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精神薬療分野 「2024年度」

2024年度(第57回)
精神薬療分野 一般研究助成金受領者一覧
<交付件数:21件、助成額:2,100万円>

統合失調症

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
鬼塚 俊明
アブストラクト
研究報告書
榊原病院 精神科 臨床研究部統合失調症・双極性障害の前向きASSR研究 ー入院治療前後の比較ー2100
本研究の目的は、入院前後の統合失調症、双極性障害、大うつ病性障害、自閉スペクトラム症のASSRを調べ、臨床指標との相関を検索することである。統合失調症および自閉スペクトラム症では、同期γ活動および自発γ活動の両面において類似した健常対照者からの偏倚パターンが認められた。一方、気分障害群(双極性障害および大うつ病性障害)では、同期γ活動指標においてのみ偏倚が認められ、自発γ活動指標では明確な異常は観察されなかった。また、別サンプルではPLFが健常者に比べ、ASDにおいて有意に低下していた。症状と位相同期性の関連では、対人的働きかけの質において位相同期性と有意な負の相関を認めた(r=-0.539,p=0.031)。本研究は、ASSRが統合失調症およびASDに共通する神経生理学的特性を捉え得る一方で、大うつ病性障害や双極性障害とは異なる病態基盤を反映する可能性を示した。
小松 浩
アブストラクト
研究報告書
東北大学病院 精神科統合失調症と緑内障における網膜菲薄化・血管病態機序の異同解明を通した診療技術開発1100
近年、統合失調症において光干渉断層計(OCT)を用いた網膜解析研究が進展しているが、網膜血管変化については一貫した見解が得られていない。本研究では、OCT/OCT angiography(OCTA)を用いて統合失調症患者の網膜構造および血管密度を評価した。統合失調症患者23名と健常対照16名(計77眼)を対象に解析した結果、年齢・性別・BMIを調整後、統合失調症患者では複数の黄斑領域において網膜表在血管密度(SVD)の有意な増加を認め、SVDは認知機能指標と負の相関を示した。今後は緑内障患者との比較を通じて、網膜血管・構造変化の共通点と相違点を明らかにする予定である。これらの結果は、統合失調症における網膜微小血管変化が病態機序を反映する生物学的指標となり得る可能性を示唆する。
宮田 淳
アブストラクト
研究報告書
愛知医科大学医学部 精神科学講座MRIと脳波による統合失調症の異常サリエンスとE/Iバランスの病態関連の解明1100
統合失調症では中脳-線条体のドーパミン過剰により、刺激に過剰なサリエンスが帰属され、妄想や幻覚が形成されると考えられている(異常サリエンス仮説)。一方、脳波におけるガンマ振動は、興奮性ニューロンと抑制性ニューロンの間の興奮・抑制バランス(E/Iバランス)により起こると考えられ、統合失調症では興奮性ニューロンの樹状突起密度の減少によりE/Iバランスが興奮に傾くと考えられているが、両者の関連は不明である。本研究では安静時fMRI、拡散 MRI、および脳波を組み合わせることでこれを明らかにすることを目的とした。愛知医科大学病院で初めての研究用のMRI撮像および脳波の準備を進めつつ、既存のデータを用いて中脳ー線条体における異常サリエンスの局在性を明らかにした。この結果と本研究の継続により、異常サリエンスのバイオマーカーシーズを脳波に落とし込み、臨床応用可能性を高めることが期待できる。
渡部 雄一郎
アブストラクト
研究報告書
新潟大学医歯学総合病院 魚沼地域医療教育センター 精神科統合失調症の発症に大きな効果をもつデノボ変異の同定1100
デノボ生殖細胞系列変異は統合失調症の発症に大きな効果をもつことが示されているが、デノボ体細胞変異の寄与は未だ解明されていない。統合失調症患者・両親67家系の患者73人には高深度(460×)、両親134人には通常深度(116×)の全エクソームシーケンスを実施した。サンガーシーケンスおよび超高深度標的アンプリコンシーケンス(71,375×)により、稀な非同義デノボ生殖細胞系列変異62個および体細胞変異98個が検証された。生殖細胞系列変異および体細胞変異の遺伝子オントロジー解析では、それぞれ1個(外部刺激に対する反応の調節)および9個(アクチンフィラメントやアクチン細胞骨格など)のタームが名目上有意(P < 0.01)であった。デノボ生殖細胞系列変異のみならずデノボ体細胞変異も統合失調症の発症リスクに寄与している可能性が示唆された。

気分障害

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
相澤 秀紀
アブストラクト
研究報告書
広島大学医系科学研究科 神経生物学手綱核の神経炎症によるうつ病の病態理解へ向けた臨床前研究1100
うつ病では手綱核の血流上昇やストレスへの応答異常がみられる事から、手綱核はうつ病の責任病巣として近年急激に注目を集めている。本研究では、手綱核の病的活性化に至る機構をマウスを用いて検討した。研究の結果、手綱核を活性化させたマウスでは、自発行動が一時的に減弱し、行動量の低下を示していた。このようなマウスの手綱核を調べると、対照群と比較して、炎症性マーカー遺伝子の発現上昇が観察され、神経活動の持続的活性化により神経炎症反応が誘導されていた。また、スライス標本を用いたin vitroの実験結果により、LPSによる急性の神経炎症は、手綱核神経細胞の活動性上昇を引き起こすことが明らかとなった。本研究で示された手綱核における神経細胞−グリア細胞の双方向における作用は、一時的な神経活動上昇が、グリア細胞の活性化を介して増幅し、慢性的な神経活動上昇に至る可能性を示唆するものである。
岩田 仲生
アブストラクト
研究報告書
藤田医科大学医学部 精神神経科学講座双極性障害と非精神疾患や検査値に関する形質との遺伝的相関の検証1100
本研究では、双極症と多数の非精神疾患および臨床検査値形質との遺伝的相関を明らかにすることを目的とした。日本人双極性障害GWASと、日本人の非精神疾患および臨床検査値のGWASデータを用いた既存解析結果を基に、PGCおよびUK Biobankのヨーロッパ人GWASデータとのメタ解析を行った。日本人・ヨーロッパ人で共通して解析可能であった非精神疾患形質および臨床検査値形質28形質についてLDSC解析を実施した。その結果、双極症は総コレステロール、HDL-C、LDL-C、喫煙開始年齢と正の遺伝的相関を示し、肺癌、2型糖尿病、BMIとは負の相関を示した。これらの結果は、双極症と代謝異常症関連形質との間に複雑な遺伝的共有が存在する可能性を示唆し、双極性症の長期予後や個別化医療を考える上で重要な知見を提供する。
西田 圭一郎
アブストラクト
研究報告書
大阪医科薬科大学医学部 神経精神医学教室EEGマイクロステイト技術を活用した在宅用tDCS療法の開発と検証1100
うつ病は前頭前野など感情・認知関連領域の機能異常を伴い、神経ネットワーク活動の動的評価指標として脳波マイクロステート解析が注目されている。本研究では、経頭蓋直流電気刺激(tDCS)がうつ病患者のマイクロステート特性に及ぼす影響を検討した。大うつ病性障害19例に対し、背内側前頭前野または左背外側前頭前野を対象に1 mA・20分間のtDCSを施行し、刺激前後のEEGを解析した。その結果、両刺激条件でmicrostate map Dの持続時間と寄与率が有意に増加し、DLPFC刺激後ではmap D→C遷移量の変化が状態不安変化と有意な相関を示した。tDCSは短時間で前頭ネットワークの動的特性を修飾し、不安関連回路に影響を与える可能性が示唆された。EEGマイクロステート解析は、tDCS効果の客観的モニタリングや在宅治療支援への応用が期待される。
朴 秀賢
アブストラクト
研究報告書
熊本大学大学院生命科学研究部 神経精神医学講座海馬アストロサイトにおけるSGK1に着目した電気けいれん療法の作用機序解明1100
本研究は、うつ病治療として高い即効性を示す電気けいれん療法(ECT)の作用機序における海馬アストロサイト内分子SGK1の役割を解明することを目的とした。うつ病病態や抗うつ効果にはアストロサイトと海馬神経新生が重要であり、先行研究からSGK1がECTによる症状改善に関与する候補分子として同定されている。本研究では、アストロサイト特異的にSGK1を操作するin vivo実験系の構築を試みたが、GFAPプロモーターを用いたAAVベクターでは十分な細胞選択性を得られなかった。今後は他のプロモーターやCre-LoxP系の導入が必要と考えられる。SGK1経路の解明は、ECTに代わる新規即効性抗うつ薬開発につながる可能性があり、臨床的意義は大きい。
森 大輔
アブストラクト
研究報告書
名古屋大学 脳とこころの研究センターPCDH15欠失双極症モデルマウスにおけるLY354740の薬効評価1100
双極症のリスクバリアントであるPCDH15欠失は、マウスにおいて消灯直後の過活動および体温日内変動の増大を引き起こすことが知られている。本研究では、Pcdh15欠失マウスを用い、AMPA受容体(AMPAR)関連機構に着目した薬理学的介入を行った。その結果、AMPAR作動薬は一過性の効果にとどまった一方、AMPAR拮抗薬ペランパネルは過活動および体温変動を安定して改善した。これらの知見は、Pcdh15欠失モデルにおける病態がAMPAR機能低下そのものではなく、皮質神経回路の過剰興奮制御不全に起因する可能性を示唆しており、既存薬の新規適応や精神疾患の病態理解に貢献するものと考えられる。

脳器質疾患・認知症

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
麻生 悌二郎
アブストラクト
研究報告書
高知大学教育研究部 医療学系 基礎医学部門 遺伝子機能解析学講座抗アルツハイマー病因子BRI2/BRI3の機能活性化の認知症創薬への応用2100
アルツハイマー病に対する根本治療薬の開発を目指して、中分子化合物(55,295サンプル)のライブラリーを対象にNRBP1とBRI2間の相互作用を特異的に阻害する化合物のハイスループットスクリーニング(HTS)を実施した。同定した13個のヒット化合物について培養細胞を用いた三次/高次評価を行った結果、類縁関係にある2つの化合物が濃度依存的なBRI2ユビキチン化の抑制、細胞内在性BRI2の増加及びAβ凝集の抑制を誘導したが、両化合物ともAβ産生は抑制できないことが判明した。両化合物がNRBP1-BRI2間結合は阻害するが、BRI2-APP間結合は阻害しないことから、(1)両化合物がBRI2と直接結合してBRI2に立体構造の変化を誘起すること、(2)当該立体構造変化によりBRI2のAPPへの結合性が変化し、β-及びγ-セクレターゼのAPPへの結合部位をマスクできなくなる可能性、が考えられた。
倉重 毅志
アブストラクト
研究報告書
呉医療センター・中国がんセンター 臨床研究部FTLD-TDPの生前病理診断法の開発2100
FTLD-TDPは生前に病理サブタイプを確定し難いため,治療開発の障壁となっている.本研究では末梢組織でのTDP-43病理を指標にバイオマーカー導出を目指した.ALS剖検11例/非ALS12例でpTDP-43陽性筋内神経束割合が舌下神経核・腰髄前角の残存細胞数等と相関し中枢病理を反映し,さらにALS剖検6例では皮膚(真皮~皮下脂肪)神経束内軸索にpTDP-43を全例で認め,非ALSでは陰性であった.さらに,FTLD-TDP剖検3例でも約6割の神経束が陽性で,生検例でもALS/FTD発症例でも確認した.今後は対照疾患での特異性,病期別感度,判定閾値の標準化,PLA等による定量化が課題であるが,FTLD-TDPの生検病理診断には重要な一歩を達成したと考えている.
田中 良法
アブストラクト
研究報告書
岡山理科大学獣医学部 獣医学科 生化学講座新規オートファジー促進薬物によるFTLD-TDP療法の開発1100
プログラニュリン(PGRN)遺伝子のハプロ不全は、核タンパク質TDP-43の細胞質内蓄積を特徴とする前頭側頭葉変性症の原因となる。本研究では、我々が見出したオートファジー促進薬物アベマシクリブ(Abe)がPGRN産生低下に伴うオートファジー障害を回復し、病理形成を抑制できるか検討した。培養細胞では、PGRNは濃度依存的にオートファジーを促進し、病的なTDP-43蓄積を抑制した。AbeはPGRN産生低下によって生じるオートファジー障害を回復し、病的なTDP-43蓄積を抑制した。老齢のPGRN欠損マウスにおいても、Abeの経口投与によってオートリソソーム形成が促進し、TDP-43の細胞質内蓄積が抑制されることが示唆された。さらには、ミクログリアの活性化に伴う形態的な変化も抑制された。Abeがオートファジーの促進によりPGRN欠損に伴う病理の改善に寄与する可能性が示唆された。

発達障害

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
木村 大樹
アブストラクト
研究報告書
名古屋大学大学院医学系研究科 精神医学分野ポリジェニックリスクスコアを活用した自閉スペクトラム症臨床表現型予測法の開発1100
自閉スペクトラム症(ASD)は遺伝率が高く、病態解明にはRare variants と Common variants の統合的理解が重要である。本研究では、国内最大規模のASDコホートから得られたGWASデータおよびExomeデータを用いて、遺伝的要因と臨床症状の関連を総合的に解析した。まず、ASD患者約1000名と健常者約10000名のGenotypingデータに対して品質管理およびimputationを実施し、GWAS を行ったが、統計学的有意なASD関連座位は同定されなかった。次に、PGC-ASD GWASを基にPRScsxを用いてASD-PRS を算出し、臨床表現型との関連を検討したが、現段階では明確な関連は得られていない。一方、ASD450名のExome解析から、ASDに強い影響を及ぼしうるRare variants を抽出した。今後はRare と Common variants の統合解析を進め、PRS による予測精度向上や、遺伝的背景に基づく臨床症状の層別化を目指す。これにより、ASD の個別化医療や治療選択支援への応用が期待される。
桑子 賢一郎
アブストラクト
研究報告書
島根大学医学部 神経・筋肉生理学講座核から迫る自閉スペクトラム症の新展開1100
自閉スペクトラム症(ASD)は社会性障害を主徴とする神経発達症であり、シナプス機能異常が主因とされてきたが未だに有効な治療法は確立されていない。本研究では、神経活動制御に必須の軸索起始部(AIS)と、核と細胞骨格をつなぐ核膜LINC複合体に焦点を当て、その連関による新たな発症機構の解明を目指した。LINC機能阻害マウスおよびASD由来Nesprin1(LINC複合体構成分子)変異マウスを解析した結果、大脳皮質ニューロンにおいてAISの短縮、神経活動の低下、さらには樹状突起スパイン密度の減少が認められた。加えて、Nesprin1変異マウスでは疾患様の行動異常が観察された。これらのことから、脳発達期における「LINC複合体によるAIS制御」の機能不全が神経活動低下とシナプス形成異常を介してASD発症に関与する可能性が示唆された。本研究成果は、ASDの新たな治療戦略の開発につながると期待される。
仲地 ゆたか
アブストラクト
研究報告書
熊本大学大学院生命科学研究部 分子脳科学講座自閉症モデルマウスRNA-seqデータを用いた転移因子L1の大規模発現解析1100
自閉症スペクトラム (ASD) など精神疾患では遺伝要因の強い関与が示唆されるものの,近年のゲノムワイドな遺伝解析だけでは十分に遺伝要因を説明できない.近年ゲノム中で多くの領域を占めるレトロトランスポゾンLINE-1 (L1) による精神疾患の病因や病態への関与が注目されている.我々はRNA-seqデータから全長が保存された転移可能なL1 (rc-L1) の発現が同定可能なMORE-RNAseq (Mobile-Element Originated Reads Enrichment RNA sequencing) 法によりASDモデルマウスの脳由来RNA-seqデータを収集し解析したところ,複数のASD関連遺伝子変異マウスにてL1の発現変化が同定され,特定座位のL1の発現変化も共通してみられたことから,ASD病態におけるL1の関与が示唆された
松﨑 秀夫
アブストラクト
研究報告書
福井大学子どものこころの発達研究センター 脳機能発達研究部門自閉スペクトラム症児童を対象とする5-ALAリン酸塩経口投与効果の検証2100
ASDには生物学的根拠のある治療法がなく、申請者らは酸化ストレス異常に着目して5-ALAの効果を検討してきた。成人ASDでは5-ALAが常同行動を軽減する結果を得たが、児童への効果は不明であった。本研究ではASD児童43名を対象に、5-ALAリン酸塩1C/日の12週間投与によるプラセボ対照二重盲検試験を実施し、投与前後の心理検査(ABC-J、ADOS-2等)指標でASDの症候への効果を評価した。主要評価項目では、ABC-J常同行動スコアの変化に群間差はなく、副次的評価項目も有意差を示さなかった。安全性については有害事象は認められず問題なかった。一方、副次的評価項目のうちADOS-2の常同行動指標では5-ALA群により大きな改善傾向がみられ、今後の例数増加により有効性が示される可能性がある。小児に対する5-ALAの安全性は確認され、将来的な治験への基盤となり得る。
渡邉 惠
アブストラクト
研究報告書
国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 微細構造研究部マーモセットモデルを用いる自閉症の脳分子病態予測法の開発1100
自閉スペクトラム症(ASD)の脳ではさまざまな遺伝子発現変化が知られているが、脳の分子病態は容易に知ることができないため、血液バイオマーカーがあれば有用である。胎生期バルプロ酸曝露を用いるASDモデルマーモセットの大脳皮質トランスクリプトームは、ヒトASDと高い相関を示すことが知られている。本研究ではASDモデルマーモセットの血球細胞由来DNAのメチローム解析をRRBS法を用いて行った。その結果、約190個の差次的メチル化サイトがみつかった。これらのサイトを持つ遺伝子には、細胞接着・構造制御、転写制御・シグナル伝達、神経発生・シナプス機能等に関与するものが含まれ、ASDとの関連が示唆されている遺伝子も複数あった。本研究の成果は、将来の血液バイオマーカーに基づく診断に発展できる可能性がある。

その他

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
大橋 俊孝
アブストラクト
研究報告書
岡山大学学術研究院医歯薬学域 分子医化学分野バイオインフォマティクスによって導き出された神経性やせ症治療候補薬治療効果の検証1100
神経性食欲不振症(AN)は、極端な食事制限、体重増加への恐怖、臓器不全や脳萎縮による高い死亡率が特徴の重篤な精神疾患である。AN患者は複雑なセロトニン作動性調節異常を示すが、CTBP2、セロトニンシグナル伝達、PNN可塑性、およびANに特徴的な過活動性との間の分子間相互作用はほとんど解明されていない。
本研究では、主にラットセロトニン作動性細胞RN46A-B14を用いて、CTBP2のノックダウンまたはCTBP2の下流標的ERBB4阻害剤(Ibrutinib)処理によるセロトニン代謝酵素発現やPNN成分の遺伝子発現を解析した。
本研究によりCTBP2-ERBB4軸は下流経路(mTORおよびYAP/TAZ)を利用してセロトニン神経シグナル伝達を調節することが明らかにされた。これらは、代謝感知とセロトニン恒常性をつなぐ重要な多点調節メカニズムを示唆しており、さらなる詳細なメカニズムの解明が望まれる。
久保田 学
アブストラクト
研究報告書
京都大学大学院医学研究科 脳病態生理学講座(精神医学)手綱核およびその結合性に着目した統合失調症と自閉スペクトラム症の病態解明1100
【背景・目的】 手綱核は報酬系などを制御し、統合失調症(SCZ)・自閉スペクトラム症(ASD)の病態に関与が示唆される。本研究は、AIを用いた高精度手綱核自動分割(3T MRI)と7T MRSによる代謝物定量を用い、両疾患における手綱核の構造・機能的役割を検討した。
【結果】 SCZ群・ASD群ともに、手綱核の相対体積はControl群との有意差を認めず、全群で左側優位の体積が確認された。一方、ASD群では視床と右側頭頭頂接合部において、興奮性物質のマーカーであるグルタミン(Gln)量がControl群より有意に高値を示し、感覚特性と負の相関を示した。
【結論】 手綱核自体に明確な構造変化はみられなかったが、ASDではGln代謝異常が特性に関与することが示唆された。これは、手綱核を起点とするネットワークへの機能的アプローチの有効性を示唆する。
戸田 裕之
アブストラクト
研究報告書
防衛医科大学校 精神科学講座交通外傷後のPTSD発症の遺伝環境相互作用に関する研究1100
交通外傷後のPTSD発症の個人差を説明する遺伝環境相互作用を明らかにするため、救命救急センター入院の交通外傷患者を対象に多施設前向き観察研究を実施した(研究は継続中)。入院時にK6、IES-R、ACEs/ELS、ライフイベント、外傷重症度を評価し、血液から取得したDNAを用いてpolygenic risk score(PRS)およびHPA系関連遺伝子のDNAメチル化を解析、fMRIを受傷直後と2か月後に撮像し、CAPS-5等で12か月まで追跡した。中間解析77例では欠測が多いが、入院時K6≥5は44.3%、IES-R≥24は31.4%、6か月後K6≥5は28.6%、12か月後30.6%で遷延例が認められた。DNAは全例、脳画像は一部取得済みで、研究を継続してサンプル数拡大と追跡率改善を進め統合解析を行う。最終的に予測モデルを構築し、高リスク者の早期同定と予防的介入に資する基盤を整備する。
秀瀨 真輔
アブストラクト
研究報告書
帝京大学医学部 精神神経科学講座主要な精神疾患患者の脳脊髄液におけるニューロマーカーのプロテオミクス探索1100
Proximity Extension Assay法で脳脊髄液中ニューロマーカーとなり得る分子群を測定した。対象は統合失調症患者97名と健常対照者71名であった。脳脊髄液中CDH3、FcRL2、GZMA、NAAA、PLXNB1、sFRP-3値は統合失調症患者で健常対照者と比べて有意に低かった。脳脊髄液中BCAN、β-NGF、CPA2、CPM、CD200、DDR1、GDF-8、MANF、MDGA1、NAAA、NEP、NRP2、Nr-CAM、N-Cdase、NTRK2、NTRK3、PDGF-R-α、PLXNB3、RGMA、ROBO2、SPOCK1、THY1、WFIKKN1値は統合失調症患者のPANSS陽性スコアと有意に正に相関し、脳脊髄液中PRTG値はPANSS陰性スコアおよび総合精神病理スコアと有意に負に相関した。これらの分子群が統合失調症の特性マーカーおよび状態マーカーとして示唆された。
*応募区分1:精神疾患の病因、病態に関連する研究(遺伝子研究を含む)
*応募区分2:精神疾患の症状、診断、治療に関連する研究(症例研究や疫学研究を含む)

2024年度(第18回)
精神薬療分野 若手研究者助成金受領者一覧
<交付件数:10件、助成額:1,000万円>

統合失調症

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
大石 康博
アブストラクト
研究報告書
理化学研究所脳神経科学研究センター 触知覚生理研究チームトップダウン入力に起因する幻覚の神経機序と病態生理の解明1100
知覚は感覚入力と高次脳からのトップダウン(TD)入力の統合で成立し、その過剰な亢進は幻覚を生むと考えられるが、ヒトではTD回路を因果的に操作しにくい。そこでマウス体性感覚検出課題(合図に基づく遅延検出課題:CG-DDT)を確立し、S1と二次運動野M2の活動記録とM2→S1投射の光遺伝学的操作を行った。S1では後期応答、M2では遅延/持続発火が知覚と相関した。さらに刺激なしでもM2→S1軸索の光活性化で知覚報告(幻覚様知覚)が誘発され、S1局所のAMPA受容体遮断で消失した。TD回路が知覚成立と幻覚生成の双方に関与することを示し、疾患モデルでの幻覚機序解明と薬効評価基盤を提供する。
清田 正紘
アブストラクト
研究報告書
東京大学医学部附属病院 精神神経科脳構造に基づく統合失調症の疾患特異的ディメンションの同定1100
本研究は、統合失調症の病態異質性を検討するため、従来のサブタイプ分類に代わり、健常群と患者群の分布差に基づく次元的アプローチを用いた。健常者3251名、統合失調症患者577名の大規模構造MRIデータを用い、FreeSurferにより皮質下構造体積を算出し、年齢・性別・頭蓋内容積などの影響を統計的に除去した。健常群と患者群の平均および共分散の群間差を同時に反映する疾患関連軸を一般化固有値問題として抽出した結果、皮質下核体積減少と基底核体積増加に対応する2つの独立した基底が同定された。両次元の得点はいずれも患者群で高値を示したが、健常群との分布の重複は大きく、2つの次元で独立に広がっていた。これらの結果から、従来亜群として報告されてきた脳構造特徴は排他的ではなく、健常変動の延長線上に存在する複数の病態ディメンションとして同一患者内に共存しうる可能性が示唆された。
田村 俊介
アブストラクト
研究報告書
宮崎大学医学部 臨床神経科学講座 精神医学分野多角的な脳波特徴に基づく統合失調症の疾患サブタイプ分類1100
本研究では, 統合失調症及び健常者の大規模サンプル脳波データから多数の脳波特徴量を計算し, その結果に基づいて統合失調症患者の層別化を行うことを目的とした。さらに, 精神病発症リスク状態の患者で縦断的に計測された脳波データの解析を行い, 精神病発症リスク状態の患者の脳波が統合失調症者の脳波データで特定されたどのサブタイプに近い脳波を示すのかを調べた。解析の結果, 様々な脳波異常を示す統合失調症のサブタイプが特定されるとともに, 各サブタイプと陽性・陰性症状, 認知機能障害との関連はサブタイプ解析に使用する脳波特徴に応じて異なることが明らかになり, 多数の脳波特徴に基づくサブタイプ分類が異種性の高い統合失調症の病態解明において有用なアプローチであることが示された。また, サブタイプベースの脳波解析を精神病発症リスク状態の患者に適用することで, 早期介入による脳波異常の改善効果を確かめることが出来た。

脳器質疾患・認知症

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
北山 称大阪公立大学大学院医学研究科 発達小児医学自閉症スペクトラム障害に対する自家臍帯血有核細胞治療に関する研究2100
中野 将希
アブストラクト
研究報告書
滋賀医科大学神経難病研究センター 基礎研究ユニット 分子神経病理学部門加齢変容がもたらすアルツハイマー病分子病態の解明1100
アルツハイマー病(AD)の分子病態であるアミロイドβ(Aβ)蓄積を抑制する新規戦略の確立を目的として、老化に伴う全身循環因子と脳内分子の探索と機能解析を実施した。脳Aβ蓄積を示すAPPノックイン次世代型ADモデルマウスと月齢の異なる野生型マウスとの並体結合を行った結果、若齢野生型マウスとの並体結合で脳Aβ蓄積は抑制され、老齢野生型マウスとの並体結合で促進された。RNA-seq解析により脳Aβ量と有意に相関する分子を抽出し、10分子に絞り込み機能解析を実施したところ、5分子が脳Aβ蓄積制御に関与していた。特にアストロサイトに発現する分子Qは、トランスジェニックマウスとノックアウトマウスでも脳Aβ蓄積に影響し、Aβクリアランス促進に寄与することが示唆された。さらに、全身循環因子の同定に向け血清プロテオーム解析を進めており、個体老化に基づく新たなAD予防的治療標的の探索に繋がる可能性がある。
七浦 仁紀
アブストラクト
研究報告書
奈良県立医科大学 脳神経内科遺伝性精神疾患の治療基盤開発にむけた神経変性機構の解析1100
前頭側頭型認知症(FTD)/筋萎縮性側索硬化症(ALS) 等の精神神経疾患では、低複雑性(low-complexity : LC)ドメインを持つRNA結合タンパク質の相分離異常が病的なアミロイド様線維形成に重要であることが示唆されている。本研究は相分離を制御する因子および破綻要因に着目し、病態解明を目指すことを目的とした。FTD/ALS関連タンパク質であるFUS、TDP-43、hnRNPA2のLCドメインを用いた生化学的評価により、疾患関連変異が相分離性を変化させることを確認した。また相分離制御因子について新たな知見を得た。本研究で得られた相分離異常とその制御に関する知見は、FTD/ALSをはじめとする認知症・精神神経疾患の病態解明および治療法開発への基盤となることが期待される。

発達障害

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
國村 和史
アブストラクト
研究報告書
九州大学生体防御医学研究所 個体機能制御学部門 免疫遺伝学分野マルチオミクス手法を駆使した母胎環境起因性ADHDの発症機構の解明1100
母胎をとりまく環境因子と神経発達症の関連を示す疫学報告が増えているが、各要因が子の脳発達にどのようにして影響を与えるかは未だブラックボックスである。最近私は、遺伝子変異に依存せず、母体アレルギー発症時に引き起こされる母胎環境変化のみで発症するADHDマウスモデルを独自に確立した。そこで本マウスを用いて妊娠期から成獣期まで時間軸に沿ったマルチオミクス解析を行うことで、ADHD発症に繋がる鍵分子の探索・同定に挑んだ。その結果、ADHDを招きうる新たな分子経路と責任細胞を同定することに成功した。本経路について今後さらなる検証を進めていくことで、将来的に母胎環境に起因するADHDの発症を予見、または未然に防ぐための先制医療戦略が構築できる可能性がある。
六本木 麗子
アブストラクト
研究報告書
群馬大学大学院医学系研究科 薬理学講座AIを駆使したシナプス微細形態の解析;自閉スペクトラム症病態解明への挑戦1100
自閉スペクトラム症(ASD)の病態にはシナプス形成・維持の異常が関与すると考えられるが、従来の蛍光顕微鏡ではシナプス微細構造の異常の検出に限界があった。本研究では超解像蛍光顕微鏡である3D STEDを用いてASDモデルマウスのASD責任脳領域を観察した。得られた超解像画像データのAIによるハイスループット解析を行った。その結果、約8000個のシナプスの解析から興奮性シナプスの数や大きさなどの複数指標でASDモデル特異的な形態変化を見いだした。さらに、より高分解能でASDモデルマウスのシナプスを観察する目的で、3D STEDと膨張顕微鏡法を組み合わせた約8 nmの空間分解能の3D ExSTED法を開発した。これらの成果はASD発症の原因となるシナプス形態異常の同定と根本的病態解明、治療戦略構築に寄与すると期待される。また、早期診断や個別化治療をめざすバイオマーカー探索の基盤ともなりうる。

その他

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
奥村 啓樹
アブストラクト
研究報告書
名古屋大学医学部附属病院 薬剤部脳オルガノイド技術により挑む精神疾患小脳病態の解明1100
精神疾患横断的リスクバリアントであるASTN2欠失は、小脳に高発現することが知られている。本研究では、ASTN2欠失および精神疾患との関連が示唆される小脳に着目し、ヒトiPS細胞由来小脳オルガノイドを用いて分子・細胞機序の解析を行った。ASTN2欠失iPS細胞から小脳オルガノイドを誘導し、形態解析およびscRNA-seq解析を実施した。ASTN2欠失群ではオルガノイドサイズ低下と放射状グリアの有意な減少が認められ、放射状グリアにおいて細胞周期およびATP依存的DNA活性関連遺伝子への発現低下の集積、増殖期細胞およびMKI67陽性率低下が観察された。さらにZNF558発現低下とSPATA18発現増加、ミトコンドリア機能低下を示唆する分子変化が認められた。以上より、ASTN2欠失は放射状グリアの代謝依存的増殖障害を介して小脳発生異常を引き起こし、精神疾患の病態形成に関与する可能性が示唆された。
西谷 直也
アブストラクト
研究報告書
金沢大学医薬保健研究域薬学系 薬理学研究室外側中隔に着目した行動嗜癖の病態メカニズム解明1100
行動嗜癖は社会問題であるが、治療法は未確立である。本研究では、マウスの執拗なランニングホイール(RW)回転行動を指標としたオペラントRW課題を行動嗜癖の評価系として用い、報酬情報処理の中心である側坐核(NAc)へ投射するドパミン神経を制御すると考えられる外側中隔(LS)に着目した解析を行った。ファイバーフォトメトリーによるLS神経活動計測より、課題中のLS活動が欲求行動(鼻先挿入)直前に一過性に上昇し、報酬消費行動(RW走行)で低下する動態が観察された。また、薬理学的検討から、5-HT2A受容体阻害薬の全身投与は欲求行動を低下させ、行動嗜癖モデルにおける嗜癖形成を抑制する傾向にあった。これらの結果から、LS神経活動が行動嗜癖における欲求発現に重要である可能性、およびLSを含む領域の5-HT2A受容体が新規治療標的となり得る可能性が示唆された。
*応募区分1:精神疾患の病因、病態に関連する研究(遺伝子研究を含む)
*応募区分2:精神疾患の症状、診断、治療に関連する研究(症例研究や疫学研究を含む)

2024年度(第28回)
精神薬療分野 海外留学助成金受領者一覧
<交付件数:2件、助成額:1,000万円>

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
(留学先)
荒深 周生名古屋大学医学部附属病院 精神科高齢の統合失調症患者における認知症の神経病理学的基盤の探索500
Florey Institute of Neuroscience and Mental Health/University of Melbourne, Australia
古川 由己東京大学医学部 精神神経科抗精神病薬単剤療法抵抗性統合失調症の治療法の臨床疫学研究500
ミュンヘン工科大学

2024年度
精神薬療分野 若手研究者継続助成金受領者
<交付件数:1件、助成額:100万円>

その他

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
大塚 郁夫
アブストラクト
研究報告書
神戸大学大学院医学研究科 精神医学分野網羅的ゲノム・エピゲノムデータを用いた若年自殺行動の機序解明とリスクマーカー開発1100
 アジア最大の自殺/自殺未遂者GWASデータを構築し、国際自殺ゲノムコンソーシアムとの連携により、自殺未遂者も含めた7万例超の自殺行動者を対象としたGWASにまでスケールアップを行った。また白人・アジア人集団における自殺と主要精神疾患の遺伝要因共有度の比較を行った。網羅的エピゲノムデータ由来の生物学的老化指標や、GWASアレイデータ由来の体細胞モザイク頻度算出といった「自殺に関連する後天的なゲノム変化」の検討にも注力した。
 自殺行動に関連する複数の関連候補遺伝子領域の同定、自殺行動と他ヒト表現型との遺伝学的近似度の描出、自殺と主要精神疾患の遺伝学的関係性に白人とアジア人の人種差が存在すること、日本人統合失調症患者の集団における日本人自殺PRSの自殺行動予測能の優位性、若年自殺傾性者のエピゲノム年齢の異常老齢化や老化ペース亢進、自殺者体細胞の後天的染色体変化、といった知見を見出した。
*応募区分1:精神疾患の病因、病態に関連する研究(遺伝子研究を含む)
*応募区分2:精神疾患の症状、診断、治療に関連する研究(症例研究や疫学研究を含む)
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