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血液医学分野 「令和2年度」

令和2年度(第39回)
血液医学分野 一般研究助成金受領者一覧
<交付件数:20件、助成額:2,000万円>

血栓止血・血管機能(各種臓器の生理、病態など)とその関連領域

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
石井 秀始
アブストラクト
研究報告書
大阪大学大学院医学系研究科末梢血の細胞外分泌小胞に含まれるマイクロRNA分子内メチル化を制御する分子機構の解明と臨床応用のための開発研究100
ヒト材料から高い精度でDNAおよびRNAの高速シークエンスや、蛋白の質量分析を行うことで、がん患者の初診及び治療後の再発や転移をいち早く診断するための末梢血バイオマーカーの開発研究を実施した。2012年頃から、マイクロRNAのメチル化修飾を解読するために、新しい方法として質量分析法とトンネル電流シークエンス法を応用しRNAのシークエンスとメチル化修飾を高速で読む方法を開発してきたことを土台として、本研究ではマイクロRNAのメチル化修飾を用いたバイオマーカーを開発研究するために、消化器がん患者のサンプルを用いて各種シークエンス情報を比較した。その結果、マイクロRNAのメチル化修飾は腫瘍の存在の検出に鋭敏であるだけなく、ステージ分類にも有用であることが示された。前臨床としての動物試験とともに、がん種別の情報の検討を進めて大阪大学から発出する知財として整備を進めている。
加藤 恒
アブストラクト
研究報告書
大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科血小板蛋白リン酸化状態の網羅的解析を用いたインテグリン活性化機構の解明100
血小板は止血とともに動脈血栓症においても重要であり、血小板フィブリノゲン受容体インテグリンαIIbβ3機能制御が極めて重要である。しかし、血小板が持つ実験手法の制約のためαIIbβ3活性化を制御するinside-outシグナルの詳細は不明である。我々は多くの血小板機能異常症の解析より、生体内の止血には速やかで持続的なαIIbβ3活性化キネティクスが重要であると示してきた。これに基づき血小板刺激後に生じる蛋白リン酸化変化を質量分析で網羅的に解析し、αIIbβ3の速やか、持続的活性化誘導に関与する候補分子を多数得た。一部の分子についてはCMK細胞、ノックアウトマウスを用いた血小板機能への作用を検討した。本研究から得られる知見は、将来の新規抗血小板療法、止血コントロール法の開発に貢献するものであり、今回得られたαIIbβ3活性化キネティクス制御に関わる候補分子の検討を今後も継続予定である。
松本 雅則
アブストラクト
研究報告書
奈良県立医科大学 輸血部後天性・血栓性血小板減少性紫斑病における日本人の疾患感受性HLAの解析100
免疫原性血栓性血小板減少性紫斑病(iTTP)はADAMTS13に対する自己抗体が産生されることで発症する。我々は日本人iTTP患者を対象としたHLAタイピングを行い、DRB1*08:03を疾患感受性HLAアレルと同定した。今回、拘束性T細胞性エピトープのin silico予測およびMHC density assayによるin vitro検討を行った。In silico解析結果からはDRB1*08:03およびDRB1*11:01分子はそれぞれ異なるペプチド結合モチーフを有していることが予想された。MHC density assayでは、各DR分子に対して24種のADAMTS13ペプチドとの結合親和性を計測し、いずれのDR分子とも複数の領域について結合性を示した。今回、DR分子を対象としたin vitro検証で複数のアリル拘束性T細胞エピトープが複数のADAMTS13ドメインに存在することを明らかにした。

輸血・細胞療法とその関連領域

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
田中 洋介
アブストラクト
研究報告書
東京大学医科学研究所 細胞療法分野白血病幹細胞の薬剤抵抗性とG0期の深さと抗腫瘍免疫抵抗性とのクロストークの解明100
CMLマウスモデルにおいて、G0期の白血病幹細胞(leukemic stem cells: LSCs)のイマチニブ抵抗性獲得にはIRAK1/4-NF-kB経路の活性化による炎症シグナルの亢進が重要であることを明らかにしました。また、IRAK1/4-NF-kB経路の活性化はLSCにおいてPD-L1の発現上昇を惹起し、抗腫瘍免疫抵抗性をも惹起していることを明らかにしました。イマチニブとIRAK1/4阻害剤あるいはイマチニブと抗PD-L1抗体の併用によりこれらの経路を阻害することで、イマチニブ抵抗性のLSCを効果的に駆逐できることを明らかにしました。

血液・血管に関連する再生医学

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
岩脇 隆夫
アブストラクト
研究報告書
金沢医科大学総合医学研究所 生命科学研究領域 細胞医学研究分野小胞体ストレス応答機構が支える造血幹細胞の正常な自己増殖能と生存能100
私たちを含む哺乳動物の体内では生涯に渡り長く機能を維持する細胞が存在している。例えば神経細胞は分化してから細胞分裂することなく、その多くは生きている間ずっと正常な機能を保ち続けている。一方で造血幹細胞も生きている間ずっと自己増殖を繰り返しながら白血球や赤血球など種々の血液細胞を作り続けている。これらの長期間維持されなければならない細胞は体内で生じる変化やストレスに対して順応できる未知の機能を持っているはずである。そこで本研究では後者の造血幹細胞が持っているストレス抵抗性の分子メカニズムに迫ることを目指して、特に小胞体ストレス応答分子であるATF6が持つ機能との関連性を解析した。その明確な結びつきを研究期間内に見出すことは叶わなかったが、既に同じ小胞体ストレス応答分子であるIRE1が持つ機能との関連性を突き止めていることから、将来的に本研究は血液医学分野で臨床応用できる可能性を含んでいる。
岡本 一男
アブストラクト
研究報告書
東京大学大学院医学系研究科 骨免疫学寄付講座赤芽球分化必須の膜ドメイン形成の解明と、その制御による赤血球分化培養技術の開発100
輸血用血液不足の深刻化や副作用の問題から、新たな血液供給システムとして造血幹細胞やiPS細胞を用いた生体外での赤血球分化誘導技術の開発が注目を浴びている。実用化に向けた高効率の赤血球誘導法を確立すべく、赤芽球分化誘導機序の詳細な理解は重要課題である。本課題では新規の赤芽球分化必須因子Pefに着目し、Pefによるエリスロポエチン(Epo)-Epo受容体-Jak2活性化に関与すること、およびその制御機構を解析し、Pefを介した新たな赤芽球分化制御を見出した。本研究成果を今後、Pefを標的とした効率的なex vivo赤血球形成誘導法の制御基盤の構築に繋げていきたい。
鈴木 教郎
アブストラクト
研究報告書
東北大学大学院医学系研究科 創生応用医学研究センター 酸素医学分野赤血球造血因子EPOを産生する細胞の再生に向けた腎間質線維芽細胞の分化系譜の解明100
慢性腎臓病の患者数は世界的に増加しているが、病態が複雑であるため、分子病態の理解が進んでいない。また、高額な腎代替療法が必要となるため、医療費高騰の主因となっており、腎臓病の病態解明は世界的に喫緊の課題となっている。一方、腎臓病の慢性期には共通して尿細管間質に筋線維芽細胞が出現し、腎線維化が進行する。そのため、腎線維化の機序解明が慢性腎臓病の理解を進めると考えられているが、適切な解析系が存在せず、分子機序解明は遅れている。これまでに、線維化腎の筋線維芽細胞は赤血球造血因子エリスロポエチンを産生する腎間質線維芽細胞(REP細胞)に由来すること、REP細胞の筋線維芽細胞への形質転換は可逆的であることを遺伝子改変マウスを用いた研究から発見した。本研究では、独自の遺伝子改変マウスや細胞株を活用して、REP細胞の発生分化と形質転換の機序を理解し、REP細胞の再生技術確立に繋がる成果を得ることを目指した。
宮澤 光男
アブストラクト
研究報告書
帝京大学医学部 外科腹腔内で使用可能な人工静脈の開発100
生体吸収性材料を用いて、緊急時に即座に使用可能な、操作性に優れた人工門脈を開発した。(方法)ブタを開腹し、その部分に同サイズの生体吸収性門脈パッチを移植した。移植2週後、3ヶ月後、パッチ移植した部位を採取し、肉眼的、組織学的に観察した。(結果)パッチ移植したブタは、移植部を採取するため犠牲死させるまで生存した。パッチ移植2週後:内皮面に血栓形成は認められず、すでに一部、内皮細胞が認められた。パッチ移植3ヶ月後:移植部は狭窄も瘤も認められなかった。ポリマーの遺残はなかった。肉眼的に移植部はnative門脈とほぼ同様の形態を示した。(結語と考察)本生体吸収性材料により作製したパッチ状人工門脈により、パッチ移植早期、中期に門脈を代替することが可能であった。この生体吸収性材料で作製した門脈パッチを消化器外科手術時の門脈の再建に利用可能であることが示唆された。
村松 里衣子
アブストラクト
研究報告書
国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 神経薬理研究部血液による中枢神経障害後の瘢痕形成機構の解明100
本研究では、脊髄損傷後に形成する瘢痕形成のメカニズムについて探索した。特に患部への血液の流入に着目し、血液が瘢痕形成細胞であるぺリサイトの増殖を促進するか、またその分子メカニズムを探索した。遺伝学的なスクリーニング実験と薬理学的な手法の組み合わせから、成体のマウスの血液に含まれぺリサイトの増殖を促進する因子を同定し、その因子に対するぺリサイトに発現する受容体、またその因子によるぺリサイト増殖に関わる遺伝子発現変動を検出した。また、見出した因子のin vivoでの機能を解析する手法の確立を目指し、基礎検討を行った。今後は、in vivoでの機能評価およびヒト検体を用いた解析を行い、見出したメカニズムが神経回路の修復に対する効果を検証する。
山本 玲
アブストラクト
研究報告書
京都大学高等研究院 ヒト生物学高等研究拠点加齢造血幹細胞の機能回復メカニズムの解明100
造血幹細胞は加齢とともにリンパ球産生能力が低下し、免疫力の低下につながることが知られている。申請者らが開発した新規造血幹細胞の増幅培養法を加齢造血幹細胞に適応すると、若齢造血幹細胞に類似した表面マーカーの発現を示すことを同定している。これらは、この培養法はリンパ球産生能力など加齢による機能低下を回復させることができる可能性を示唆している。本研究では、リンパ球産生能力を移植実験を行い検討し、遺伝子発現解析などを行うことにより、そのメカニズム解明を目的とする。本研究では、造血幹細胞の培養、移植、遺伝子発現解析を行った。

感染・免疫・アレルギーとその関連領域

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
一戸 猛志
アブストラクト
研究報告書
東京大学医科学研究所 感染症国際研究センター 感染制御系ウイルス学分野インフルエンザ重症化機構の解明100
インフルエンザは我が国では毎年冬に流行し、高齢者での肺炎や小児での脳症が致死的であり問題である。また新型コロナウイルスの流行からも明らかなように、新型ウイルスの世界的な大流行(パンデミック)は日常生活や経済に大きな影響を及ぼすため、ウイルスがヒトで病気を起こすメカニズムの解明が必要である。本研究では外気温や体温に着目し、インフルエンザ重症化機構を解明することを目的とした。マウスを36℃環境下で飼育すると致死的なインフルエンザウイルスの感染に対して抵抗性を獲得していることが分かった。この抵抗力の獲得には宿主のインターフェロン応答は関係なく、それよりも餌に含まれる食物繊維の量や宿主の腸内細菌叢が重要であったことから、体温が高温に達した際にマウスの腸内細菌叢が活性化して、活性化した腸内細菌が産生する代謝産物がインフルエンザウイルスに対する抵抗力を付与している可能性が示唆された。
遠西 大輔
アブストラクト
研究報告書
岡山大学病院ゲノム医療総合推進センター腫瘍内シグナルと腫瘍外免疫環境を同時に標的とする難治性悪性リンパ腫の新規治療戦略100
免疫療法抵抗性の機序の解明とその打破は、血液腫瘍患者の個別化医療を進める上で喫緊の課題である。本研究では、これまで申請者が見出してきた、腫瘍内シグナルと細胞外シグナルを同時に制御するハイブリッド遺伝子変異を標的として、腫瘍内外シグナルを同時に攻撃する治療戦略の開発を目指す。まずRCHOP療法を実施したDLBCL 1,200例に関して、トランスクリプトーム分類を実施し、MHC-I/II抗原が欠如し免疫微小環境がcoldであるDHITsig-positive/indが全症例の約30%に見られ、その予後は5年生存率50%と不良であった。また高悪性度リンパ腫細胞株を用いて、ハイブリッド遺伝子変異であるTMEM30AをCRISPR/Cas9にてノックアウトしたところ、”eat me signal”であるPhosphatidylserine(PS)の露出が確認され、マクロファージ貪食促進を見出し、現在その治療開発を進めている。
奥西 勝秀
アブストラクト
研究報告書
群馬大学生体調節研究所 遺伝生化学分野IL-5/IL-13高産生性IL-33R+ Tpath2の分化誘導機構の解明100
IL-5/IL-13高産生性IL-33R+ Tpath2の分化誘導機構の詳細は、まだほとんど解明されていない。本研究では、それを明らかにすることを目的に、マウス脾臓CD4+ Th細胞を用いたex vivoでの検討や、マウス喘息モデルを用いたin vivoでの検討を行った。そして、IL-5/IL-13高産生性IL-33R+ Tpath2の誘導において重要な役割を果たす可能性のあるサイトカインを、いくつか同定した。また、IL-33R+ Tpath2の分化誘導において、複数のRab27エフェクター分子が重要な役割を果たしている可能性を示唆する結果を得た。本研究の結果を踏まえ、将来的に、IL-5/IL-13高産生性IL-33R+ Tpath2の分化誘導機構の分子基盤の全容が明らかにされ、この機構を標的としたアレルギー疾患の新奇治療法の開発に繋がることを期待する
金城 雄樹
アブストラクト
研究報告書
東京慈恵会医科大学 細菌学講座肺炎球菌感染を防御する抗体産生誘導機構の解析100
本研究では、肺炎および髄膜炎の主な起炎菌である肺炎球菌に対する新規クチンを用いて、感染防御に重要な抗原特異的抗体産生および胚中心形成の誘導機構について解析した。新規肺炎球菌蛋白・糖脂質ワクチンは、他のアジュバントを用いた場合と比較して、胚中心形成が持続しており、抗体価の持続と一致する結果を示した。また、糖脂質によりNKT細胞が活性化してNKTfh細胞が誘導され、IL-4およびIL-21を産生することが明らかになった。本ワクチンによる胚中心B細胞の誘導および高親和性抗体産生の誘導はNKTfh細胞を介していることが示された。さらに、NKT細胞と相互作用する新規細胞の存在を見出し、胚中心形成への関与が示唆された。本研究成果をもとに詳細な抗体産生誘導機構が明らかになることで、幅広い感染防御効果をもたらす有効なワクチン開発に繋がることが期待される。
高村 史記
アブストラクト
研究報告書
近畿大学医学部 免疫学教室呼吸器感染ウイルス感染防御ワクチン開発の基礎研究100
 我々はアデノウイルスベクターをマウスに経鼻接種することで肺にて感染防御免疫に有効な滞在型メモリーCD8T細胞(CD8TRM)が継続的に増殖し、長期維持されることを発見、これをTRMインフレーションと命名した。本研究ではこの機構を解明することでCD8TRM誘導型ワクチン開発の基礎研究を行った。
 免疫マウス肺の組織学的解析により細気管支上皮細胞周囲の細胞浸潤巣がTRMインフレーション誘導部位であり、増殖CD8T細胞と樹状細胞、もしくは肺間質マクロファージとの相互作用が示された。更に、TRMインフレーションを起こしたCD8T細胞では通常のCD8 TRMと比較して1型インターフェロンやIL-27等のシグナルが増強されていることが示された。このことより、TRMインフレーションの誘導には抗原提示細胞による局所抗原刺激及び、上記サイトカインの刺激も関与していることが示唆された。
原 英樹
アブストラクト
研究報告書
慶應義塾大学医学部 微生物学免疫学インフラマソームを介した炎症誘導機序の解明と治療標的分子の同定100
インフラマソームは微生物や内因性の異常代謝産物、アラーミンを認識する免疫システムである。腸内細菌の代謝産物などを感知することで生理的な炎症を誘導し組織のメンテナンスや恒常性維持に関与することが報告されている一方で、脳神経系疾患や感染症、自己免疫疾患などの疾病時には急性および慢性的な炎症応答を誘導することで病態を重症化させることが近年の研究から明らかとなってきた。本研究はいまだ不明な点が多いインフラマソームの制御機序を解明することで、インフラマソーム関連疾患の治療標的候補分子を探索することを目的として行った。その結果、インフラマソームのアダプター分子が他のタンパクと会合しており、さらにリン酸化修飾を受けることで機能的に制御されていることが明らかとなった。これらの分子を標的として阻害剤を開発することで、上述したインフラマソーム関連疾患の治療への応用が期待される。
細川 裕之
アブストラクト
研究報告書
東海大学医学部 基礎医学系 生体防御学T細胞初期発生におけるガン遺伝子PU.1の発現抑制メカニズムの解明100
PU.1はETSファミリーに属する転写因子で、細胞系列特異的なターゲット遺伝子の発現を制御することで、様々な血球細胞の発生や機能に重要な役割を果たす。PU.1の発現量は血球細胞の系列や、発生段階によって厳密に制御されており、PU.1発現制御機構の破綻が様々なタイプの白血病の原因となることから、PU.1の発現制御および発現量をコントロールする分子機構の解明や、その制御法の開発は生命科学における重要課題の一つである。本研究により、T前駆細胞における発生段階特異的なPU.1の発現抑制メカニズムの一端が明らかにされた。今後、PU.1発現制御法に関する分子メカニズムに基づいた新たなコンセプトの提示が期待される。
武藤 朋也
アブストラクト
研究報告書
千葉大学医学部付属病院 血液内科自然免疫シグナルから迫る白血病の分子基盤100
申請者らは自然免疫シグナル経路が癌遺伝子cMycの活動性を抑制することで白血病の発症と維持において負に制御していることを明らかにしている。そこで、白血病における自然免疫シグナルの治療応用の可能性の検証した。想定通り、白血病細胞株においてTLR1/2アゴニストの抗腫瘍効果が確認できたが、高用量の投与が必要であったため、治療応用へは障壁があることも確認された。その機序として申請者は、OGTを介した幅広いタンパクにおけるN-アセチルグルコサミン修飾が関与していると考え、現在研究を継続している。
吉見 竜介
アブストラクト
研究報告書
横浜市立大学医学部 血液・免疫・感染症内科学全身性エリテマトーデスにおける自己抗体の病原性について100
全身性自己免疫疾患における自己抗体の病的意義は不明であり,病態解明の障壁のひとつとなっている.本研究では全身性エリテマトーデス(SLE)における抗TRIM21抗体が病態をどのように修飾するかを解析した.その結果,血清中の抗TRIM21抗体の存在はSLE患者におけるB細胞の異常とI型IFNの過剰産生に関連していた.自己抗体がどのように自己抗原の機能に影響を与えるかを調べるために,IgGを血球細胞とともに培養したところ,IgGの細胞内移行が確認され,いくつかのToll様受容体リガンドの刺激がこれを促進することも分かった.以上から,血清中の抗TRIM21抗体が細胞内のTRIM21抗原の機能を阻害する可能性が示唆された.また,別のTRIMファミリー分子であるTRIM20/pyrinがβ2ミクログロブリンと結合してインフラマソーム形成を誘導することも明らかにした.
渡邊 洋平
アブストラクト
研究報告書
京都府立医科大学 感染病態学新型コロナウイルス感染症の新たな重症化機序の解明100
 新型コロナウイルス感染においては、重症患者にサイトカインストームが誘導されてARDSや多臓器不全が報告されているが、ウイルス側の作用機序は不明である。本研究では、新型コロナウイルスがヒト細胞において膨大なリード数の5’ゲノム末端の断片を過剰産生することを明らかにした。この異常なRNAは強いIFN-b誘導能があり、さらに細胞外にエクソソームを介して放出されていた。これらの知見は、宿主適応過渡期にある新型コロナウイルスが生体内でmini viral RNAを過剰産生して強い免疫誘導を惹起して重症化に関わる病態機序を示している。今後、COVID-19患者の血中mini viral RNA量と重症度の相関性を評価する臨床試験へと展開し、COVID-19の新しい重症化マーカーとして利用できるか評価する予定である。

令和2年度(第22回)
血液医学分野 若手研究者助成金受領者一覧
<交付件数:10件、助成額:1,000万円>

輸血・細胞療法とその関連領域

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
平山 真弓
アブストラクト
研究報告書
熊本大学病院 中央検査部RNAヘリケースDDX41の遺伝子変異が誘因となるR-loopの蓄積が造血器腫瘍を発症させるメカニズムの解明100
骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病などの骨髄系造血器腫瘍で、約2%の割合でDEAD-box 型RNAヘリケースをコードするDDX41遺伝子に変異を認める。本研究はDDX41の生物学的な機能ならびにDDX41の異常が造血器腫瘍を誘発する機序を明らかにすることが目的である。様々な実験結果より、DDX41遺伝子変異が造血障害を起こす機序として、(1)DDX41異常によりRNAスプライシングの遅延が起こる。(2)RNAスプライシングが遅延することにより転写伸長も障害される。(3)転写伸長の障害がR-loopの蓄積とDNA損傷応答シグナルの活性化を招くが、その程度はあくまでマイルドであり、マイルドであるが故にS期にはこれが見過ごされ、分裂期に移行する。(4)R-loopが残されたまま細胞分裂を迎えることにより、顕著な分裂期の異常が生じ、分裂後の細胞で細胞死やゲノム不安定を呈する、と想定している。
藤原 英晃
アブストラクト
研究報告書
岡山大学病院 血液・腫瘍内科腸内細菌叢dysbiosisと同種造血細胞移植後GVHDを発症させる代謝チェックポイントに着目したGVHD新規発症機序の解明と新規治療法の開発100
 腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)と移植片対宿主病(以下GVHD)は関連しているが、その機序は不明である。本研究では、腸上皮のミトコンドリア機能異常がdysbiosisを引き起こすという新たな機序に着目し、腸上皮細胞内において代謝チェックポイントである複合体II(MCII)に着目した。
 低酸素特異的染色では、GVHDマウスの腸管内腔酸素濃度上昇及び腸管上皮細胞内酸素濃度上昇を示した。細胞外フラックスアナライザーを用いた解析では、GVHDマウス腸管上皮MCIIの特異的障害を認めた。メタボローム解析や組織蛍光免疫染色でも、腸管上皮特異的MCII蛋白障害が明らかとなった。GVHD→ミトコンドリア障害→腸管酸素濃度上昇→dysbiosis→腸管上皮細胞のエネルギー不足による組織恒常性の低下が明らかとなった。今後はMCII障害発生機序の解明を行い、免疫細胞に対する抵抗性を維持する方法を検討する。
Md. Fakruddin
アブストラクト
研究報告書
熊本大学国際先端医学研究機構 幹細胞ストレス研究室ミトコンドリアtRNAのタウリン修飾はユビキチン-プロテアソーム系を介して最終赤血球分化を調節する100
ミトコンドリアtRNAのタウリン修飾を触媒する酵素であるMto1の造血系における役割を解析するため、Mto1の造血系特異的KOマウスを作成し解析を行った。造血特異的Mto1KOマウスは多染性赤芽球レベルでの分化障害による強度の貧血により胎生致死となり、その表現型は胎児期特異的であった。
造血特異的Mto1KOマウスでは内部に鉄を多く含むミトコンドリア呼吸鎖複合体Iが欠失し、細胞質への鉄の偏在が示唆された。その結果としてヘム合成亢進による胎児型ヘモグロビン産生亢進、さらにそれによるXbp1のスプライシングを伴うERストレス反応の亢進が認められた。また、鉄キレート剤により造血特異的Mto1KOマウスのERストレス反応および赤血球分化障害の改善が認められた。
本研究はミトコンドリアtRNA修飾の異常が細胞内の鉄動態を変化させることを示す独創的なものであり、本研究分野に新たな視点を提供するものである。

血液・血管に関連する再生医学

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
木村 健一
アブストラクト
研究報告書
筑波大学生存ダイナミクス研究センター細胞系譜解析を用いた骨髄造血微小環境の形成メカニズムの解明100
間葉系幹細胞(MSCs)は、その多分化能や組織再生能を利用した再生医療のツールとして注目されている。しかし、MSCsの生体内での動態や分化能について不明な点が多く、治療の有効性や作用機序が不明確なまま、臨床応用が先行しているケースも少なくない。そのため、安全で効果的な治療法の確立のため、生体内のMSCsの性質の解明が望まれている。
本研究では、ニッチを形成するMSCsに高発現するCD73に着目し、レポーターマウスを用いて骨髄ニッチ維持機構における役割を解明することを目的とした。マウスより樹立したCD73陽性MSCsは、増殖能および骨軟骨細胞への分化能の高い集団であることが明らかとなった。これらの細胞群は骨損傷時の骨軟骨形成および骨髄ニッチの再構築に重要な役割を果たすことが明らかとなった。今後、細胞系譜解析をさらに進め、骨髄ニッチを構成するCD73陽性細胞を包括的に解析する予定である。

感染・免疫・アレルギーとその関連領域

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
神田 真聡
アブストラクト
研究報告書
札幌医科大学医学部 免疫・リウマチ内科学新規マイクロプロテインMKMP78のマクロファージにおける機能解析100
我々は先行研究により新規マイクロプロテインMKMP78を発見した。このタンパクの機能は未知であり、本研究ではMKMP78の発現が予想されるマクロファージにおけるその分子機能の解析を目的とした。ヒト単球細胞株THP-1から誘導したM0,M1,M2マクロファージではMKMP78 mRNAの発現亢進を認めたが、ウエスタンブロッティングを用いたタンパク定量では逆にタンパク量は減少していた。その乖離の原因は追究できていない。MKMP78の分子機能を予想するために共役分子のスクリーニングとしてprotein interaction screen on peptide matrices (PRISMA)を行ったところ、335個のタンパク質との相互作用の可能性が示唆された。
小池 拓矢
アブストラクト
研究報告書
大阪大学免疫学フロンティア研究センター 分化制御研究室新規レポーターマウスを用いた長寿命抗体産生細胞の可視化とその動態解析100
抗体による感染防御が時に数十年と持続するのは、抗体産生細胞である形質細胞の一部が骨髄で長期に生存し、抗体を産生し続けるからである。その生体防御における重要性にもかかわらず、短寿命形質細胞と長寿命形質細胞を識別可能な分子マーカーが存在しなかったために、長寿命形質細胞の研究は進展してこなかった。申請者らは長寿命形質細胞を特異的に蛍光標識できる遺伝子改変マウスを作製し、骨髄に移行した形質細胞の約1割のみが長寿命形質細胞へと成熟することを発見した。また、骨髄流入直後の形質細胞はB220+ MHCII+の表現型を示すが、長寿命形質細胞はB220- MHCII-であることを見出した。さらに、骨髄に流入直後では動いている形質細胞が観察できるが、全ての長寿命形質細胞は静止していることを明らかにした。以上の結果から骨髄の中の限定された環境に形質細胞が生着することが、形質細胞の長寿命化に重要であることが推察される。
材木 義隆
アブストラクト
研究報告書
金沢大学附属病院 血液内科再生不良性貧血における7番染色体欠失クローン進化機序の解明100
再生不良性貧血(AA)患者における微小モノソミー7(-7)クローンの保有率やその自然経過を明らかし、また二次性骨髄形成症候群や急性骨髄性白血病の早期発見と早期治療の有用性を探るために、シングルセルレベルで-7を検出する方法の開発に取り組んだ。その結果、7番染色体の短腕と長腕に位置する2種類の高発現RNA上の高頻度SNPを利用したone step RT-qPCR法により、-7を正常細胞と明確に区別して検出できることを見出した。また、7番染色体由来の蛋白質発現量が、-7症例では健常人と比較して半減していることから、蛋白発現量が低い細胞集団をソーティングすることにより-7細胞集団を濃縮しうることを明らかにした。今後、新たに開発した2種類の方法などを用いてAA患者における微小-7クローンのマススクリーニングを実施する予定である。
新澤 直明
アブストラクト
研究報告書
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 国際環境寄生虫病学分野次世代シーケンサー解析とゲノム編集によるマラリア原虫の赤血球侵入機構の解明100
マラリア原虫メロゾイトの赤血球侵入は多数のタンパク質が関わる複雑な現象であり、その機構の大部分が未だに明らかになっていない。本研究では、独自に開発したマラリア原虫のゲノム編集技術によってメロゾイト形成期にmRNAが存在する5つのAP2転写因子のGFP融合遺伝子発現株を作出した。GFP観察による発現時期解析を行い、これらが時期を変えながら順番に発現していくことを明らかにした。次に、ChIP-seq法による標的遺伝子解析の結果、複数の転写因子がお互いに標的を重複させながら、メロゾイト形成に必要な遺伝子の段階的な転写制御を行うことが示唆された。この知見は、メロゾイトの形成原理の解明に重要な緒となる。一方で、標的遺伝子の中には多くの機能未知遺伝子が得られ、これらの中には、新規の侵入関連因子が含まれていることが期待される。
田中 繁
アブストラクト
研究報告書
千葉大学医学部附属病院 アレルギー・膠原病内科上皮由来サイトカインTSLPによる腸管制御性T細胞の成熟機構の解明100
制御性T細胞(Treg)は免疫恒常性維持に必須の細胞サブセットである。近年の研究により、各臓器には特異的な遺伝子発現を持つTregが存在し、それらが組織恒常性に重要な働きを持つことが明らかとなってきたが、大腸のTregの機能成熟に関連する因子やその機構についての知見は未だ十分ではない。我々は大腸のTregには上皮由来サイトカインであるTSLPの受容体が発現していることを見出した。また、Treg特異的にTSLP受容体を欠損するマウスでは実験的大腸炎が悪化した。TregにおいてTSLP刺激はmTOR経路を活性化し、脂肪酸取り込みを増強することでTregの機能を調整していることが示唆された。これらの結果から、腸管上皮細胞が産生するTSLPの刺激によって、Tregは大腸に豊富に存在する脂肪酸を積極的に代謝することが可能となり、その機能を維持していると考えられた。
三宅 健介
アブストラクト
研究報告書
東京医科歯科大学 統合研究機構 高等研究院 炎症・感染・免疫研究室好塩基球・M2マクロファージによる皮膚慢性アレルギー炎症抑制機構の解明100
アトピー性皮膚炎をはじめとする慢性アレルギー炎症の病態には不明点が数多く残されている。マウスのIgE 依存性慢性皮膚アレルギー炎症(IgE-CAI)モデルにおいては活性化した好塩基球由来IL-4 により誘導された炎症抑制型M2 マクロファージがアレルギー炎症収束に重要な役割を果たすが、その分子機構は明らかになっていない。M2マクロファージによる炎症収束機構を解明するために申請者は、皮膚アレルギー炎症局所のシングルセルRNA シーケンス解析を行った。その結果、炎症後期に死細胞クリアランス能の高いM2 マクロファージが誘導され、速やかに死細胞除去を行うことで炎症収束へと導くことが明らかになった。以上から、好塩基球由来IL-4による皮膚アレルギー炎症収束機構の一端が解明された。本研究をさらに発展させることで、アトピー性皮膚炎などの皮膚アレルギー症状を改善する新規治療標的の発見への波及が期待される。

令和2年度
血液医学分野 若手研究者継続助成金受領者
<交付件数:1件、助成額:100万円>

血液・血管に関連する再生医学

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
井上 大地
アブストラクト
研究報告書
神戸医療産業都市推進機構 先端医療研究センター 血液・腫瘍研究部造血幹細胞の機能回復を目的としたエキソソーム創薬100
骨髄異形成症候群は高齢者に多く、造血幹細胞移植以外に根治療法のない難治疾患であり、造血幹細胞の遺伝子変異、形態異常を伴う血球減少、白血病への進展を特徴とする。これまでの我々の研究において、MDSのモデルマウスでは骨の菲薄化が進んでおり、MDS細胞由来のエキソソームが間葉系幹細胞の骨芽細胞系列への分化を抑制し、本来有する正常な造血幹細胞の支持能が喪失することを見出した。本研究では、MDS細胞が残存する正常造血幹細胞を間接的に抑制する機構について、単一細胞レベルでのトランスクリプトーム解析や、エキソソームやそれに含有されるmicroRNAの観点から迫り、MDSにおいて間葉系幹細胞の転写プログラムがmicroRNAによりどのように脱制御されるのかその詳細な分子機構を明らかとした。

令和2年度 (第38回)
血液医学分野 海外留学助成金受領者一覧
<交付件数:2件、助成額:1,000万円>

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
(留学先)
原田 介斗東海大学医学部 内科学系 血液腫瘍内科制御性T細胞による慢性骨髄性白血病幹細胞の支持機構解明500
Georg-Speyer-Haus Institute for Tumor Biology and Experimental Therapy, Germany
三浦 宏平新潟大学大学院医歯学総合研究科 消化器・一般外科学分野HMGB1制御による肝マージナルグラフト生着率改善の試み500
University Clinical Hospital Murcia Virgen de la Arrixaca, Spain
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