細胞を含むAML細胞に結合するが正常造血細胞に結合しない抗体としてKG2032を同定しその標的抗原も同定した。KG2032をもとに作製したCAR-T 細胞は in vitro、in vivo で有意な抗 AML 効果を示した。現在臨床応用へ向けて研究を進めている。

令和2年度
COVID-19特別研究助成 研究成果報告書

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
星野 温
アブストラクト
研究報告書
京都府立医科大学 循環器内科人工知能ガイド指向性進化スクリーニングによるウイルス高親和性ACE2変異体創作200
新型コロナウイルスが感染する際の受容体であるACE2タンパク質を改変してウイルスとの結合力を約100倍にまで高め、抗体製剤と同等の治療効果を持つウイルス中和タンパク質を開発した。この改変ACE2受容体は抗体製剤等を用いた治療で懸念されるウイルス変異株による治療効果の減弱が起こらない大きな利点があり、オミクロン株を含むすべての変異株に有効であることを確認している。またマウスやハムスターの感染モデルにおいて静脈投与、吸入投与での有効性も確認された。さらに将来のコロナウイルス感染症の原因となりうるサルベコウイルスにも有効なため現在のCOVID-19治療薬だけでなく将来のパンデミックに対する備蓄薬としても期待される。
松下 修三
アブストラクト
研究報告書
熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センター 臨床レトロウイルス学分野新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を中和するヒト単クローン抗体の作成200
本研究では新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染例から中和抗体を樹立し、中和抗体による予防・治療法の開発を目指す。SARS-CoV-2感染回復期症例から遺伝子クローニングによって作成した組み換え抗体のうち88クローンがSpike蛋白結合活性を示した。中和活性を認めたクローン中9-105抗体はIC50:3.5 ng/mLと強力な中和活性を示すばかりでなく、強力な結合活性 (KD: 2.03 x 10-12M)を示した。9-105抗体は、アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株などの変異株に対し強力な交差中和活性を示したが、オミクロン株については効力の低下を認めたため、新たにオミクロン株をカバーする中和抗体パネルを作成した。先行する中和抗体製剤は効力及びコストに問題を抱えている。9-105抗体を含む中和抗体パネルの臨床応用は、SARS-CoV-2パンデミック終息の切り札となりうる。
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